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世界に一人だけの医者  作者: 香坂 蓮
Karte 3 火竜とスライム
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試作品

 ラストニア王国のミルネタ伯爵領。

 その中心地であるラージョンの片隅にある『シルベスト病院』では、今日も元気な片言が響いていた。


「せんせ!きょうはなにをつくってるの?」

「これは“電メス”という道具だよ。まだ試作品だけどね」


 椅子に座っている銀髪の男は、顔をこちらに向けることなく答える。普段は愛想のいい彼なのだが、かなり集中しているのだろう。


 ソフィアもその空気を察したのか、ジッと黙ってその作業を見守る。

 なんだかんだで一緒に暮らし始めて1年半以上経つ。互いが互いを理解し思いやる今の空気が、ソフィアは大好きだった。



 約1年半前、ソフィアは死を覚悟した。

 病に倒れたソフィアを、主人は大いに罵倒した。まだこちらの言葉がほとんど理解できなかったため、何を言われているのかは分からなかったが、「大損だ!」という言葉だけはしっかりと覚えている。

 道端に打ち捨てられ、まるで汚物を見るような目で睨まれ、つばを吐きかけられた時、もう自分の人生はここで終わるんだ、とすべてを諦めた。


 それを助けてくれたのが目の前にいるリュウだ。

 この銀髪の変わり者は、ソフィアを見るなりどこから取り出したのか口を白い布で覆い、ドロドロに汚れたソフィアを抱き上げ自分の家へと運んでいったのだ。


 最初ははっきりいって怖かった。

 自分が何をされているのかが分からなかったら。

 体調が回復してきたことで、治療されているということが分かった。

 それでも怖かった。

 治ったら何をされるかが分からなかったから。


 結局身体が治っても、リュウは何もひどいことをしなかった。

 それどころかキレイな服をくれた。美味しいご飯を食べさせてくれた。私の家族を探すためドワーフの里まで連れて行ってくれた。


 その優しい笑顔に緊張していた気持ちが緩み、何度も大泣きした。


「この人とずっと一緒にいよう。この人が私にくれた幸せを、少しでもこの人に返していこう」


 その気持ちは今でも変わらず、いやあの時よりももっとリュウのことを好きになったぶん、膨らんでいた。







「よし……できた!」


 銀髪の男、リュウ・シルベストは顔を上げると、満面の笑みでソフィアを見た。


「なになに?なにができたの?」


 ソフィアは目を輝かせてリュウの手元を覗き込む。


 そこには鈍い光沢をもった、赤い刃先のメスが握られていた。

 持ち手の部分はどうやら普通の金属であり、何重にも布がまかれている。


「……めす?」


 日常生活ではまだ知らないことが多いが、簡単な医療用語は問題なく理解するソフィアを見るたびに、育て方を間違ったかなと思うリュウである。

 もっとも本人に言うと「わたしもう19さい!」とご立腹するのは間違いないので、内心の秘密にとどめているのだが……。


「刃の部分を火竜(サラマンダー)の鱗で作ったメスだよ。魔力を流し込むとこんな感じで刃が高温になる」


 リュウの言葉に応えるかのように、鈍い赤色だったメスの刃先は、光りを放つ高温の溶岩のような色へと変わった。


「メスがあついの?」


 ソフィアはきょとんとしている。その目からは「それに何の意味が?」という疑問が伝わってくる。


「そうだよ。熱いメスで手術をしたらどうなるよ思う?」

「……やけどしちゃう?」

「正解。その火傷を手術に利用するんだ」

「……?」


 ソフィアは全く理解できないのか、目を白黒させている。


「例えば、血がいっぱい出てる切り傷の上から熱い鉄を押し付けたらどうなると思う?」

「……とってもいたい」


 想像したのだろう……ソフィアの目には涙が浮かんでいる。


「そうだな……痛いよな。でも今はちょっと置いといて……火傷すると傷口の血が止まるんだ」

「ちがとまってもやけどはいたいよ?」

「大きな火傷ならね。でも例えば細い血管をほんの少し焼いて血を止められるんだったら便利だと思わない?」


 ソフィアは「う~ん」と考え込む。まぁ血管が火傷して痛いかどうかなんてなかなかイメージできないだろうし無理はない。


「手術の時に血管が多いところだから注意する、ってこと多いよな?ああいう時にこれを使うと切ったところの血が熱で固まるんだ。だから血が出て手術が止まることが無くなる」


 そこまでいうとソフィアも合点がいったらしい。直近の虫垂炎の手術の際も、途中出血が多い部分で手を止め、『回復』で治したりガーゼで押さえたりして出血を止めてから手術を進めたのを覚えていたのだろう。


「これが上手く作れるようなら鉗子の先を火竜(サラマンダー)の鱗にした道具も作りたいんだ。実際にどんな風に使うかは次の手術の時に実際見ながら勉強しような?」


 そう言って頭を撫でると、ソフィアは甘えたように喉を鳴らし、同意を示したのだった。


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