その十二 爆殺よりも毒殺じゃね?
あけましておめでとうございます。
駄文ですが、本年もよろしくお願いいたします。
第一章 神と龍とサラリーマン
その十二
「じゃあ召還するかねー」
茶瓶はそう言ってどこからともなく剣を取り出した。
「じゃ、私が呪文を叫んだら、おおーぅ!って力強く叫んでね?」
「?、ああ・・・、分かった。おおーぅ!!だな?」
「いえーす、いえすいえす。んでは・・・」
茶瓶は剣を両手で構え、力強く天にかざしながら叫ぶ。
「りゅうじんまるーーーーー!!!」
茶瓶の剣から放たれた光が天を突く。
おおーすげー、よく分からんが格好いいな。
・・・・
ん?あれ?もう俺の番?
「おおーーーうぅ!!?」
しばらく待つが特に何も起こらない?、ユーフランの姿も取り敢えず見あたらない?っぽい。
「あれ?これで終わり?・・・どうなったの?」
俺はいまいち状況が分からないので茶瓶に聞いてみる。
「くぅーーーー、たまんねーー、決まってたね!! はっきし言って面白かっこよかったぜ俺!!」
「あん?・・・」
なんだか不純な空気を感じるんだが・・・
「いやー一度やってみたかったんだよねー」
なんだか茶瓶が興奮しているんだが・・・ていうか、召還は? ユーフランさんは?・・・
「なぁ茶瓶・・・一つ聞きたいんだが・・・今のは本当に召還の呪文だったのか?」
「当然だよ!! 知らないのかい? あの名作を!! いやー面白かったよなー」
・・・
「いやそうじゃなくてさ。今のはユーフランさんを召還したんだよな?・・・」
「ん? なんで竜神丸召還して、ユーフランがくるのさ?」
!?・・・・・・&%$#・・・・・
「つーかさーーさっきも言ったけど、俺は外の世界に働きかける力なんて何もないって。君もいい加減学習しないよねー」
「てめ! 何度も何度もふざけんな!! さっきの思わせぶりな言葉は何なんだよ!! 糞ったれ!!マジで死ね!!!」
攻撃が当たるなら、絶対その剣で一刀両断してやるのに!!
「まーまー、ミーには呼べない。ならば、君が呼べばいいのさー」
「はぁ!? 何いってんだよ!? ハゲ!! 俺は魔法なんて使えねーよ!!」
いかん。こいつの話を真面目に聞くだけ無駄だな。いい加減学習しないと・・・
もう無視だ無視無視・・・
「使えるよー? つーか一度既に使ってるしー。ん? 使ってるってーか、勝手に発動したって感じだけどねー」
・・・
「こっちの世界に来た際に神のルールによって神の力つまりギフトを与えられてるのさー」
・・・・・・
「頭・右手・左手・体・足に例えた、五つの神の力だったりするんだけどねー。ちなみに前に使ったのは左手でさー。左手は盾だろっていう事で絶対防御の保護フィールドらしいよ?」
あ・・・あーそれで・・・じゃない無視無視!
「んで持って、待ってましたの今回使うのは、頭! 頭の悪い君に、あるの? って思うようなギフトなんだねー」
##・・・・
「このギフトは精神感応、つまりテレパスィ能力なのさー。どんだけ離れていても見た事あるだけの人でも名前だけ知ってる人でも相手の了承さえあれば、念話で話せるのよー。でもってこの場所は東司の精神の一角だから、ここに呼ぶ事も出来るよん」
ほうほう・・・ってここは俺の精神なのか?・・・
「てなわけでー聞いてないような振りしてお耳ダンボな東司ちゃん。早速使ってみよー。大丈夫、ミーの設定上、ギフトの説明に嘘はつけないからさー」
「ぐっ・・・無念だ。結局無視できなかった・・・つーか使い方なんて知らねーって」
茶瓶はまたどこからともなくスティックを取り出しくるくると回す。
「簡単さねー。マジカルマジカルなんてやらなくてもおk。まぁやっても良いんだけどねー。・・・やる? わくわく」
「やらない」
つーかわくわくとか口で言うな。
「ちぇー・・・まいっか、単に頭の中でギフトをユーフランと話すのに使うと決めれば良いだけのタンポポの花を乗せるのより簡単なお仕事です。」
「なんかその言い方は、微妙に引っかかるんだが・・・」
本当に簡単なのか? まぁ兎にも角にもやってみよう。
”ユーフランさんと話すのにギフトを使う・・・”ってこれで良いのか? もっと強いイメージで言った方が良いのか?
