その九 フェチレベルが天元突破
第一章 神と龍とサラリーマン
その九
「つまりじゃ、可憐にして美しく健気でボインボイン。大和撫子イコール儂とゆうても過言じゃないどころか、お釣りが国家予算位くるほど”きゅうと”かつ”せくしい”で、もいっちょボインボインな儂の、目眩めく色気のぴんくたいふうんに、神の奴めもめろめろ。おっぱい!。おっぱい!。大事な事じゃから二回言いました。んで、その結果、東司が現れたという訳じゃ」
・・・・・・なんて言うか、色々突っ込みどころはあるんだが、
「その言い方だと、おっぱいのせいで転生させられたってことになるぞ・・・」
「うむ・・・。苦しゅうない。東司の憤りはよお分かるからの。ほれ、恨みをはらすと言う名目で儂の乳を好き放題するが良いぞ?。東司はほんっにおっぱいが好きじゃの」
やれやれじゃと腕を組んで胸を寄せて上げるユーフラン。
「だーかーらーーー。うがぁぁぁ!。確かに嫌いじゃあない!。それは認めよう!!。むしろ大好きだ!。ぷっはー!、このおっぱいの為に生きてるよなー。とか、当然飲むなら乳番絞り生中中だよな!。って社長とおっさんギャグで盛り上がる位大好きだ!!」
東司は「だがな?、それはそれとして」と言いつつユーフランをビシッと指さす。
「これは、絶っっ対、謝罪とは言わねーーー!!」
「むぅぅ・・・。じゃがのう東司・・・」
なんだか申し訳なさそうな顔でユーフランが言う。
「それではおっぱいが好きなのか、おっさんギャグが好きなのか分からんの?」
「そぉぉんな話してるんじゃ、ねーーー!!」
東司の慟哭とユーフランの愉悦に満ちた笑い声が湖底に響き渡る。
「大体、大体だな!、俺がくるまで龍の格好だったんじゃないのか?。それでボインボインとかお色気とかなんの話だ!?」
「むぅぅ。それはあれじゃ東司。龍ふぇちから見れば辛抱たまらんかったじゃろうということじゃ」
「神様どんだけレベルたけー変態なんだよ!」
「こらこら、異種族の美的感覚を変態呼ばわりは褒められんの?。それに変態とゆうなら東司が昔の彼女n・・・」
「わ、わーー!!。ごめんなさい。ごめんなさい。もうそれは許して!!。いやー龍良いんじゃないっすかね。全然問題ないっすよ!」
「なんじゃ?、東司も龍ふぇちかえ?。東司はほんっにレベルが高いのう。」
満面の笑みでいじってくるユーフラン。
「もう・・・、それでいいです・・・」
東司は泣きそうになりながら、がっくしと肩と落とすのだった。
今まで東司以外にユーフランの笑顔を見た事がある存在はいない。というか、対話した事自体東司が初めてだ。だからそれは誰にも、本人にも、ましてや神ですら判断がつかないだろうが、ユーフランは本当にハイテンションだった。有頂天だった。生まれて初めての会話を心底楽しんでいた。
ユーフランは最初に東司を見た時、自らの宿命が書き換わり、この男が自分の運命になったのだと気づいた。だから東司の趣味に合う見た目。口調。性格の傾向を取得したのだ。それはユーフランにとって宿命であり、龍神としての義務だった。東司には東司から知識を貰ったおかげで暴走は解除されたと、もう大丈夫じゃ、と本当の事を伝えてはいないが、実質問題として東司と結ばれなければ、また暴走するだろうし、今の感情を知った今となっては、今度は百年も耐えられないだろう。
だが、ユーフランは東司をからかいながら思う。
儂は東司と結ばれたい。
神のルール?。義務?。そんな事もうどうでも良い。東司の知識に”一目惚れに理由は無い”という言葉があったが、儂の一目惚れには理由がある。ただそれだけじゃ。
確かに神のお仕着せじゃったり、吊り橋理論じゃったりするかもしれんが、この楽しい感覚、愛しい感覚、東司に想って欲しいという気持ちに違和感など無いのじゃから。
ならば、それが儂の心で問題はない。
絶対に東司を落とすのじゃ。
東司に義務ではなく求められて結ばれるのじゃ。
