その十四 海賊は人狼?コボルト?オーク?
第二章 めぐりあい?宇宙編
その十四 海賊は人狼?コボルト?オーク?
宇宙・・・それは最後のフロンティィイタイイタイイタイ!!。
「ひ、ひたいって!! なんれほっぺらふねるの!?」
コロナ号が宇宙に出てワープ1に移行後少したった頃、湯良さんが食事の用意に行き俺が一人感慨にふけっていると、ロゼさんが俺の頬を強くつねってきた。
「申し訳ございません。なにやらニヤニヤされてましたので、つい腹が立ちまして」
も、申し訳ないとか言いながら、より強くつねるのは勘弁してくれ!
「大体が、です。湯良様の船だと言うのに、何故あなたがキャプテンの様に振る舞うのですか?何故あなたの命令を私が聞かないといけないのですか。湯良様の頼みですから今回だけは大目に見て怒りを胸にしまいますが、次こんな・・・
大目に見るとか言いながら、説教もつねるのも終わる気配がないんですけど!?
俺は涙目になりながら説教を続けるロゼさんを見る。
身長は180弱くらいだろう俺より少し低いくらいだ。エルフは他の種族より背が高く女性で180はそう珍しくないらしいが、やはり背は高い方らしい。スレンダーと言う言葉の代名詞の様なスタイルをしており、タイトスカートのスーツ姿がとてもよく似合う方だ。正直腰から太ももにかけてのラインはブラボーとしか言いようがない。
ただし冷静というか下手をすると冷徹と言えそうなほど笑わない人なので、ちょっとは砕けて欲しいなとずっと思っていたが、最近嫌な方向に砕けてきたというか、つまりは俺を砕こうとするのは止めてください。いや本当に。
俺は痛みから少しでも逃れる為に頭を前に倒す。その為横目で見るとちょうどロゼさんの胸元が目に飛び込んできた。湯良さんと比べるまでもなく慎ましやかな胸だ。
なーにが胸に仕舞いますだ。胸が小さくて怒りを仕舞っても仕舞いきれません、てか。
と、急にほっぺたの痛みが無くなる。やっと解放してもらえたらしい。
「あー、痛かった。つねん無くても良いじゃん・・・」
俺はホッペタをさすりながら愚痴を言う。
その時だった。俺は途轍もないプレッシャーを感じた。
どれくらい途轍もなかったかと言うと、七時間のリバウンドが無ければ、間違いなく防御のギフトを使用していただろうと言うほどのプレッシャーだ。
そのプレッシャーの原因が声を掛けてくる。
「東司様は・・・本当に面白い事をおっしゃられるのですね・・・」
え?・・・面白い事? いったい何の事だ?
俺は頬をさする手を止めて横に立つロゼさんの方にゆっくりと振り向く。
そこにはにこにこしているロゼさんが立っている。
それはもうにっこにこだ。
・・・少なくとも表面上は
「申し訳ございません。怒りを仕舞いきれない胸で」
あー・・・口に出しちゃってたかー・・・
「いやいやいやいや! つい心にもない事をいっちゃいまs」
「殺します」
ロゼさんがにこにこしたまま言う。
「・・・えーと・・・心から謝罪をしt」
「殺します」
ロゼさんがにこにこと怒り心頭で言う。
「・・・僕、実は小さい胸がだいs」
「ぶっ殺します」
・・・詰んだ・・・のか?・・・
「どうにか・・・殺されない解決法はないでしょうか?・・・」
「自殺すれば良いと思いますよ」
「なるほど!確かに!自殺すれば殺されない! こりゃ盲点だったな!あっはっは!」
笑いながらさりげなく逃げようとしたが、その瞬間ガシッと肩をつかまれる。
「どちらに行かれるおつもりですか?・・・」
俺が、抵抗は無意味だと諦めようとした瞬間、ブリッジに警報が響いた。
フィーオンフィーオン
「pi、停止信号を発信している船が接近してきます。接近まで残り三十秒」
コロナ号のAIが状況を告げる。
停止信号とは、ワープ中は外部との通信が取れない為、相手を止める為に使われる停止合図の事だ。これとSOS信号だけは専用の魔導器が全ての船に搭載されており、ワープ中の相手にも届ける事が出来る。
「”コロナ” 相手の速度は?」
「pi、ワープ3です」
居住惑星のある星系内では連邦法でワープ2以上の速度を禁止されているにも関わらず、ワープ3を出している・・・きな臭いな・・・
