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第三十二話

「――――ということで、目的地の変更は無い。何かあったらその場その場で対処。これでいいな?」


 清雅が確認のためにそう聞き、皆はそれに頷く。


「よし。っと、それと、移動もオリュに頑張ってもらうって事で良いか?」


 ふと思い出したことを清花に聞くと、清花は少し悩んだ後、自分の足元の影をコンコンと叩く。すると、その影からオリュが出てくる。その時、ルーリスが、ひゃあ!と驚いて素早く清雅の後ろに隠れてこっそりとオリュの事を覗き見る。そして、オリュは清花から簡単な説明を受けると、力強く頷いて了承してくれ、また影の中に入っていってしまった。しかし、優奈の


「ねぇ、それだとすごく目立つと思うんだけど」


という言葉で、清雅はさっきの案のリスクに気付く。


「あ~、じゃあ歩いた方が良いのか?でも、オリュになんか申し訳ないような……」


「あぁ、それは私が言っておきますよ」


 清雅が悩んでいると、清花が助け舟を出す。


「良いのか?まぁ、よろしく頼むよ。じゃ、そろそろ支度をしてこの村から逃げ出しますか」


と言うと、皆は支度をするために解散する。




 フィア達が出て行った部屋の中で、残った清雅は、


「さて。俺は特にすることは無いんだが……どうするかな……まぁ、先に下に降りてるか」


と呟く。それに対して、部屋がそもそも無いルーネは同意し、なぜか出てきているシャクナを追いかけているルーリスも、遅れて同意する。って、


「ちょっと待て。ルーリス。お前、シャクナが見えてんのか?」


 どこかおかしい事に気付いた清雅は、思わず突っ込む。そもそもシャクナが見えていないルーネは首を傾げているが、今は置いておく。言われたルーリスは、頭に?マークを浮かべて、


「そのシャクナって、この妖精さんの名前?」


「そうだけど……『この』って言ってるって事はやっぱり見えてるのか。あぁ、いや、なんでもない。ちょっと気になっただけだから」


 ルーリスが首を傾げながら少し不安げな顔で見ていたので、笑ってごまかし、なんでもないと言ってやり過ごす。ルーリスはどこか不満げな表情をしたが、シャクナが頭の上に乗ると、何事も無かったかのように清雅の所に歩いてくる。


 清雅はなぜ自分が懐かれているのか分からずそれを疑問に思うが、別に悪い事は無いのでこれは謎のままにしておくことにして、下に降りることにした。




 下に降りると、主人が謎の杖を持っていた。


「えっと、どうしたんです?」


 謎すぎて思わず清雅が聞くと、主人はこちらを向いて、


「あぁ、私もちょっと旅に出ようかと思ってね。っていうより、君たちについて行こうかと思ったんだけど、良いかな?」


と聞いてくる。清雅は少し悩むと、


「フィアが許可を出したら……かな?」


と、フィアに全権を投げる。すると後ろから、


「そこは清雅が決めようよ……」


と言われる。声的にフィアなのだが、なんで文句を言われてるんだ?と思いつつ振り返る。案の定そこにいたのはフィア達だったのだが、何故かフィアが頬を膨らませている。


「俺が決めても良かったのか?」


「別にかまわないわよ。私は人数が増えても楽しいだけだからね」


「そうか。じゃあ、大丈夫です」


「ありがと。今更だけど、私の名前はライラ・アルビスよ。とりあえず、さっさとここを出て行っちゃいましょ。追われてるんでしょ?」


 清雅が許可を出すと、笑みを浮かべつつ主人――――ライラはそういう。先に出てと言われ出ると、最後に出て来た主人は家の少し手前の地面を杖で刺し、


「解体」


と呟く。すると、家はベキベキッ!という音をたてつつ小さくなり、杖の周りに張り付いていく。清雅達はそれに驚き声も出なかった。


「さて、次はあれかな」


 清雅達が驚いていることを気にすることなくライラは襲い掛かろうとしている者達の方を向くと、眼光を鋭くして、その者達の事を見る。すると、その者達は動きをピタリと止める。それだけでなく、遠くにいた者や、フィア達も動いたら駄目だと感じ、硬直する。


 そのまま硬直状態が続くのかと清雅はひっそりと思ったのだが、ライラを見ていると、ライラの髪の色が根元からだんだんと深紅に変わっていき、それにつれてライラの威圧感もまるで別人の様に重く、強くなっていく。そして、毛先まで色が変わった時には、全身から汗が噴き出るような圧倒的威圧感。そして、ライラは口を開き、


「何をしている?」


と、襲い掛かろうとしていた者達に聞く。しかし、本人にとってはただの質問だったのだろうが、その一言は人を跪かせるには十分な威圧感。正直気絶したくなるような重圧だが、気絶したと同時に死ぬと本能が叫び、気絶をさせまいとしていた。それは、フィア達も例外ではなかった。影の中に潜んでいたルーネやオリュだけでなく、妖精で、常人には見えないはずのシャクナですら出てきてその場に跪く。


 が、その威圧感の中、たった二人だけ、その重圧に押しつぶされていない者がいた。清雅と清花である。しかし、二人はライラを止めるつもりは無いらしく、清雅はルーリスを恐怖に縛られない様に優しくなでながら、清花は少し距離を取って成り行きを見守っている。その姿をライラは横目で見つつ、


「私は言っただろう?私の邪魔をしたら消し飛ばすと。それがここに住む条件だったはずだ」


と、言葉を発する。その一言一言に心臓を握りつぶされたような威圧感に襲われ、ついに、襲い掛かろうとしていた者達は泡を吹いて倒れた。それを見たライラが、ふぅ、とため息をつくと、髪の色が元に戻っていく。多くの精神を削られたこの者達は、これからずっと、ずっと、悪夢にうなされ続けるのだろう。そう清雅は思ったが、とりあえず他の奴が倒れてないかを確認する。幸い、倒れたのは村の人達だけだったので、清雅達に被害は無かった。


「さ!行こうか!これで邪魔はされないと思うからね」


 ライラは先ほどのあの威圧感はなんだったんだと思うくらい軽く話しかけてくる。


「はぁ、ちょっと待ってくれよ。ライラさんのせいでみんな怯えて動けないんだから」


 清雅の一言で気付いたのか、清花と清雅以外の全員は、未だにその場で跪いて震えている。


「うわぁ、これくらいで怯えてるの?はぁ、しょうがないなぁ」


ライラはブツブツと言いながら、どこから取り出したのか分からない絨毯を その場に敷く。そして、それはフィア達の下にスッと入ると、ふわりと浮いて、フィア達を持ち上げ、そのままライラの方へ移動する。


「これで行けるね。じゃあ、ゴーゴー!」


 ライラは楽しそうに歩き、清花は苦笑いをしながら、清雅は疲れた様に肩を落としながらその後ろをついて行く。




「(跪いている奴らをつれて移動するとか、結構シュールだな……)」

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