その十五 星の王子さま・・・?
予定より遅くなりました。済みません。
しかも、設定書きばっかで二重で申し訳ない・・・
第二章 めぐりあい?宇宙編
その十五 星の王子さま・・・?
銀河連邦軍所属エスタ・クランベリー少尉は三十分後を心待ちにしていた。
今回の目的地である人類発祥の星クラチカ。まさかこの星に来る事が出来るとは夢想だにしてなかったからだ。
一度は行ってみたいと思っていたが、その職務の都合上近くに来る事は無いと思っていた。何故なら休暇を取ってクラチカに行くにも年単位の休みでも取れないと行く事すら出来ない様な場所にいる事と、そして彼女の見た目がダークエルフであるからだ。
彼女自身は人間に育てられた、人間とダークエルフのハーフだが見た目がダークエルフで有る以上、第一次銀河戦争以来ダークエルフの事を恨んでいる人間は多いし、現在もダークエルフと連邦との対立関係は続いているのだ。それ故連邦の勢力圏内では一人旅などそうそう出来ない。
とはいえ仮にクラチカの近くに偶然来て、安全に旅が出来たとしても、彼女が休暇を申請してまで行く事は無かっただろう。
彼女は銀河連邦軍、最新鋭遊撃艦「ハッシュベルガ」に所属する有能な準ブリッジ士官だが、やはり艦内においても余りいい目では見ない者が多数だ。艦長と副艦長が出来た人間であり、同時に元銀河連邦の英雄と言われたエスタの祖父の事を尊敬している為、偏見の目から守ってくれるおかげでやっていけてるのだ。それが無ければとてもやっていけなかっただろうし、そもそも最新鋭艦に乗る事などあり得なかった。
現在彼女は艦長と副艦長に恩を返す事と、周りの偏見を少しでも晴らす事を生き甲斐にしており、特別休暇申請など軍に入ってから一度も出していない。つまり立派なワーカホリックだった。
そんな仕事の虫にとって今回の任務であるクラチカへの客員送迎任務は、休まずに好奇心を満たせる最高に都合の良い機会だった。とはいえ彼女自身はクラチカに降りない居残り組として既に手を挙げている。ちなみに手を挙げた際に艦長と副艦長にしょうがない奴だなという顔をされたのもいつもの事だった。
そんな生真面目なエスタがブリッジで哨戒任務に就きながら珍しく任務以外の事を考えていた時、彼女の担当している端末に反応があった。
「えっ?・・・Eシグナル!? (エマージェンシーシグナル)」
彼女はコントロールパネルを素早く操作し状況を確認する。
「副長! Eシグナル確認! 方角はU10L4、距離百SLS(光の速度で百秒、約三千万km)」
ハッシュベルガ副艦長、カール・T・ウイリアムス中佐は即座に指示を出す。
「ワープアウト! テッド中尉、通信を開始せよ! エスタ少尉、状況を確認せよ」
「プルートーのタイムスケジュールにて該当すると思われる船舶確認。水龍教団所有 のコロナ号と思われます。」
エスタは副艦長が指示を出す前から調べ始めていた為すぐに結果を報告する。
「近辺のパトロールは?」
「3隻あるパトロール艦の内、近い二隻は他の遭難船の保護に向かっている模様です」
更に通信士官から報告が入る。
「副長、通信に応答があります。」
「スクリーンに出せ」
メインスクリーンに通信相手が映し出される。
そこには顔に紅葉を浮かばせた男が立っていた。
「海賊を捕縛した?・・・」
カールはトウジ・ハットリと名乗る男から事情を聞くと唸った。
「ええ、それでどうしたら良いものかと」
逃げ切ったならばともかく、民間船が海賊を返り討ちにしたなど滅多に聞く話ではない。とんだ間抜けな海賊だな、と嘆息しながら、これからその宙域に向かうので待つように指示をし通信を終える。
「”艦長”」
「・・・どうした副長。何かあったか?」