「やりづらいだろうから最初は口で言った方が良いかもよ?」
む・・・
「ギフトをユーフランと話すのに使う!」
どーだ!?
「だめだねー!。もっと心からの気持ちを込めて!!。何の為に呼ぶのか分かってるのか!?」
・・・んにゃろ、言いたい放題言いやがって。
「俺は!、ギフトをユーフランと話すのに使う!!」
「違う違う!! 気持ちの込め方が分からないなら全部口に出せ!! あの子を呼んでどうするんだ!? 何を伝えるんだ!?」
茶瓶は、いや神様は真剣な顔で俺を見つめて叱る。
うっ・・・そんなのまでいるのか? しかし、確かにそう思ってる時点で気持ちが込め切れてないのかもしれん・・・やるしかない?・・・いや、やろう!!
「・・・俺はユーフランの涙を止めたい! 帰りたい訳じゃないって伝える! だから俺は
「まだだ! まだ照れがあるぞ!!」
くっ!。分かった。分かったよ! 耳の穴かっぽじって聞きやがれ!!
「俺はあの子が好きなんだ! だからあの世界で一緒に暮らしていく為に、言葉を、気持ちを伝えるんだ!!! その為にギフトを使う!!!」
俺は軽く肩で息をつきながら神様を見た。
神様は”パチパチパチパチ”と拍手をし始めた。
「いやー、爆発しろって言うより爆殺したいって感じで、気持ちこもってたよー」
「うまくいったのか?」
俺は周りを見回す。だが何処にもユーフランの姿が見えないんだが。
「これ以上なく、うまくいったんじゃないかなーー」
神様が、いや茶瓶が俺の顔を見つめてにやにや笑う。
あれ?・・・ なんだか嫌な予感が・・・
「君も学習しないよねー、さっきも言ったけど、この空間の内部に関してはそれなりに色々と出来るんだよー?・・・と言う事でうまくいったかは本人に聞いてみたらどーかなー?」
茶瓶はそう言ってパチリと指を鳴らす。
その瞬間、涙の後が頬に残るユーフランが呆けた顔で椅子に座っていた。
*****
ユーフランは泣いていた。
東司を元の世界に帰すと自分で決めておいて、その判断に泣いていた。
自分の決断に迷いが出ないようにと東司を眠らせた癖に、それでも諦めきれずに泣いていた。
その時だった。ユーフランの頭の中に無機質な音声が響いた。
ピロリン♪ 服部東司さんが ユーフラン・ライエン・ユラユラ さんをチャットにお誘いしています。参加されますか?
え?・・・東司?・・・これはいったい何じゃ?。
ユーフランはそれはもう混乱した。東司は自分の力で寝ている。いや寝ていると言うよりは実質的には仮死状態だ。確認してみるが東司を仮死状態にしている自分の力に異常は感じられない。
誰ぞか分からんが、東司の名前をかたっておるのか?
ユーフランはそうも疑った。だが、ここはユーフランの結界の中、ユーフランと同等かそれ以上の存在でなければ、ここに思念を送ってくる事は出来ないはず。
正直余りにも謎の多い思念だったが、ユーフランは東司の名前故に一瞬迷っただけですぐに参加を決めた。
ユーフランが参加すると決めた瞬間、草原で椅子に座っていた。周りには誰もいない。
だが、誰もいないのにすぐ近くから声が聞こえてきた。
「ギフトをユーフランと話すのに使う!」
東司!? 東司の声じゃ!
