第四十一話
「痛い……なんで俺がこんな目にあってるんだ?」
ライラから待機と言われてから数分後、ブツクサと文句を言う清雅の両腕には痛々しそうな歯形がくっきりとついていた。
「まさか歯形しかつかないとは……!」
「お前は噛み千切る気だったのか!?そうなのか!?おい!」
歯形を見てありえないと言わんばかりの表情をしたフィアに、清雅は半泣きになりながら突っ込む。
「うぅ……噛み千切れなかったよ……」
「ルーリス!お前もか!?お前もなのか!?」
シクシクと今にも泣き出しそうな顔で、ルーリスがそんな事を言うので、泣きたいのはこっちだ!と言わんばかりの形相で清雅は叫ぶ。そして、
「清雅。うるさい。もう少し静かに叫びなさい」
優奈が清雅を窘める
「……皆が俺をいじめるんだが、これは誰に訴えればいいんだ?」
「あぁ、かわいそうな清雅。貴方はもう助からないのよ」
ここぞとばかりにシャクナが影の中から出てきて、清雅の目の前で小馬鹿にするように笑いつつ、清雅の事を指差してそう言う。
「ぐぅ……う、うぜぇ……でも、俺もやったから何も出来ねぇ……」
「ふふふ。これで自分のやったことを後悔するが良いわ!」
ドヤァ…!と聞こえそうなくらいの表情でシャクナは言う。
「君たちは静かにできないの?まぁ、さっきの奴はもういないだろうけどさ」
やれやれ。といった感じの表情と声でライラがそういうと、
「まぁまぁ。楽しそうだから良いじゃないですか。逆に静かだと雰囲気も暗くなっちゃいますよ?」
と清花が苦笑いしつつ言った。
「う~ん、私が言いたいのはそういう事じゃないんだけど……はぁ、まぁ良いか。ほら、さっさと行くよ~」
ライラは、清花に少し勘違いされてるのかな?と思いつつ全員に声をかけ、それに気付いた清雅達はそれぞれ了承の声を出しながら立ち上がる。
曲がった先は階段があるだけだった。
「……なぁ、俺たちって、もしかしてさっきの奴が階段を上るのを待ってただけか?」
「そうだけど?」
何を当たり前な事を言ってるんだこいつは?と言いたげな顔で清雅の事を見るライラ。
「そ、そうか。いや、なんでもない。うん。なんでもないんだ……」
ライラの表情になぜか悲しくなった清雅は、顔を背けつつそう言った。
「そう?なら良いけど。じゃ、行くわよ~」
清雅の事を若干不思議に思いつつ、ライラは階段を上って行く。そして、その後ろをいつも通りついて行く清雅達。
階段の真ん中あたりまで上った時、ふと清雅は上を見上げた。
「……む?なんかふさがれてないか?蓋みたいのが見えるんだけど?」
「そりゃそうだよ。ばれたら困るじゃん?だから入口を閉じたんだよ」
清雅が疑問を口にすると、ライラ答えてくれる。それを聞いて、なるほど。と納得する。と、その時、
「ねぇ、ふと思ったんだけどさ?」
と優奈が声をあげる。
「あれだけ騒いでたからさ、さっき通った人が上の人達に通報してたりしない?」
その疑問に、全員が反応してライラの事を見る。
「…………」
ライラを始めとした全員が立ち止り、気まずい静寂がこの場を支配する。ライラは振り返り何かを考えているのだろうかは分からないが、露骨に目を逸らしている。
「……よし、とりあえず今は進もう。先の事を考えすぎても疲れるだけだ。うん」
沈黙に耐えきれず清雅が考えを先延ばしにするように提案し、全員はそれぞれ考えていた最悪の構図を振り払うように頷き、再び歩きはじめる。
入り口をふさいでいる石でできた蓋にたどり着いた時、全員は嫌な予感を感じつつ、すぐにでも逃げられるような体勢になる。
「……開けるよ?」
ライラの言葉に、全神経を集中させながら頷く。そして、ズゴゴッという石の擦れる音と共に蓋が開き――――
たったの一人の人影すら見えない薄暗い裏路地の様な所が眼前に広がる。
「……ふぅ。優奈ちゃんの言ったような事にならなくてよかった。全く、驚かせてくれちゃって。すごく疲れたよ」
ライラは、数秒辺りを警戒して視認による確認をした後、安堵のため息を漏らしながらそういう。
「ほら。さっさと出ちゃいましょ。誰かに見られないとも限らないでしょ」
スタスタと階段を上がっていくライラの後に続き、清雅達は裏道から脱出する。
「やった~!やっと外に出られた~!」
「わーい!わーい!」
フィアとルーリスは抱き合いながら外に出られたことを喜んでいた。
「どれだけ外に出たかったんだよ……いや、俺も人の事は言えないけどもな?」
「あぁ、自分でも分かってるんだ?てっきり自分じゃ分かってないのかと思ってた」
「あ~。うん。昔散々言われたからな。それに、苦手なもんは自分で分かるしな」
彼女たちの姿を見つつ、清雅と優奈はそう話していた。
「――――で。結局さっきの子に声を聞かせないようにしてたのは清花さんでしょ?」
「あれれ?気付いてました?」
「そりゃ気付くよ。そんなむちゃくちゃな事ができるのは清花さんとあの人くらいだろうからね」
「う~ん。それは買いかぶり過ぎですよ?他の人達もやろうと思えばやれますって」
「そんな事を言われても信用できないんだけども……はぁ。まぁ、清花さんがそういうならそういう事にしておこう。どうせ真実を聞きだそうとしたところで、望んだ答えなんか返ってこないだろうしね」
少しがっかりしたように言うライラと、笑いながらそれを聞く清花。そして、自分たちが出て来た石畳をバタンと閉じるのだった。