カールがハッシュベルガ艦長、サニード・ジャンリック大佐を呼び出すと、少しの間をあけて返事が来た。
「ゲストとのご歓談中に失礼します。百SLSの地点で海賊に襲われた民間船からEシグナルを受信しました。」
「なに? ならば直ちに救助に向かい給え」
「それが面白い事に、海賊を撃退捕縛したので引き取ってくれという話です」
「撃退した? 民間船がか?・・・興味深い・・・私もブリッジに行く。」
「そう言われると思いました。お待ちしております艦長」
とても軍艦とは思えない様な言動だが、ハッシュベルガではいつもの光景だ。とは言え決して規律が乱れている訳ではない。
連邦”軍”という呼び名ではあっても、単純な意味での軍隊ではなく、連邦領域内外の調査探索に始まり、治安維持や場合によっては外交や星間紛争の調停役としての活動を連邦規範に従って行う存在だ。
そのあり方は軍隊というよりも古い中世時代の王権主義国家における騎士や地方領主に近い。王より領地を与えられ普段は領地の運営を行い領民の性活を守り、いざ王より声が掛かれば国を守る為に戦いに出る。その王が連邦であり、領地がハッシュベルガであり、領民が連邦民である。
では何故そのような中世の体制に逆戻りするような形になったのか?
それは通信装置の相対的な劣化による物だ。通信速度自体は亜空間通信により、光速の一万倍に該当するスピードでのやりとりが可能になったが、現在の人類の活動域は約一万光年であり、辺境同士で情報を伝え合うにはそのスピードでも一年程掛かる。これでは通信どころか電報にすらならない。
事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ! なんてドラマが有ったが、正にそれを地でいく状態な訳だ。何かしらの行動を起こすのにいちいち本部に問い合わせしていては何一つ解決できなくなるが故、軍艦の艦長は規範は絶対厳守だが、細かい部分は全て独自で判断する事になっている為、独立独歩の気概が強くそれ故に艦の雰囲気は艦長の方針により大きく異なる。
そして、やる時はやる。抜く時は抜く。リラックスこそが大切な事だ。それがハッシュベルガの艦長、サニードのモットーだった。
ブリッジにサニード艦長が入ってきた時には既に艦は現場に到着していた。
サニードは副長から手短に状況の報告を受け、一瞬眉をひそめてから通信を再開する。
「私は銀河連邦所属、USSハッシュベルガ号艦長、サニード・ジャンリック大佐だ。連邦の領域を守る者として、海賊を捕縛してくれた事を感謝する。」
サニードはスクリーンに向かって微笑みながらお礼を言う。だが決して目は笑っていない。サニードは厳しい視線のまま言葉を続ける。
「・・・所で今こちらでスキャンしたところ、その船にはこれと言った武装は搭載されていないようだが、いったいどのように海賊を撃退したのか教えていただけないだろうか?」
いざ現場に到着してみれば、ブラスターまで持っていた海賊船がシールドを破壊され、武装も推進装置も破壊された無残な姿をさらしている。しかも三隻もだ。
サニードは不思議を通り越してもはや不審といってもいい目で、スクリーンに映るコロナ号の船長の顔を見ていた。
*****
識別番号 USS-MRC-7085671D
船名 コロナ号
所属 水龍教団
ミズノ社製D級船舶で最大乗員数三百人
全長280m、全幅130m、全高60m
外見は上から見ると卵の様な形で後方(尖っていない方)の左右に小さな曲線を描いた切り込みが入っておりインパルスエンジンのノズルが少し見えている。横から見てと上からプレスされて通常の半分につぶれた卵のような形状だ。
最新型の船だけ有って中々たいした設備を持っており、中でも一番の目玉はAIナビゲーションシステムを搭載している事だろう。