「だめだねー!。もっと心からの気持ちを込めて!!。何の為に呼ぶのか分かってるのか!?」
聞いた事のない男の声も聞こえてくる。
「俺は!、ギフトをユーフランと話すのに使う!!」
神の力? 儂と話す? 何の話をしておるのじゃ?
「違う違う!! 気持ちの込め方が分からないなら全部口に出せ!! あの子を呼んでどうするんだ!? 何を伝えるんだ!?」
儂は再度周りを見回すがやはり誰もいない。一面の草原と目の前にはティーセットが置いてあるテーブルしか見あたらない。
「・・・俺はユーフランの涙を止めたい! 帰りたい訳じゃないって伝える! だから俺は
「まだだ! まだ照れがあるぞ!!」
え!?・・・帰りたい訳じゃない?・・・どういう事じゃ?
「俺はあの子が好きなんだ! だからあの世界で一緒に暮らしていく為に、言葉を、気持ちを伝えるんだ!!! その為にギフトを使う!!!」
なっ!!?・・・
儂は絶句した。まだ何かを話しているようだったが、今の儂には上の空じゃった。
*****
「茶瓶、テメーー!!」
俺は怒りと羞恥とで思わず我を忘れて飛びかかっていた。当然の結果として茶瓶をすり抜けてしまい、殴る事も掴む事も、触る事すらも出来ないのだが。
「いやー熱烈な対応は、うれしはずかし朝帰りだけど、相手が違うんじゃなーい?」
茶瓶はそう言ってユーフランを示す。
「東司?・・・」
俺はまだ茶瓶に突っかかろうとしたが、ユーフランの声に動きを止められた。
「東司、今のはいったい・・・」
「え! えーと!? いや! 今のは違ってね!? 茶瓶にはめられたというか」
俺は焦って言い訳仕様とするが、茶瓶に遮られる。
「おいおいおーい、そこで照れちゃうのは本当にあったまわっるいぞー」
テメ! 誰のせいだと!・・・いや、確かにその通りだ。言い訳する意味がなかったな。
俺はユーフランに近づき、彼女を抱きしめる。
あいつは後で殺す。絶対に許さん。絶対にだ。
そう心で決めながら、キスをした。
「ん・・んはぁ・・・東司?・・・さっきの言葉は?・・・帰らなくて良いのか?・・・」
俺はユーフランの潤んだ黒い瞳を見つめながら頷いた。
「ああ、良いんだ。」
「わ・・・儂はもう絶対にお主を帰さんぞ? それでも儂と一緒になってくれるのか?・・・」
ユーフランの瞳が涙で更に煌めいていく。
「むしろ望むところだ。それに・・・ユーフランはSなんだろ? もっといつものノリで良いよ。」
「わ・・・儂は夜はMじゃと言うたろう・・・」
ユーフランの涙は今にもこぼれそうだが、顔はこれ以上無くうれしそうに笑っている。
「東司・・・儂の番いになれ・・・命令じゃ!!」
俺は唇までこぼれ落ちた涙を拭き取るように返事の口吻をした。
「さーてさてさて、さては南京玉すだれ」
ようやくユーフランが落ち着いてきた頃、姿が見えなくなっていた茶瓶が再び現れた。
「うまくいったようで何より何より。・・・むむ、イってないのに、イったとはこれイカに」
ユーフランが胡散臭げな顔をして聞いてくる。
「東司・・・このウカレポンチはいったい何じゃ? とゆうかここはいったい何処なのじゃ?」
「こいつは・・・」
俺がなんて説明したもんだと頭を悩ませてると、茶瓶が何故か奇跡的に真面目に説明しだした。
「ユーフラン様、ここは東司様の精神世界でございます。神の力で多少拡張されておりますのでこの部屋の様に半実在化する事が可能なだけでございます。そして私は神の分け身たる、異世界人を見守り案内するナビゲーションAIで”ゴッド404”と申します。ですが、今は東司様よりチャビンとお名前を頂いておりますので、どうぞチャビンとお呼びください。なお神本体からは完全に切り離されている為、このパーティールームの作成管理と東司様の周囲の観察、危機に応じて東司様をこの世界に呼び、ギフトつまり神の力の使い方をご案内するといった能力しかございませんが、今後ともお見知りおきの程、よろしくお願いいたします。」
・・・え?・・・なんでそんなに丁寧なの? なんか対応違くね?