ちなみに補給の為にステーションや港に入る度にレコーダーのチェックを義務づけられている為、真っ当な船ならまず破らない規則だ。もちろん軍艦であれば話は別だが、きな臭い事に変わりはない。
「”コロナ”、通常速度に移行。マジックシールドレベル1展開」
おっと、つい防御態勢を取ったけどこれで良いのかな? 俺はロゼさんの顔を見る。
ロゼさんは軽く頷きながら言う。
「海賊か軍艦の可能性があります。ただ常識的にテラ星系内で海賊行為は余り考えられないですし、テラ星系内での航路は既に提出済みですので、軍に止められる理由も分かりません。接近してくる時点で遭難も難破もないでしょう。取り敢えずその対応でよいかと」
今や銀河に広く進出している人類だが、その大元はテラ星系内の惑星クラチカだ。その為、銀河系内で最大の組織である銀河連邦もテラ星系内への船の出入りは厳しく管理しているし、星系内にパトロール艦も存在するので海賊行為を行うにはリスクが高い。
「pi、相手船舶が通常速度に移行。距離百キロ。ID判別不能、未登録船舶です。エマージェンシーシグナル発信。が、妨害されました。」
コロナが自律対応してくれたが、うまくいかなかったようだ。と言う事は・・・
「まさかの海賊ですね・・・」
ロゼさんも驚いた様子だ。
いやー、ロゼさんの冷静じゃない顔は初めて見るなー、ってそんな事言ってる場合じゃないか。
「”コロナ”、警戒態勢発令。シールド2に移行。それから通信チャンネルを開け」
館内にエマージェンシーコールが鳴り響く。
それに少し遅れて極軽い振動が船体に走った。
「pi、シンフォニーバインドの魔法に捕まりました。」
シンフォニーバインドは宇宙時代に花開いた魔法で魔導器を一時的に共振状態に陥らせ魔法の効果を弱める指向性フィールドを作り出す魔法なのだが、魔導器を使っているのが人であれば、ハッキリとした意志を持って魔力を込める事で無効化出来るので昔は余り意味のない魔法だったのだが、魔法工学の進化と共に魔導器の使用方法がどんどん間接的になっていったが為に有効となった魔法だ。マジックシールドを張っているので、現在は影響がほとんど無いが、これでワープで逃げる事は出来なくなった。ワープをする為にはマジックシールドを解除してワープバブルと呼ばれる魔法フィールドを張らないといけないからだ。
「んー、足止めされたって事かな?」
ロゼさんの顔色が真っ青だ。俺は大丈夫大丈夫と言いながらロゼさんの頭を撫でてあげる。
そう言えば、俺や湯良さんの魔力が普通の人よりは遥かに多い事は伝えてあるけど、遥かどころかとんでもなくある事は秘密にしてたっけ。色々面倒くさいから異世界人であることも実際の魔力の量も伝えてないんだよね。
あとで少しだけ教えて上げないとな・・・
「po、主様、儂の出番はあるかの?」
館内通信で湯良さんが尋ねてくる。
「特にないよ。ちょっとご飯の時間が遅れるかもしれないけど」
「うむ、それでは焼き物は遅らせるとするかの」
その時、ようやく相手が通信チャンネルを開いた。椅子に片膝を立てて座っている、下品な顔をした人狼の男の映像がメインスクリーンに映し出される。
「船長、こちらの要求を伝えよう。」
人狼の男が高圧的に話を切り出した。
*****
「そりゃあ、本当か?」
海賊サレイドウルフの頭、サレイド・ボランは手下からの報告に喜びを隠せなかった。
銀河連邦内で三本指に入る宇宙船メーカーであるミズノの最新型D級船舶の試作機が一月後にクラチカにある水龍教団本部に納品されるというのだ。
「間違いない情報ですぜ。昨日襲った船にミズノの幹部が乗っておりやして、そいつの情報でやす。へへっ、あっしゃ船舶オタクでしてね。色々教えてくれと奴さんの娘を散々気持ちよくさせてやったら、お礼にって教えてくれたんでさ」
手下はうひゃひゃと笑い声を上げる。
サレイドウルフはテラ星系と比較的近い星系であるアルファ2 ケンタウリ星系の間の航路を襲う海賊だ。野卑で好戦的な人狼族を主として構成されており、襲う、殺す、犯す、は当然として、強請る、売るも平気で行う。またそうして得た資金を黒い人脈を得る事に費やす狡賢さも持ち合わせている最悪な部類の海賊だった。