表向きに公開されている情報はそう言った所だろうか。
当然そう言うからには裏向きの顔があり、本来のコロナ号はミズノ社の実験機であり、コンセプトを一言で言うと「機械にやらせるから難しい。ならば人間がやればいい。」だ。
達成目標としては本来ワープ4が精一杯のD級の船でワープ5やワープ6を実現する、と言う事になる。
この世界のワープとは船自体が光速や光速以上のスピードで移動するのではなく、ワープバブルと言われる特殊な亜空間フィールドを作り出し、そのフィールド自体を光速で移動させる事で実現している。(船自体はワープバブルに包まれて浮かんでいるだけだ)
その際、ワープバブルを複数張る事で速度が増し、二枚ならワープ2、五枚ならワープ5と枚数に応じて速度が増加するのだが、技術的に難しい部分はこの重ねていくと言う所である。。
ワープバブルという物は重ねれば重ねるほど安定させるのが難しくなっていき、現状ワープ5以上については高出力魔導エンジンと高性能なワープコアが必須となってしまうのが現状だ。
今までは如何に小さくするか、性能を上げるかがワープ技術開発の肝だったが、ミズノの技術者はそこで今までと違うアプローチを考えた。
それがコンセプトである「機械にやらせるから難しい。ならば人間がやればいい。」に繋がっている。
内容は単純で、四枚目までは通常通りワープコアを通して張り、五枚目以降は非常に魔力が高い者で構成された三百人の乗員が集団で専用の魔導器を使って魔法を掛ける事で五枚目以降のワープバブルを張りワープ5を実現する、というやり方だ。
現在のワープコア式だと操作が安定しない。人がやるには魔力が足りない。というジレンマを強引なやり方で突破しようとした訳だ。
(なお、その際に悪のりした技術者によって三百人が魔力を集める事で強力な一撃を放てるメガマジックボルトも搭載されており、その初稼働が先ほどの海賊との戦闘である。)
実験は一応成功、ワープ5をマークした。
そして一通りのデータを取ったところでミズノのオーナーである水龍教団より元水龍様用に新型艦を用意するように言われ、ミズノとしても非常に高い魔力を持つ三百人をいつまでも束縛できなかった事もあり、実験船の仕様の秘匿と、人間離れした魔力を持つという元水龍様による実験船の使用データの二つを交換条件に、改装した後引き渡す事となったのだった。
なお余談だが、この実験の結果、百年後に魔力タンクの魔力を人が直接操作する新型ワープドライブが開発され、ワープ7が実用化される事となる。
*****
いやー、思わずやっちゃったけど、一体どう説明したもんだろうか・・・
俺はサニード艦長に睨まれつつ、既に浮かぶだけになった三隻の海賊船を横目に見ながら見ながら悩んでいた。
こんな状況になったのはあの後、海賊の武装を解除しただけで終わらなかった為だ。何があったのかを端的に言うと
1:海賊の武装を解除する。
2:海賊船が逃げようとしたので取り敢えず推進装置を破壊。
3:海賊が仲間を二隻呼び寄せる。
4:海賊の攻撃をシールドで防ぎながらも同じ手口で無力化。
5:再度放心していたロゼさんにニヤニヤしながら、どうしたらいいかな? といじって上げたら今度は平手を食らう。
6:再度死の選択をさせられそうな雰囲気がしてきたので、取り敢えずパトロールを呼ぼうとEシグナルを発信した。
まぁそれですぐに反応があったところまでは良かったんだけどさ。
そりゃ確かに民間船が海賊三隻返り討ちにしたなんて胡散臭い事この上ないに決まってるわな・・・
向こうの艦長は胡散臭げな顔で見てるし、船の仕様は秘密にしないといけないし、どうしたものか・・・
「えーちょっと特殊な船でして・・・何というか・・・」
