その十七 ポロスワイン
第二章 めぐりあい?宇宙編
その十七 ポロスワイン
「副長分かっているな?」
ハッシュベルガ号の艦長室でサニードがカールを試すように言う。
カール副長はニヤリと笑って応えた。
「ええ艦長、バカンスだと思って気楽に行ってきますよ」
「ああ、それで良い」
サニードの思惑に、御使いの二人に対しての裏はない。
また、副長のカールに対しても裏と言うほどのものは無い。
副長を行かせるのは、この若く優秀な艦長候補の男が御使いと親しくなれれば、それが連邦にとって一番良いだろうという判断だ。その程度の思惑はカールも理解している。
ただエスタについては違う。艦にいる限り休暇を取らない彼女を休ませると言うのが、彼女を選んだ目的のひとつだった。
「予定より少し早いがハッシュベルガはクラチカで総点検に入る。三週間近く掛かるからケンタウリの次の星系まで連れて行ってもらえるようなら、通信だけ残して行っても良いぞ。点検が終わり次第追いかける」
「了解しました艦長。・・・クラチカの名産が食べれないのが少し残念ですがね」
「誰かに副長への土産を頼んでおこう。・・・あ・・・そうそう、出来ればケンタウリの名酒ポロスワインを頼めるか?」
「ポロスワインというと、馬の足の形をしたボトルに入っているやつですか? 確か限定生産で中々手に入らないという」
「ああ、そうだ。一度だけ飲んだ事があるが、中々素晴らしいワインだった。余り流通に乗らないが生産星ならば手に入るかもしれんと思ってな」
「では一つ探してみるとしましょう。・・・ではそろそろ行きます」
「ああ・・・副長 良い旅を!」
「良い旅を! 艦長」
*****
テラ星系 外宇宙ステーション プルートーを出発して約十五日。
俺達はケンタウリ星系の惑星ケイロンに到着した。
その十五日間はまぁあれだ。
ある日突然、封鎖された機関室で死んでいた機関長。
この密室の謎は解けたのじゃ! 水龍の名にかけて!
俺が・・・ヤったんです・・・
お約束だけど、そんなことは当然無く(ヤったと言うのは別の意味で有ったか訳だが)
ゲスト含めて七人で、テーブル・コート・画面上問わず様々なゲームで遊んだり、本読んだり(元の世界の本とは違うがこちらの世界にも色々な小説や漫画があった)、だらーとしたり、湯良さんと引きこもってみたりと好き勝手に過ごしていた。
まぁ魔力の供給以外には仕事なんてそうないしね。
ハッシュベルガから乗船したカールやエスタさんとも結構親しくなった。
特にカールは種類問わずゲームが強く、コート上以外でのゲームが好きで強い機関士のカレラ(女性)と俺の三人で勝ったり負けたりのかなり白熱した勝負を何度もした。
(女性の名前を呼び捨てなんてチキンな俺の性に合わないんだけど、かゆいから敬称をつけたら口を聞かないと言われたのでしゃあない)
ちなみに機関士は機関長でもあるドワーフのゴンド・ワングと身長30cmの妖精のカレラ・ワングの二人組で、コンビを組んで一緒にやっている腕の良い整備士だ。ちょうど一ヶ月ほど前に前の職場での契約が切れる所だったらしく、水龍教団に引き抜かれたとの事。
この二人は実は夫婦で、ロゼさんが言ってたがドワーフと妖精の夫婦はかなり珍しいというか聞いた事がないらしい。カレラがベタ惚れになって押しかけて落としたというから、世の中というか女性の心理はよく分からない。
まぁゲームには参加しないのに読書端末を持って常にカレラと一緒に行動しているゴンドを見ると、相思相愛なのは確からしいけどね。
エスタさんは最初の頃は堅かった上になにやら落ち着かない感じだったが、一週間過ぎる頃には馴れたのか湯良さんやロゼさんと仲良くおしゃべりをしてた。カールから聞いた内緒話によると、彼女が今回コロナ乗船で選ばれた理由は仕事の虫である彼女に休みを与える為だったらしいので、そう言った意味でもうまくいった様で何より。
そんな感じの十五日間だった。
現在は水龍教団ケイロン支部で挨拶やら式典の準備で俺達は大忙しだ。
残念ながら嘘だ。いやありがたい事に嘘と言うべきか、忙しいのはロゼさんだけだ。
俺と湯良さんは四日後のお披露目式典までは、最初にケイロン支店のお偉いさんに挨拶をするくらいで特に何もしなくても良いらしい。
そんな訳で初日はこれ幸いとばかりにケイロンの観光に出た。
ケンタウリ星系は人類がテラ星系から初めて来た星系だ。
それ故観光地もそれ関係が多い、
