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エスピリトゥ・ムンド

魔女リルテ

作者: 若槻風亜
掲載日:2026/05/03


 生まれた時から魔力が強かった。


 特に相性がよかったのは土の要素。はじめて石化の呪文をかけてしまったのは、生まれたばかりの私の目を見て愛を囁いてくれた母だったという。


 その時は解呪の魔術師が石化を解いてくれたので大事には至らなかった。だが、年を経るごとに魔力は増し、次第に目を見た瞬間に相手を石にしてしまうほどになってしまった。


 そして6歳の誕生日、少し開いた窓から覗く明るい世界を目に焼きつけ、私は目を封じることを決意した。


 封印の魔力を込めた布を巻き、窓もドアも壁も、全てを土の魔力で囲う。堅牢な土の魔力は、封印にとても適しているのだ。


 食事もいらない。


 水もいらない。


 こんなに恐ろしい私を、それでも愛そうとしてくれる家族もいらない。


 このまま死んでしまおう。これ以上誰も傷つけないように。家族を、友達を、動物たちを、これ以上怖いことに巻き込まないために。


 視界が真っ暗になると、手足が石になり引きつった顔をした友達や大人たちの顔が浮かんでくる。


 誰もが青ざめ、悲鳴をあげ、数少ない人たち以外は皆私を「悪魔」と呼んだ。


 きっとその通りなのだろう。私はきっと悪魔なのだ。その証拠に、私の目は家族誰にも見えないモノたちの姿がはっきりと見えている。


 魔力を流し続けた。


 いくら私がたくさんの魔力を持っていても、このまま流し続ければそのうち魔力は枯渇する。それでも流し続けようとすれば、次は命が削られていく。


 今か今かとその時を待っていると、異変に気付いたのか両親が部屋の外に来たのが分かった。


 ドアを強く叩いて、私の名前を呼んでいる。


 だけど私は返事をしない。返事をすれば耐えられなくて泣き出しそうだったから。


 それじゃあ駄目なのだ。しっかりと気を持って、強い私で逝かなくては。


 そうしないと家族が、数少ない友人たちが悲しんでしまう。可哀想な私で死ぬのだけは、絶対に駄目だ。


 固い何かでドアを殴りつけているような音がする。体当たりするような音が聞こえた。少しすると母が泣き出す。私の名前を何度も何度も呼んでいた。


 返事をしたい。けれど駄目だ。ぎゅっと唇を引き結んで叫びたい衝動を我慢する。


 そのうち、慌ただしい声にのったりとした声が聞こえてきた。


「おーい、リルテー。開けろーい。誕生日プレゼント持ってきてやったぞーい」


 それは、緊迫した空気の中では異質すぎるほど平静な兄の声。まるで私が駄々をこねて閉じこもっているので、宥めるためにご機嫌伺いするかのようだ。私は歯も食いしばってその声を無視する。


 すると、突然魔力が侵食されるような感覚を覚えた。


 ああしまった。もっともっと硬質化しなくては。兄の得意な要素は――。


「こんこーん、入るぞーい」


 ドアが破られる音がする。ちょろりと指先に絡んできたのは細いツタ。きっと、今頃私の部屋の入り口には人より大きく太いツタがぐねぐねと混ざっていることだろう。


 兄の得意な要素は草。土を元に力を上げる兄の魔術。私よりも魔力は弱いが、私を利用すれば私をも制圧出来るのだ。


「んー? 代わったアイマスクだなーい。ほれほれ、外せーい。兄ちゃんお前が喜ぶプレゼント持ってきたんだぞーい」


「あっ」


 部屋に魔力を流しすぎて布の封印が弱まっていたらしく、布はあっさりと取られてしまった。


 何も見てはいけない。ぎゅっと目を瞑っていると、何か柔らかいものに顔を覆われる。


 どくんどくん、と聞こえるのは鼓動。生き物、だ。


「リルテ、目ぇ開けろーい」


 ぺしぺしと兄が頭を叩いてくる。私が小さく嫌だと言えば、頭を叩く力が少し強くなった。


「いーから開けろーい。言っただろーい? お前が喜ぶものだってー」


 信じろ。言外にそう込めた言葉に、私は恐る恐る顔に押し付けられている生き物を両手で抱え、膝の上に置く。


 重くて、少し大きい。猫や犬よりも人の子供に近いが、それでもこの毛むくじゃらは決して人じゃない。


 どきどきとしながらゆっくりゆっくり目を開いた。


 そしてその瞬間、向こうから目を覗きこまれる。くりんとしたつぶらな瞳はこげ茶色。鼻は黒っぽく、毛の色は目よりも濃い茶色だ。


「……子熊?」


 想像外の存在にぽかんとしてしまう。そうしてから、私ははっとなって目を逸らす。けれどもう遅い。この熊も石になってしまう。


 涙が浮かびそうになるのを必死に堪えていると、突然丸い爪が出た手がほっぺたを触ってきた。


「――え」


 動いている? 目が合ったのに?


 もう一度そっと熊を見る。小さいその子は、はっきりと目が合うと嬉しそうに私の肩や頬を叩いてきた。


 ぬいぐるみが動いているような可愛らしさに自然と頬が緩むと、動向を見守っていたらしい兄が両手を大仰に上向ける。


「よっほーい、プレゼント成功だーい」


 兄の真似をするように熊も両手をあげた。私は熊と兄を見比べた。


「お、兄ちゃん。この子何……?」


 問えば、兄はにぃと笑う。


「タイタンベアっていう熊だーい。土の魔力が強くて石化耐性があるからリルテの魔力のも負けないぞーい。穏やかな気性だから暴れることはないし、将来大きくなるけどそこは気にしちゃ負けだーい」


 可愛がることと、蜂蜜を樽5杯分献上することを条件に親熊に譲ってもらったのだ、と兄はそう説明してきた。どこまで本当なのか、この兄では分からない。


「とにかく今日からそいつも家族だーい。ほれほれ、いつまでもパジャマでいないで着替えろーい。今日はお前の誕生日とそいつの家族記念日でパーティだーい」


 くるくると回りながら兄は部屋から出て行った。父がそれを追いかけ、母が私の部屋に入ってきて私を抱きしめ大声で泣き始める。「もう二度とやらないで」。そう怒られた。あったかくて、優しくて、結局泣いてしまったら、熊が私の涙を舐めてくる。



 人生で一番最初に自分の意思でやった、穴があれば入りたくなるほど凄く馬鹿のことをした日。家族とはまた違う、絶対に私に負けない大切な大切な家族が出来た日。色々と思い出深い6歳の誕生日だった。




 7年後、魔法学園に入学した私がまずされたのは、大きすぎる使い魔を連れていることへの注意。次は、小悪魔を捕まえて宿題をやらせていることがばれたことへの注意だった。


 そして間もなく、石化封じの眼鏡の下で悪びれなく笑う私に、優秀な教師たちにも見えぬ存在を見て扱う私に、そのあだ名は自然と付けられる。


「魔女リルテ」と。




自サイトより転載。

2012年の作品です。

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