欲しがります。番うまでは!。じゃ!。
おっと、とはゆうても番ってからも欲しがるがの、とクスクス笑いながら自分で自分に突っ込みを入れるユーフランだった。
「あー!もう謝罪は良いよ。許す許す。むしろ俺が許して欲しいくらい許す。」
だからレベル高い呼ばわりは勘弁してください、と呟きながら布団に座り直す。
「で、謝罪は置いといて、とにかく質問なんだけど、俺は元の世界には戻れるの?」
だがユーフランさんはすぐに質問には答えず、口元に手を当てて何やらぶつぶつ言っている。
「むぅおかしいのう・・・、これだけ言えば、『あーコン畜生!。こうなりゃヤってやらぁ!』、『あーれー(ぽっ)』となると思ったんじゃがの・・・」
「え?。何?。どうしたの?」
「いやいや何でもないのじゃ。元の世界だったかの?。少なくとも儂一人の力では無理じゃの。」
「ん?。一人じゃなければ出来るの?」
「あくまでもかもしれん、じゃよ?。儂は水の魔力を司っておるが、他に土・火・風を司る竜神がおるのじゃ、そやつらの力が借りれれば異世界移動が可能かもしれん。と言った所じゃ」
「地水火風・・・、四大元素ってやつか。あと三人と考えれば、七個タマ集めるよりは少ないけど、協力してくれるように説得付きと考えると、ハードル高いのかな?・・・」
ユーフランはそれを聞き、儂は絶対に協力せんから高いと言うより不可能じゃがの・・・と横を向きつつこっそり呟く。
「その三人の場所って分かるの?」
東司は自らの予定を根本から否定する最大勢力が目の前にいるとは露とも知らず、すまし顔をしている最強の敵対勢力に向かって質問する。
「というかじゃ、その前に一つ大きな問題があるんじゃよ。」
「え?、まだなんかあんの?。龍だけにクエストしないとダメとか?。まさかバスター?。協力して欲しければ俺に勝ってみろ!。とかだったら泣ける・・・。俺は低レベル勤め人なんで99まで程遠いよ?。」
「99までいっても、職業勤め人が戦うのは無謀じゃろうな。いや勇者でも賢者でも無謀な事は同じじゃがの。・・・そうじゃのう、逆に最終形態のグレン○ラガンにはまるで勝てる気がせんの。」
「無理だよ!。どこまで突破しなきゃダメなんだよ!。俺を誰だと思ってやがる!。だよ!」
つーかまずはコアドリルが無いと穴掘り東司にすらなれんぞ。
「最後の”だよ!”に照れを感じるのぅ・・・。まぁそれは置いといてじゃ、問題というのは、東司がどこから来たのか分からんと言う事じゃ」
「どこ?・・・。地球だけど・・・ってその情報だけじゃ無理ってこと?」
ユーフランは大きく頷き言う。
「さっき儂は東司がここに来た時の事を、何の予兆も余韻もなく突然現れた、とゆうたと思うんじゃが、予兆や余韻があれば元の世界を特定できたやもしれんが、現状まるっきり手がかりなしじゃ。言うならば検索機能無しの直URL打ち込みで、名前すら分からんサイトを探すような物じゃの」
東司がその手の打ち様の無さに、うげっと呻く。
「それにの、東司がこちらに来た時の手法が良く分からんのじゃ。例えば神が東司を二人に分けてそのうち一人をこちらに送ってきた場合、戻れたとしてもそこには既に東司が普通に暮らしておる可能性もあるし、逆に単に失踪扱いかもしれん。戻ってみんと分からんの。シュレディンガーの猫みたいな物じゃな。あとは時間の問題もあるやもしれん。つまり戻っても既に十年・百年と時代が違っとる可能性もあるということじゃ。そう言う意味では東司には残念じゃが、戻るというのは余り現実的な選択肢ではないのじゃよ」
「そーか・・・、戻れないのか・・・」
東司は、思ったより全然ショックがあるんだな、と呟いて布団に倒れ込む。
ユーフランは東司の翻意を願って一気に説き伏せるつもりだったのだが、自らの目論見がうまくいってない事に焦った。いや、と言うよりも何が何故うまくいってないのか分からなくて焦ったと言うべきだろう。