「なるほどのう、神の力じゃったか・・・儂の理解できん現象だったのも納得じゃのう」
「茶瓶・・・その気色悪い話し方はいったい何なんだ?・・・」
「んーー? 今のが俺本来の話し方よ? 神の設定でさー東司が矢鱈目ったらギフトを使わないように、ここに来たくないと思わせるような性格を設定されてるんだよねー」
あー確かに・・・ここには心底来たくねー・・・
「ってあれ?・・・じゃここに来ないとギフトは使えないの?」
「君は何度言っても人の話を聞かないねー。ギフトはミーじゃなくて君の力だからここに来ようが来なかろうが関係無いよ?」
聞かないっていうよりお前の話が分かりづらすぎんだろ!
・・・ん? あれ? ここに来なくて良いんなら抑止にならないんじゃね?
「おい茶瓶・・・」
俺はもう少し詳しく話しを聞こうとしたが、茶瓶はユーフランに近づきなにやら耳打ちをしている。
「んむ。なるほどの・・・承知じゃ。それでは戻って東司の眠りを解くとするかの。チャビンよ、後の説明は頼むぞ?」
「お任せ下さいユーフラン様」
チャビンは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。
「ではの東司。儂は一足先に戻って、眠りを解くよ」
「ああ・・・頼んだ」
「また後でじゃ」
ユーフランは東司にキスをして微笑みながら消えていった。
「さてと、じゃ俺も帰るか・・・」
茶瓶を見ると椅子に座ってカップにお茶を注いでいる。
「あーーー、茶瓶・・・お前は嫌な奴だし、うざいし、つーかいつか絶対殺す!って位むかつく奴だけど・・・今日は助かったよ・・・感謝する。」
俺は明後日の方向を向きながら別れの挨拶を紡ぐ。
「・・・もう会いたくないけど、気が向いたらまたくるかもな・・・まぁ! 当分は顔見たくないけどな!!」
「まーまー、座ってお茶でも飲みなよーお代わりならいくらでもあるからさー」
「ユーフランを待たせたくないし、第一少なくとも今日はこれ以上お前の顔をみたくねーよ」
俺は軽い言葉で誘いを断る。
「さてと・・・帰るには、どうすれば良いんだ?・・・まさか教えないとか言わないよな?」
ギフトと同じで帰ると決めれば良いのか?
「帰る方法は簡単さー。口に出してでも心の中ででも、帰ると決めるだけさー」
お!? 案外素直に教えてくれたな。つーか予想通りだったか。
さてと・・・帰るとするかな・・・
「でもねー、帰れないよー?」
ん?・・・何をいってんだ?
「ギフトを使うとねー七時間の強制睡眠に入って、必ずここにくる事になってるからねー」
・・・・・・な!?・・・な・・・ん・・・だ・・・と・・・?
「だから言ったじゃーん? ギフトを矢鱈目ったら使わせないように、ここに来たくないと思わせるような性格設定だって。いい加減飽きるほど言ってるけど君はホントーに人の話を聞かないよねー」
茶瓶はにやにや笑いながらティーカップを持ち上げる。
「さーあと七時間、二人だけのあつーーい時間はこれからさー」
優しくしてね?・・・と言ってウインクする茶瓶。
そして俺の魂の慟哭が草原に響くのだった。
「俺はもう二度とギフトを使わねーーー!!!」