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世界に一人だけの医者  作者: 香坂 蓮
Karte 2 気胸
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ベルツ2等治癒師

いきなり多くの方に読んでいただき、感動しています。

拙文ですが今後ともよろしくお願いします。

 マリアが退院した日の夕方、リュウは一人の男のもとへと出向いていた。


「ベルツ先生、お久しぶりです」

「おぉリュウ君!よく来てくれたね。マリアちゃんという女の子がそっちに行かなかったかい?」

「はい。おかげ様でなんとか治すことが出来まして、今日はその報告に参りました」

「それは何よりだ!しかしどうやって?」

 

それからリュウは、虫垂炎という病気のメカニズムとそれに対する治療法を、丁寧に説明したのだった。


「う~む……毎度のことで慣れては来たが……やはり手術というのは聞くだけでも身震いしてしまうな」

「慣れれば大丈夫ですよ。実際先生も最初に比べるとだいぶ平気そうじゃないですか」

「いやいや……やはり老いぼれには刺激が強いよ」


 まだ40にもなっていないベルツ氏の言葉に、思わず苦笑いが漏れた。







 リュウがベルツ氏と知り合ったのは1年半程前のこと。

 いきなりの2等治癒師の来訪に、腰を抜かしたのを今でもリュウは覚えている。


 治癒師には階級があり、実力に応じて1等から5等まで分けられる。

 というのは建前で、1等はいわゆる王家お抱えの治癒師であり、これはほとんど世襲であるため普通はなれない。


 すなわち、街にいる医者の中でもっとも腕がいいのは2等治癒師であり、領地に一人いるかいないか、というくらい数が少ない。当然領地の権力者からも治療の依頼を受けることが多く、実際ベルツ氏はこの地の領主の診察も担当している。


 しかし一方でベルツ氏は一般市民の治療にも努力を惜しまず、治癒費もあまり取らない(法律で定められた2等級治癒師の最低治癒費分しか取らない)ため、この地の市民から絶大な信頼を得ていた。


 とはいえそんなエリート中のエリートが、駆け出しの3級治癒師の元を訪れるなどほとんどありえないことである。本来ならばこちらが出向かなければいけない立場なのだ。


 来訪の理由は、ベルツ氏が治せないと判断し安楽死を勧めた患者をリュウが治したこと。

患者の家族が、奇妙で残酷な方法で患者を治すことから「神か悪魔か」と噂になり始めたリュウにすがったのである。


 ベルツ氏は驚愕した。

 あれほどの病状を誰が治したのか、一体どれほどの魔力の持ち主なのかと。


 そしてリュウの元を訪れたベルツ氏は今度は違った意味での驚愕を味わうのである。

 リュウの魔力はお世辞にも強大とは言えなかった。無論医師として必要な力は持っているが、それでも自分より魔力があるということは絶対になかった。


 ではどうやってあの病気を治したのか?


 その方法を聞いてベルツ氏はさらに驚愕し、そして失神したのである。







「今回もいい勉強をさせてもらったよ。なかなか約束が守れなくて申し訳ない」

「とんでもないです。先生のような素晴しい方が私を味方してくれているというだけで力強いです」


 『約束』とは、ベルツ氏の元に弟子入りを希望する若い治療師をリュウの元によこし、医術を学ばせることである。当初はベルツ氏本人が医術を学びたいと熱望したのだが、彼は非常に忙しく、また2級治癒師としての立場も考えて断念したのだった。

 そしてそれ以来、リュウが手術を行う度にベルツ氏に報告と説明を行う習慣が出来たのである。


 ちなみに若い治癒師達は偉大なベルツ氏の元で学びたいという強い気持ちと、得体のしれない化け物であるリュウへの強い拒絶感を持ち合わせているため、今のところその約束は達成されていない。

 若い治癒師達に医術を教えることで、この世界の治癒に医術が合わさった新しい治療法が確立することはいまやリュウとベルツ氏の夢であると言っても過言ではないだろう。


「それでは失礼します」


 リュウは一礼し、ベルツ氏の元から家路についた。


(懐かしいな……たしか気胸だったっけ)


 リュウはベルツ氏と出会うきっかけとなった患者のことを思い出していた。


 まだソフィアが来たばっかりの頃、つまりまだ一人で手術をしなければいけなかったころの話である。



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