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拍手の数だけ

掲載日:2026/04/15

この世界では、人は“拍手”で価値が決まる。

何かを成し遂げた者、誰かを救った者、

人々に感動を与えた者には、拍手が送られる。

その数が、その人の価値だった。

主人公は、何も持っていなかった。

才能も、実績も、特別な過去もない。

ただ、普通に生きているだけの人間だった。

だから、考えた。

どうすれば拍手をもらえるか。

最初は、小さなことから始めた。

落とし物を拾う。

困っている人に声をかける。

少しだけ、拍手がもらえた。

嬉しかった。

初めて、自分に価値があると感じた。

もっと欲しくなった。

次は、少し大きなことをした。

危険な場所に飛び込んで、誰かを助ける。

大きな拍手がもらえた。

世界が変わった気がした。

だが、すぐに足りなくなった。

同じことでは、同じ拍手しかもらえない。

だから、考えた。

どうすれば、もっと拍手をもらえるか。

しばらくして、答えに辿り着いた。

“より大きな不幸”があればいい。

最初は、偶然だった。

事故が起きた場所に居合わせて、助けた。

拍手は今までで一番大きかった。

そこで、理解した。

拍手は、“救い”に対してではない。

“落差”に対して送られる。

深い不幸があるほど、

そこからの救いは価値を持つ。

なら——

不幸がなければ、作ればいい。

最初は、小さく。

誰かの物を少しだけ隠す。

それを見つけて、渡す。

拍手がもらえた。

次は、少しだけ大きく。

危険な状況を作ってから、助ける。

拍手は増えた。

誰も気づかなかった。

それは、日常だったからだ。

繰り返すうちに、規模は大きくなった。

事故。

混乱。

絶望。

そして、その中心に自分が現れる。

「大丈夫です」

手を差し伸べる。

拍手。

拍手。

拍手。

数えきれないほどの拍手。

気づけば、世界で一番価値のある人間になっていた。

誰も疑わなかった。

彼は“人を救う存在”だったからだ。

ある日、誰かが言った。

「あなたがいてよかった」

その言葉を聞いて、少しだけ考えた。

もし自分がいなかったら、

この不幸はなかったのではないか?

少しだけ。

本当に、少しだけ。

だがすぐに消えた。

拍手が鳴ったからだ。

思考は止まる。

また誰かを救う。

拍手。

やがて、世界は静かになった。

不幸が、足りなくなった。

どれだけ作っても、

もう人は驚かない。

拍手は減った。

価値が、下がっていく。

焦りが生まれる。

もっと大きな不幸を。

もっと深い絶望を。

そして——

最後に、すべてを壊した。

街が崩れ、

人が消え、

何も残らなくなった。

静寂。

誰もいない。

当然だ。

拍手を送る人間が、もういない。

しばらくして、気づく。

価値は、ゼロになった。

いや——

最初から、何もなかった。

ただ、“音”があっただけだ。

その音が消えた時、

自分も消えた。

最後に、一度だけ思う。

「これは、間違いだったのか?」

だが、答える者はいない。

拍手も、ない。

あなたもたくさんの拍手がもらえるといいですね。

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