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龍の御使い  作者: おでん
第一章 神と龍とサラリーマン編
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その一 心労?淋病?

第一章 神と龍とサラリーマン

その一


 服部東司はっとり とうじは陶器製の小物を作る工場に勤めるデザイナーだ。と言えばいかにもかっこよく聞こえるが、その実はチーフデザイナーでもある若社長(二代目)のアシスタント・・・いや更に厳密に事実を言えば、

 デザイナー5・雑用2・工場との折衝役2・出荷作業1

 と言ったところであり、更に更に詳細に言えばデザインの仕事といっても若社長の作ったデザインを工場のライン向けに最適化する作業が半分を占めており、自分の職種を人に説明するとき「デザイナーです!」と言い切るのに躊躇してしまい「デザイナー・・・とか色々やってます・・・」とつい言ってしまうような立場かつ性格だった。東司自身も、もう少しデザイナーらしい仕事がしたいとは思っていたが、小さい会社故にデザインに専念出来ないのがしょうがない事で有る事も理解していたし、現代日本では斜陽の陶器産業においてデザイン力と企画力で売り上げを持ち直していっている若社長の事は年下とは言え尊敬していた。だから若社長からの飲みの誘いも、(はぁ今日の飲みは愚痴だろうなぁ・・・)と推測は付いていたが断らず付き合っていたのだった。


 「いや~! 本当に伊那商会はなめてるよ! おかげで俺の苦労も服部さんの苦労も全部無駄だよ!・・・おねーさんお湯割りお代わり~!」

 若社長が生中を二杯空け更に焼酎の二杯目を頼みつつ愚痴る。

 「かなり無理矢理納期ねじ込まれましたしね・・・まぁ俺の苦労はいいんすけど、社長がその仕様じゃ安定しないってあれだけ熱弁したにも関わらずですからね」

 俺は三杯目の生中をちびちび飲みながら相づちを打った。

 「そうなんだよー。時間が無いからって簡易発注で進めちゃった俺が悪いっちゃ悪いんだけど、あいつら ”多少質が安定しなくてもそちらのせいにはしませんから!”とか言っといて、問題が起きたら担当は来ずに上司が出てきて ”君の会社は問題がある製品を納める会社なのかね?”とか ”担当は安定しないなんて話は聞いていないと言っている”

だぜ!?一瞬あの熱弁は俺の妄想だったのか!?と自分を疑ったよ!ポレナレフだよ!」

 「まぁ相手は大会社ですし、間接的とはいえうちにも定期的に仕事が来ている以上そこまであからさまにすっとぼけられると何とも成らんのが腹立ちますよねぇ・・・あっ、ちなみにポ ル ナレフです社長」

 「レでもルでもポロナレフでもオーケー、考えるな感じろ!通じたんだから正解!」

 「まぁ確かに意味は完璧に伝わりましたけどね・・・しかし何かしらの手で仕返しできないもんすかねぇ正直釈然としませんよね」

 「んー・・・」

 若社長がどて煮(モツの味噌煮・中京のソウルフード)を頬張り咀嚼しつつ目を閉じ考え込むのを見て、俺も焼き鳥に七味を振りかけて食べる。

 (塩が濃いな・・・七味はやめとけば良かったかな・・・昔は塩辛い位の方がうまいと思ってたけど最近少しずつ苦手になってきたな・・・)とか考えていると、

 「もうちょっと粘ってどうにか条件引き出すくらいしかいい手はないなぁ・・・むかつくなぁ・・・」

 苦い顔をして若社長が呟く。

 「いっそ俺が心労で倒れた事にしてしばらく旅行にでも行ってくるから、その間に服部さんがそれをネタに交渉するとかやってみる?」

 と社長がいたずらっ子のような笑い顔でこっちを見るので、こちらも演技がかった感じで手を横に軽く広げて首を振りつつ応える。

 「いやいや社長・・・社長がいないと会社が回りませんから。心を鬼にしてここは私が行きましょう!・・・経費で!」

 「・・・じゃ病名は淋病ね!社内にも広めとくから!」 

 「いや・・・それは勘弁してくださいよ。つーかそれじゃ心労にならないっすよ」

 と二人で笑い合った時だった。


 まさか笑い話の冗談が十倍増しで現実になるとは思わなかったよ。


2012年11月25日(金) 21時25分

享年32歳

死亡原因:急性心筋梗塞


 それが服部東司がこの世界に残した最後の記録だった。

 

 

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