第二十九話
「なんだ?」
「どこから現れた?」
と言う声が聞こえる。その中には叫んでいた者もいたが、清雅たちは先ほどまで存在していなかった人間が突如として出現したことに驚き、思考が停止していた。が、優奈はすぐに我に返り、
「逃げるわよ!」
と叫び、牢屋からすぐさま出る。優奈の声で我に返った清雅達は、フィアの先導の元急いで逃げようとするが、先ほど叫ばれた声で集まって来た傭兵の様な奴らが道をふさぐ。それを見た優奈が、
「鬱陶しい!」
と叫びながら集団に飛び蹴りをする。すると、
「ぐわ~!」
「むぎゃ~!」
と言いながら傭兵たちはボウリングのピンのように吹っ飛んでいく。その攻撃で最初にいた半数くらいは片付けられたのだが、その後ろからどんどん人がやってくる。それだけでなく、更に後ろからもやってきて、囲まれてしまった。
「魔法使うぞ」
「良いけど、あまり周りに被害が出ないのにしなさい」
了解。と短く清雅は言うと、シャクナを呼び、場所の情報を言うように命令した後に魔法を使う。
使用するのは闇。全てを切り裂く刃をイメージし、発動する直前に、自分で確認できる全ての照明を破壊し、消す。そして、辺りが闇に包まれたと同時に影の刃が襲い掛かる。突如辺りが暗くなったことに驚く傭兵たちは、ただでさえも避けづらい影の刃を全く見分けのつかない闇の中でくらう。
悲痛な叫びと、肉を裂く嫌な音が地下に響く。そして、暗くなって五秒も経たないうちに明かりが灯される。
「清雅?なんで暗くしたのかな?」
明かりを灯した本人であるフィアは、満面の笑みで――――しかし、確実に怒っているのが分かる。
「え、あ、その、影の範囲が広がるかなぁって思ってさ」
「ふぅん……でもさ、それ、私たちがくらうかもしれなかったよね?」
「ムグッ……確かにそうだけども……ま、まぁ、当たらなかったんだから良いじゃん?」
清雅が必死に言い訳すると、フィアは諦めた様にため息をつき、
「まぁ、確かに当たらなかったから良いけど、次は私たちのいない時にやってよ?」
「わ、分かった。次は気を付ける。出来るだけやらないようにするからさ」
はいはい。と、面倒くさそうにフィアは流して進んで行く。いつの間に集まっていたのか、優奈たちも一緒に進んでいた。
「ちょ、おいて行くなよ」
地味に置いてかれかけた清雅は、少し駆け足でフィア達の後を追う。
どれだけの照明を壊したのか、未だに暗い中を進んでいる中、
「なぁ、あれってなんだろ?」
そう言う清雅の視線の先には、二つの紅い点のようなモノがあった。少し近づいて行ってみると、それは鉄格子の向こうにあることが分かった。それが分かるなり清雅は、
「……フィア、ちょっと先に行っててくれ。俺はここで用事を済ませてから行く」
「え?あ、まぁ、分かったけど……出来るだけ早く来てよ?」
了解。と答えた清雅を置いてフィア達は先に行く。
「……さて、じゃあこの鉄格子の向こうにいるあの子に声をかけに言ってみるかな」
清雅はボソリとそう言い、明かりを作った後に鉄格子の鍵を破壊して中に入っていく。
その奥にいたのは、十代くらいのケモ耳の生えた少女だった。良く見ると、尻尾も生えている。その少女は、清雅の事を警戒しているのか、唸り声を発しており、まるで獣のようだった。
「警戒しなくても良い……ってのはさすがに無理があるか。じゃあどうすっかな……」
と、清雅が悩んでいると、少女は牙を剥いて襲い掛かってくる。
それに対して清雅は、避けようともせず、むしろ受け止めるように立つ。そして、少女はそのまま清雅の首筋に噛みつく。清雅は一瞬苦しそうな顔をするが、すぐに優しそうな顔になり、少女の背中を撫でながら、
「大丈夫だ。俺はお前に危害は加えないから。安心しろ。取りあえず、落ち着くんだ」
と落ち着かせつつ言う。その時、背中――――肩甲骨あたりに何か硬い物があることに気づく。が、清雅は今は気にしないようにして、そこを避けて撫でる。
それを五分くらい続けていると、ゆっくりとだが落ち着いてきたのか、首筋から口を離す。その首筋からは血が出ていたが、清雅は治そうとはせず、ただただ少女の事を落ち着かせようとしていた。
そして、更に五分くらい経ったとき、なんでここにいるのか聞くと、ゆっくりとだが答えてくれる。
「あのね?私はただふらりふらりとね?あっちこっち一人で旅をしてたの。そしたらね?ここの村に来た時にね?怖い顔をした人たちに捕まっちゃったの。それでこんな所にいるの」
「なるほどな。でも、なんで一人で?他に誰かいなかったのか?親とかさ」
「えっと、あの、私にはね?お父さんも、お母さんもいないの。生まれた時にはお世話をしてくれた人が居たんだけど、どこかに行っちゃった。それに、お友達もいなかったから、一人で旅をしてたの」
「あぁ、その、なんだ、すまなかったな。取りあえず、ここを出てからお前がどうするか考えるか」
「うん。分かった」
少女はそう言って清雅からおりて横に行くと、清雅の腕を掴んで歩く。
清雅は、歩けるならそこまで心は傷ついてはいないな。と思い、フィア達が進んでいった方向に行ってみるのだった。