俺が頭を悩ませてると横からロゼさんがフォローをしてくれる。
「サニード艦長、僭越ですがそれは私の方からご説明させていただきたいと思います。」
「ええ、もちろん構いません。・・・えーと失礼ですがお名前をお伺いしても?」
「私、水龍教団クラチカ本部の総務部、部長代理を勤めております。ローゼリッタ・フラハイムと申します」
にっこりと整った笑みを浮かべながらロゼさんがお辞儀をする。
かっけー、やっぱり眼鏡してくんねーかなーと思っている俺を置いて話は進んでいく。
「さて、なぜこの船が海賊船を撃退できたか・・・それはこの船が特殊なコンセプトで建造されたミズノの実験艦を改装した船だからです。普通の船と違う性質を持ってますので、海賊が油断していた事もあり何とかなりました」
「ほう・・・興味深い。それはどのようなコンセプトですかな?」
「船の情報についてはミズノとの契約で守秘義務がありますのでお答えできません。・・・私たちは海賊を捕まえただけですので、強制はされませんよね?」
「えぇ、もちろんです。ローゼリッタさん」
サニード艦長は一本取られたと言う表情で軽く微笑みながら応える。ただ、さすが新鋭艦の艦長と言う事だろう、簡単には諦めずに上手に切り返してくる。
「ただ・・・我々は連邦宙域の平和を守護する者として、ろくな武装も無い船が海賊船三隻を沈める事が出来るという事実を見なかった振りをする事は出来ないのです。その戦法を海賊が実践し、我々がその戦法を知らなかった場合・・・連邦の平和が大いに脅かされる可能性があるのです」
「もちろんサニード艦長が仰有られる事は理解出来ます。・・・ですがその心配はご無用です。同じ戦法を海賊がとる事は出来ません」
「それは・・・何故ですかな? お伺いしても?」
「この船には水龍様の御使いとなられた方がお二人乗られてます。そのお二方の絶大な魔力があって初めて出来る事ですので、海賊が同じ戦法をとる事などあり得ません」
「御使い?・・・眠り姫と呼ばれた、あの水龍様の御使いですか!? しかも二人も!?」
サニード艦長が驚いた声を上げる。
「そうじゃ、水龍も姫じゃが御使いも姫じゃぞ!?」
俺の後ろから、ハッシュベルガ号が来る前にブリッジに来ていた湯良さんが自慢げな声で応える。どうやら姫と言われたのが嬉しかったらしい。
「儂が姫なら主様は王子じゃの!」
更にドや顔で何か言ってるけど・・・
!? ちょっと待って! 勘弁してください!
「湯良さん!?・・・それはちょっと・・・」
この年で王子呼ばわりとか嫌がらせとしか思えないよ!?
つか、かなり本気で勘弁してくれ!!
俺は恥ずかしさの余り、取り敢えず湯良さんを止めようと後ろを向いたが、その気持ちを知ってか知らずか、サニード艦長が聞いてくる。
「そちらの姫と・・・・・・王子・・・? が、御使いなのですか?」
止めて! ホント止めて!! なんでそこに喰い付くの!? 本当に許して!?
「いや、あの!・・・俺、王子じゃn」
「ええ! そうです。こちらの姫と、そちらの”王子”・・・が御使いとなられた方です。」
俺はどうにか誤解を解こうと抗議しようとしたが、ロゼさんが俺の言葉を遮って、ここぞとばかりに追い打ちを掛けてくる。
口元が笑ってやがる!?・・・
・・・ロゼさん、絶対さっきのこと恨んでるよね?・・・いじるんじゃなかった・・・
星の王子様は、蛇に咬まれて元の世界に帰った?が、俺は蛇?に咬まれてこの世界に残った。
・・・だから俺はむしろ王子とは真逆なんだよ・・・俺じゃせいぜいカレーの王子様が限界だっつーのキーレンジャーだっつの・・・もうカレー食いたい・・・インド人びっくりさせたい・・・
ぶつぶつ呟きながら現実逃避に入る東司だった。