ケイロンに初めて降り立った最初の一歩の足跡。
クラチカ以外の惑星で初めて作られた第一次ケイロン基地跡。
初めてワープ航法を成功させた宇宙船リントニクス。
俺的にはさほど興味があるわけではないが、大勢でわいわい回るの自体は悪くないなと思いつつ適当に見て回った。
二日目は女性陣の希望で買い物に行く事になった。
昔、弟が結婚した時ハワイで挙式したのでハワイまで行ったんだけど、奥さんの家族が買い物好きで三日間デパートに付き合わされて以来、女性の買い物におつきあいするのは気乗りしないんだけど、買い物には付き合いたくねーとは言えないし、しょうがないわな・・・
てな訳でデパートに来たわけだけど、残念ながら俺の心配は杞憂に終わらなかった。
エスタさんが非常に買い物好きというか、弟の奥さん一族と同じで店を回って調べた上でじゃないと買わない人だったのだ。
そして朝九時から現在時刻午後六時まで食事以外ノンストップで買い物というかお店巡りに付き合わされて、俺は精神的にくたくただった。湯良さんは楽しそうに付き合ってるし、カールは「まぁこんなもんだろ?」と甲斐性があるというか手馴れてる感じだが、俺にはきちー・・・
俺なんかは、正直色々回らなくても適当に決め打ちすれば言いじゃんって思ってしまうだけにきつい。
まぁ夕方になって、夜は教団で会食の予定だったので、一旦戻る事になったのだが、帰る前に艦長に頼まれていたポロスワインを探したいというカールに付き合って、デパート内にあるリカーショップに寄ったが、残念ながらお目当てのお酒は無かった。
ポロスワインはブドウとブルーベリーの品種改良で作られたブルーチェリーというケイロン特産の果実から作られるアイスワインで、別名のアメジストワインという呼び名から分かるように紫がかった濃い青色をしているワインだ。デザートワインとして人気が高くすぐに売り切れるらしい。
店員の話では、本来なら一昨日から新酒を販売している筈だったのだが、二週間ほど入荷が遅れてとの事。
カールは無いなら諦めるさと言っていたが、実は俺も飲んでみたかったし、何より明日も買い物とか言われた日にはマジ勘弁と泣きが入るところだったので、これ幸いと明日にでも直接ワイナリーに行ってみよう! と提案したところ、親切な店員さんがわざわざ行かれるのならその場で売ってくれる様に頼んでおいてくれるという話だったので、明日はワイナリー見学と相成った。
ちなみにエスタさんは結局見るだけで何も買ってなかったので、本当に良いの? って聞いたら、見るだけで買う気は無かった。とか言われて、
え!? 買う気無いのにあんなに一生懸命値段チェックしてたの!?
本当に女性の買い物好きは理解出来ん・・・と余計にくたびれたのは内緒の話な?
・・・きっと優しいエスタさんは空気読んで、明日こそ買うつもりだったのを諦めてくれたんだと思う。
・・・そうであってくれ・・・
滞在三日目、ホテルのロビーで待ち合わせしてワイナリーに行く予定だったが、カールとエスタさんが連邦の制服姿で荷物を持って待ち合わせ場所に来ていた。
「済まんねトウジ。実はついさっき連絡があって急遽ハッシュベルガに戻らなくてはいけなくなってね。」
どうも緊急任務が入ったみたいだ。
「・・・ところで、ケイロンの後は何処に向かうか決まってるのかい?」
カールは真面目な顔で聞いてくる。
俺は、何て答えたものかと一瞬戸惑う。
「いや、別に行動予定を聞きたい訳じゃないんだ。なんて言うか・・・・・・今からガンマ宇宙域方面に向かうのはあまりお勧めしない。細かい事は言えないが、少々きな臭くなってきてね」
カールは渋い顔でそう言った。
「まぁ、友人からのちょっとした忠告だとでも思ってくれ」
「・・・ありがとうカール、よく考えるよ・・・」
カールは明るく微笑みながら言う。
「良ければワインは買っておいてくれ、いずれまたあった時にでも渡してくれればいい」
「ああ、分かった。その時は一緒に飲もう」
「ああ・・・ではユラ様もお元気で!」
それぞれ別れの挨拶を言い合ってから、カールとエスタさんは連邦軍のシャトルで飛んで行った。
「・・・主様よ、あれじゃまるで死亡フラグじゃぞ?」
二人が出発してから湯良さんに突っ込まれる。
「・・・げっ・・・ホントだ・・・」
やべー・・・言われて始めて気がつく驚愕の事実!?
無事で再開出来ますようにと心底本気で祈ったさ。なんたって友人だからな。