「しかも、その最新型ですがD級の癖に、ワープ5を出す事が出来るらしいですぜ?」
「な!? 何だと!? D級でワープ5だと!!?」
サレイドは驚愕した。D級とは船舶のサイズを表す言葉で、D級だとワープ2か3が普通でD級で最大ワープ5は聞いた事もないからだ。
ちなみにサイズはSからFまでで七種類あり、一般的な乗員数を説明すると。
F 四人 ~ 二十人
E 五十人 ~ 百人
D 三百 ~ 千人
C 千人 ~ 五千人
B 五千人 ~ 三万人
A 一万人 ~ 二十万人
S 連邦軍に三隻しかない戦略拠点用超弩級艦
といった感じで、基本的には同じクラスの中でも、最大乗員数が少ない方がスピードが出る。これは軽いからとかではなく。魔力タンクを多く詰めるからである。ちなみに、魔力タンクが多い方がより遠くまで行けるのかと言うとそうではなく、宇宙船では乗員の魔力で補給しながら移動する為、最大航行距離に関しては人数が多い方が長い場合もある。
またついでなのでワープ速度についても説明すると、
ワープ1 光速
ワープ2 光速の五倍
ワープ3 光速の二十五倍
ワープ4 光速の百倍
ワープ5 光速の五百倍 (軍の最新鋭艦か一部特殊仕様の船のみ)
ワープ6 光速の二千五百倍 (軍の最新鋭艦の内でも僅かな艦のみ)
ワープ7 光速の一万倍 (今のところ通信技術への応用しか実現していない)
ワープ8 光速の五万倍 (今のところ政府の特殊通信技術への応用しか実現していない)
である。
閑話休題
サレイドは本当に驚くと共になんとしてでも手に入れたいと思った。
ミズノはトップスリーの中でも尖った、ともすればピーキー過ぎると言われる様な機体を出すメーカーではあるが、多少ピーキーであってもワープ5を出せるのであれば、海賊稼業を続けていく上でこれ以上ない手札になる可能性は高いからだ。
サレイドは考える。相手がワープ5を出せるのであれば外宇宙で補足するのは難しいかもしれない。多少危険は伴うが確実に手に入れるには星系内で襲う方が、相手も油断しているだろう。
サレイドは綿密な計画を立て、C級一つとD級二つの艦隊でテラ星系に向かって移動し始める。
そしてあらかじめプルートーステーションの繋がりある役人に多額の賄賂を送り、新型機の航路を確かめ、パトロール隊が近づかないように、金で動く者に金を与えて離れた場所で遭難させたりと、新型機を手に入れる為に様々な手を用いて準備をする。
一番の問題点は相手が熟練の勘の良いパイロットだった場合だ。こちらが近づいた際にいきなりワープ5で逃げを打たれたら手も足も出ない。念のため予定航路の先にD級を二艦配置しアンチワープフィールドで止めさせる予定だが、そこまで勘の良い相手なら予定航路を行くとも限らないだろう。
だが、今回の相手はチョロそうだ。素直にワープ解除しやがった。テラ星系内で実行したのが良かったのだろう。油断しているようだ。
サレイドはうまくいきそうだと作戦の成功を確信しつつ通信チャンネルを開く。
「船長、こちらの要求を伝えよう。」
さてどう出るかな? ま、どう出ようがこうなった以上は結果は同じだがな。
「無条件降伏をしろ。そうすれば命だけは助けてやる。」
くくっ、奴隷として売り払うだけだが命だけは助けるさ。
ん? あのエルフの女だけは手元に置いても良いかもな・・・
サレイドは舐めるようにロゼを見ながらほくそ笑んだ。
*****
なんつーか、人狼なんて言うから何となく格好いいイメージを持ってたんだけど、これじゃオークだよね?・・・ガックシ・・・
俺は相手の犬面を見て内心がっかりした。人狼という呼び名から、牙が伸びたぎらぎらした男で満月になると月に吠えて狼男になる。そんな映画の様なイメージを持っていたからだ。
だが現実にメインスクリーンに映っているのは、長い海賊稼業からだろう傷が刻まれ迫力のある顔はしているものの、おそらく身長150cmくらいのアメリカンブルドック面をした小男だ。いや本当のアメリカンブルドックなら愛嬌があって嫌いじゃないが、こいつの場合ブタっぱなが犬になっただけのオークでしかない。
