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世界に一人だけの医者  作者: 香坂 蓮
Karte 3 火竜とスライム
14/34

感謝と労り

タイトルをつけるのが難しいです(>_<)

 民間療法についてまとめた『治癒のあれこれ』という本には、


「スライムの粘液に触れると、触れた部分がビリビリと痺れることがある。これはスライム毒によるものであり、このためむやみにスライムに触れることは控えるべきである。もし痺れが出てしまった場合、月葵草をすり潰したものを塗ると治る」


「スライムの粘液の毒抜きは、採取した粘液に、月葵草をすり潰した際に出る汁を加えてかき混ぜ、その後煮沸することによってなされる」


と記載されている。


 しびれに月葵草が効く、というのはリュウも知っている。

 田舎の村落などの月葵草が簡単に手に入るところでは、スライムに触れた時の治療はこの草を用いて行われており、リュウ自身も治癒師としての修業中にその草を用いて痺れを治したことがある。


 しかし都市部ではあまりスライムが発生せず、仮に触れてしまっても魔法で治すので「蜂にさされたら尿をかける」程度の認知度である。


 このようにこの世界で薬物療法は少ないながら存在するが、その大半はこのような田舎の民間療法であるといえる。

 この民間療法は、今回のように本当に効果があるものから、先ほどの「蜂にさされたら尿をかける」のような効果が見込めないものまで様々であり、使えるものと使えないものをしっかりと分類できればかなり使えるとリュウは常々思う。


 しかし、“『狼人病』にはエルフの血が有効”など試しようがないようなものも多く、なかなか分類は進んでいない。


 話はスライムの粘液に戻る。

 月葵草による中和作用により、粘液は触れても問題ない状態になっている。

 念のため、ガーゼに粘液をつけたものを腕に2~3時間貼ってみたが、痺れは出ていない。


 また、スライムの粘液を飲み込んでしまった事例も存在する。

 






 ある農村に一人の男がいた。

 農業で鍛えられたその肉体は屈強で、兵士にならないかという誘いが何度も来るほどだった。


 ある日、男が草原を歩いていると、鹿に出くわした。


 これはチャンスだ、かわいそうだが今日の夕食になってもらおう。


 そう思った男は鹿に向かって走り出す。


 しかし次の瞬間、男は草原に隠れて見えなかった馬糞を踏みつけ、派手に転んでしまう。


 突っ込んだ先にはそう、まさかのスライムである。


 顔からスライムに突っ込んだ男はスライムの粘液を思いっきり飲み込み悶絶した。


 苦しいなんてもんじゃなかった。


 幸いすぐに村の仲間が見つけてくれたものの、顔も痺れているためいまいち苦しさが伝わらない。


 舌がしびれて言葉が出ず、粘液を飲み込んだことも伝わらない。


 結局村人の一人が、「こいつもしかしてスライム食ったんでねーか?」と気付いてくれるまで、彼の舌と喉は痺れ続けたのだった。







 もはや笑い話のようになっているが、これは実話だそうだ。

 結局その男は苦い思いをして月葵草を飲み、痺れから解放されたらしい。

 その後病気になるといったこともなく、元気に暮らしたそうだ。


 つまり、スライムの粘液には、人を痺れさせる毒性の物質が含まれているだけであり、それ以外の毒物は含まれていないと推察できる。

 仮に毒物が含まれていたとしても、多量に摂取しなければ問題ないようなものであり、潤滑剤として使う程度には問題ないであろう。


 ただしこれはあくまで推察であり、患者に使う以上は心もとない。

 ならばやってやろうではないか……!


「いってきます!」


 お猪口サイズのコップに入った粘液を、リュウは意を決して飲み干した。


(これは……まずい!)


 喉に絡みつくねばっこさ、おそらく月葵草のものであろう苦味。

 バリウムなんかの比ではない飲みにくさである。


 もちろん月葵草は手元に用意してある。

 いざとなれば『病魔退散』でなんとかなるだろう。


(にしても痺れか……麻酔の代わりに使えないかな……)


 そんなことを考えながら、リュウはベッドに横たわった。

 なんだか妙に疲れていた。

「もしもスライムの毒にあたり、眠ったまま死んだらどうしよう」ということを考えなかったわけではない。しかし変なところで図太いリュウは、眠気と疲れには勝てず意識を手放したのだった。



「せ~んせ!ごはんできたよ~?」


 先ほどから何度か呼びかけても返答がない。これではご飯が冷めてしまう。

 軽くノックをし、ソフィアはリュウの私室へと入る。


 いつまで経っても懐かしい気持ちになる部屋……昔は毎晩一緒に寝てもらっていたのだ。


「せんせ?ねてるの~」


 そう言いながらソフィアはベッドへと近づく。

 リュウはすやすやと寝息をたてながら、幸せそうに眠っていた。


 その横にある机の上には、小さなコップと少し量のへったスライムの粘液が置いてあった。


「うわぁ……ほんとにのんだんだ……」


 相変わらずこの人は奇妙なことをする。必要なことなのだろうけど、変なものは変だ。


 それでもソフィアは思う。

 どれだけリュウが変なことをしても、最終的に彼はきっと正しいことをする。

 何があっても、彼のことは信頼できる。

 だって彼は、とっても優しい人だから。


――ちゅっ


 日頃の感謝と労りの気持ちは、リュウに伝わっただろうか……。


「せんせ!おきろ~!」

「ふぐっ!?」


 元気な声と共にリュウのお腹にダイブしたソフィアの頬は、淡いピンクに染まっていた。



リュウ

「今日の晩御飯は何を作ってくれたんだ?」


ソフィア

「はっぽーさいとあんかけちゃーはんだよ!」


リュウ

「おぉ!中華か~!」


ソフィア

「ぜんぶ、とろとろだよ?」


リュウ

「……ありがとな(^_^;)」

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