「と、東司?・・・そ、そうじゃ!。寝るなら添い寝でもどうじゃ?」
「・・・あーごめん。ユーフランさん。ちょっとだけ一人で考えさせてもらえるかな?」
「あ・・・・・・うん・・・」
東司は天井を見つめたまま部屋に残り、ユーフランは項垂れたまま部屋を出て行った。
ユーフランは寝室を出てから居間のちゃぶ台に突っ伏すまでずっと項垂れたままだった。いや、突っ伏しても項垂れているのに変わりはないか。
彼女は今、恥ずかしかった。後悔していた。反省していた。
自らが余りにも浮かれていて、自分の目的、自分の気持ちを成就させる事しか見えていなかった事に気がついたからだ。
だが、あえて第三者的視点で言わせて貰えば、今回の事ははしょうがない事だっただろう。何しろ東司の知識を吸収しているとは言え、舞い上がるのも初めて、他人の気持ちを考えるのも初めて、そして自分を省みるのも初めての経験なのだから。
人間の感情にマニュアルはない。一足す一が所詮概念の上でしか正しくないのと同じで、人間の感情の動きを決まり切ったパターンにはめる事は出来ない。ユーフランは東司の知識に非常に大切にしているモノ(つまり人間関係であったり物であったり地位とかだ)が無かった事で勘違いをしたのだ。
実際の所、東司の知識には、彼にとってそこまで大切なモノというカテゴリは無いが、しかし人は生きている限り、大なり小なり守りたいモノ、気に入っているモノが必ず生まれる。例え小さなモノでも、そう言ったモノが集まれば大切なモノが無いからと言って、決して軽視できる事ではないだろう。大体が急に問答無用で見知らぬ、しかも帰れない場所に連れ去られて、帰りたくないと思う人間は言うほど多くはないはずだ。
もしユーフランが別の世界に飛ばされたとしたら・・・
例え神のルールが無くとも、泣き悲しむだろう。暴れ狂うだろう。どうやってでも東司の元に帰ろうとするだろう。だと言うのに、如何に会話を楽しむのか。どうやったら東司の気が引けるか。なんとしてでも東司に帰るのを諦めさせるか。という自分の事しか考えていなかった。
「儂はもっと、東司の気持ちを考えるべきじゃった。」
その後悔はユーフランの心を強く締め付けた。
だがどうすれば良かったのか。
東司を帰す事はとてもじゃないけど耐えられない。
それに自分の気持ちを除いたとしても、この身はルールに縛られている。
そんなユーフランの反省と義務と欲望の三竦みの葛藤ががいよいよ五時間に及ぼうという頃、彼女は一つの結論を無理矢理だした。
でも!、それでもじゃ!!
嫌じゃ!、絶対に嫌じゃ!!
離れとうない!、帰しとうない!!
話したい!、睦み合いたい!!
一緒にいたい!!!!
ユーフランは立ち上がり寝室に戻っていく。
彼女は言わない、使わない、と決めていた神のルールについて話そうと思っていた。
東司が帰ったらこの世界が滅ぶと、その罪悪感の鎖に繋いでしまおうと決めていた。
客観的に見れば、東司が元の世界に戻るのはとてつもなく難しく、時間を置けば諦めるだろうから待てばいいだけなのだが、それでは自分の方が心代わりしそうだったのだ。
ユーフランは意を決して寝室の襖を開ける。
部屋から東司の声が聞こえてくる。
「ギガァ ドリルゥゥ ブr・・・・」
東司とユーフランが見つめ合う。
東司の顔が青くなり、赤くなる。真っ赤っかだ。
ユーフランの顔は変わらない。動かない。いや動いた。
ユーフランの瞳から涙がこぼれていく。
そんなに元の世界に戻りたいんじゃの。
グレン○ラガンまで天元突破してでも帰りたいんじゃの。
「いや!?、あのこれは・・・、なんというか・・・」
東司が真っ赤な顔で焦って言い訳を始めるが、ユーフランはそれを遮って、自らの望みを裏切って、心からの言葉を伝える。
「安心するのじゃ東司。儂が絶対に元の世界に帰すよ。」
ユーフランは泣きながら微笑んでいた。