てかウチのロゼさんをそんな目で見んじゃねーよ。
俺は怯えて縮こまるロゼさんの肩を抱き寄せて言う。
「馬鹿かお前は、そちらこそ今すぐ謝って立ち去れ。今なら特別に見逃してやる」
「威勢がいいな・・・馬鹿なのか、何かあるのか・・・シールドが無くなっても同じ事が言えるかな?」
敵艦のコボルトが指を鳴らす。
「pi、敵艦がブラスターを起動しました。」
ロゼさんが小さな悲鳴を上げながらしがみついてくる。なんだ意外と可愛いなぁ・・・
「”コロナ”マジックボルト起動」
「おいおいおい! 何かと思ったらマジックボルトかよ!? そんなので勝負になると思ってるのか!?」
ブラスターとは専用の増幅魔導器から放たれる指向性のあるファイアーストームの一種だ。連邦軍の正式主武装として採用されており、魔力変換効率はおよそ一万倍と、正に折り紙付きの攻撃魔法と言える。普通はこんな海賊が持っているような武装ではない。対してマジックボルトは汎用魔導器にて放たれる魔法だ。魔力変換効率は最低というか変換しない、魔力をそのままぶつけるだけの魔法であり、。もちろん威力もたかがしれている。
・・・あくまで普通ならばだが。
俺はロゼさんを片手に抱いたまま椅子に腰掛け、マジックボルトの起動と共に肘掛けから出現したバーを握りしめる。
そして俺はバーに1%程の魔力を流しこみ、念のため敵艦を少し避けて魔法を発動する。
その瞬間、宇宙に閃光が走った。
「な!?・・・何が起こった!? どうなってる!?」
サレイドは手下を怒鳴りつける。全く理解が出来なかった。手下が状況を報告する。
「頭! シールド発生装置が過負荷で破壊されました・・・」
「ば! 馬鹿な!? 一瞬でシールドが吹き飛ばされただと!?・・・」
ロゼは驚愕の面持ちでスクリーンを見ていた。彼女も何が起こったのか理解出来なかった。いや、この船の特殊な造りを知っていた為、理解は出来たのだが余りにも常識はずれた結果故、理性が理解を拒んでいた。
彼女は熱にうなされているかのような胡乱な頭で考える。
湯良様は元龍神様だから、このくらいの魔力を持っていても分からなくもないけど・・・しかも、この人まだ余裕がある?・・・単に湯良様のヒモではないの?・・・
「”コロナ”後は任せる。敵艦ブラスター装置を破壊してくれ」
シールドの無い宇宙船など簡単に破壊できるし、俺がやると威力の調整が難しいので全てコロナに任せる事にした。
「pi、ブラスター装置以外にも武装が四点ほど有りますがどうされますか?」
「全て破壊してくれ」
コロナに搭載されている魔力タンクの魔力を使ったマジックボルトが同時に五つ発射される。
「pi、敵艦武装の無力化を確認しました。」
さてさて、こういう輩はどうすれば良いんだ? パトロールに突き出しゃいいんかな?
左手で抱え込んだままのロゼさんを見ると呆っとした表情でスクリーンを見つめている。俺はロゼさんの髪を撫でながら声を掛けた。
「ロゼさん大丈夫?」
「え? ええ大丈夫です・・・驚きました・・・」
ロゼさんは俺に髪を撫でられたまま不思議そうな顔で俺を見つめる。
「どうしたらいいかな?」
「どうしたら?・・・えっ?ええっ!?」
ロゼさんが急に真っ赤になって俺の脇腹に肘打ちを食らわせて、俺からそそくさと離れる。
「がっ!? ぐっ・・・い、いたい・・・」
ひ、ひどい・・・何故急にエルボー・・・
「ど、どうしたらなんて・・・知りません! 大体いつの間に抱きしめてたんですか!? いやらしい!!」
な、なにか勘違いがあるような・・・
「いててて・・・いや、そうじゃなくて、海賊をどうしたらいいかという話なんだけど・・・」
ロゼさんは更に顔を赤くしつつ、そっぽを向きながら言う。
「そうならそうと言ってください!! 紛らわしいんです!!」
ふ、不条理だ・・・
いや?待てよ?
この騒ぎのおかげで死の選択をしなくて済んだ訳だし、肘打ち程度で済んだのは儲け物だったかもしれん・・・
俺はスクリーンに映る呆けた顔をしたコボルトを見ながらそう思ったのだった。