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世界に一人だけの医者  作者: 香坂 蓮
Karte 1 急性虫垂炎
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明日への一歩

4話完結が基本の形になると思います。というわけで虫垂炎編ラストです。

「ちょっとジッとしててね~……『病魔退散!』」

 マリアの身体が淡く光る。何度見ても幻想的な光景である。


 手術から3日が経っていた。

 マリアの容態はだいぶ落ち着いており、それに伴ってマリアの母の神経もだいぶ落ち着いていた。


 手術の翌日、意識は取り戻したもののまだ体力が回復しきっていないマリアに『病魔退散』をかけると説明した時は大変だった。


「先生!?マリアは……治っていないのですか?それとも何か違う病気なんですか!?」

「大丈夫ですよ、お母様。病気にならないようにするために魔法をかけるんです」


 『病魔退散』とは、身体の中の免疫力を高める魔法である。すなわち、術後の感染症の予防に非常に適しているのである。(ちなみに実際に感染症にかかってしまった場合は、『回復』を使う)

 リュウがかみ砕いて説明すると、不安そうな顔をしながらもマリアの母は納得したのだった。


「よしお終い!どこか痛いところとかはない?」

「大丈夫だよ、先生!」


 元気そのものである。この分だと、今日で流動食も終わりにして、明日か明後日には退院できそうだ。

 ちなみに元の世界では、虫垂炎の場合術後2~4日で退院できる。

 しかしこの世界は、元の世界ほど手術設備が整っていない。そのためより慎重な経過観察が必要となる。


 一方で、元の世界よりも便利なこともある。


 例えば、この世界ではいわゆる『縫合』と呼ばれる作業がほとんど必要ない。

 最後に開腹した部分を閉じ、『回復』の魔法をかければ傷はあっという間に塞がってしまう。そのため手術跡もほとんど目立たない。


「OK!じゃあもし何かあったら呼んでね」


 マリアの頭をぽんぽんと撫でてから、母親に一礼して病室を出た。



「せんせ!おつかれさまです」

「ありがと。マリアちゃんの食事なんだけど今日から普通のもので大丈夫だから」

「りょーかいです!」


 ソフィアはいわゆる敬礼の姿勢をとる。もともとこちらの世界にこんなポーズは無いのだが、リュウがやっていたのをマネして覚えたのだった。

 リュウが軽く頭を撫でると、ソフィアは満面の笑顔になる。一方リュウはリュウで、ソフィアのふかふかした髪を触るのがお気に入りであった。



「……ふぅ」

 リュウはソフィアがいれてくれたコーヒーを飲みながら一息つく。

 この世界にコーヒーがあって本当によかった。

 寝不足が当たり前の元の世界ではコーヒーが水の代わりだったが、いまは心を安らげてくれる嗜好品へと戻っている。

(今回もギリギリだった……)

 患者やその家族を不安にさせないように、ポーカーフェイスを保つことは医者の義務である。リュウは一切その不安を顔に出すことはしない。

 しかし実際、今回の手術でも不安点は多かった。


 例えば、既に虫垂が破裂しており、腹部に膿が大量にたまっていたら?


 生理食塩水で腹部を洗浄し、汚水は腹腔ドレナージと呼ばれる医療用の管を使って排出しなければならない。

 しかし、この世界に医療用のチューブは当然存在しない。

 よく使う道具であるため、知り合いに頼み作ってもらったのだが、元の世界のモノに比べると品質が劣る。

 そうなると手術におけるリスクは当然あがる。


 今回マリアの虫垂は、破裂寸前だった。本当に紙一重だったのである。


(このままじゃいつか失敗する)


 手術をするたびにリュウは思う。だからこそ一回の手術を何度も反省し、次の手術に繋げようと努力するようになった。


 もっと安全な治療法はないか?


 何かほかの魔法を治療に応用できないか?


 必要な道具の中で、この世界でも作れそうなものはないか?


 この世界に一人しかいない医者として、リュウの苦悩と努力の日々は続くのである。


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