拍手の数だけ
この世界では、人は“拍手”で価値が決まる。
何かを成し遂げた者、誰かを救った者、
人々に感動を与えた者には、拍手が送られる。
その数が、その人の価値だった。
主人公は、何も持っていなかった。
才能も、実績も、特別な過去もない。
ただ、普通に生きているだけの人間だった。
だから、考えた。
どうすれば拍手をもらえるか。
最初は、小さなことから始めた。
落とし物を拾う。
困っている人に声をかける。
少しだけ、拍手がもらえた。
嬉しかった。
初めて、自分に価値があると感じた。
もっと欲しくなった。
次は、少し大きなことをした。
危険な場所に飛び込んで、誰かを助ける。
大きな拍手がもらえた。
世界が変わった気がした。
だが、すぐに足りなくなった。
同じことでは、同じ拍手しかもらえない。
だから、考えた。
どうすれば、もっと拍手をもらえるか。
しばらくして、答えに辿り着いた。
“より大きな不幸”があればいい。
最初は、偶然だった。
事故が起きた場所に居合わせて、助けた。
拍手は今までで一番大きかった。
そこで、理解した。
拍手は、“救い”に対してではない。
“落差”に対して送られる。
深い不幸があるほど、
そこからの救いは価値を持つ。
なら——
不幸がなければ、作ればいい。
最初は、小さく。
誰かの物を少しだけ隠す。
それを見つけて、渡す。
拍手がもらえた。
次は、少しだけ大きく。
危険な状況を作ってから、助ける。
拍手は増えた。
誰も気づかなかった。
それは、日常だったからだ。
繰り返すうちに、規模は大きくなった。
事故。
混乱。
絶望。
そして、その中心に自分が現れる。
「大丈夫です」
手を差し伸べる。
拍手。
拍手。
拍手。
数えきれないほどの拍手。
気づけば、世界で一番価値のある人間になっていた。
誰も疑わなかった。
彼は“人を救う存在”だったからだ。
ある日、誰かが言った。
「あなたがいてよかった」
その言葉を聞いて、少しだけ考えた。
もし自分がいなかったら、
この不幸はなかったのではないか?
少しだけ。
本当に、少しだけ。
だがすぐに消えた。
拍手が鳴ったからだ。
思考は止まる。
また誰かを救う。
拍手。
やがて、世界は静かになった。
不幸が、足りなくなった。
どれだけ作っても、
もう人は驚かない。
拍手は減った。
価値が、下がっていく。
焦りが生まれる。
もっと大きな不幸を。
もっと深い絶望を。
そして——
最後に、すべてを壊した。
街が崩れ、
人が消え、
何も残らなくなった。
静寂。
誰もいない。
当然だ。
拍手を送る人間が、もういない。
しばらくして、気づく。
価値は、ゼロになった。
いや——
最初から、何もなかった。
ただ、“音”があっただけだ。
その音が消えた時、
自分も消えた。
最後に、一度だけ思う。
「これは、間違いだったのか?」
だが、答える者はいない。
拍手も、ない。
あなたもたくさんの拍手がもらえるといいですね。




