時を渡る王子は愛しのマリーに執着する
君の世界を一色に染める。そのためなら、僕は何度だって時を渡る。
——不快な匂いに染まっていた。シャツに染み込んだ香水の匂いは、本来であれば吐き気を催すだけのもの。でもあのときの僕は、それすらも愛おしいと感じていた。今回の君は、いつもよりも大胆で、強かだ。
君の言葉を信じ切ることができなかった僕に、君の伸ばした手を取れなかった僕に、生きている意味などあるのだろうか。マリー、君に会いたい。会いたくないと拒絶されても、遠くから見ていることすら許されなかったとしても、それでいい。ただ、この世に今君が存在しないという事実が受け入れられない。だから、また時を渡るよ。
「あなた以外なにもいらない」
君のくれた言葉を、今君に返せたら。僕もそうだ。君以外なにもいらない。
「この世界に私たちふたりだけだったら」
ねぇ、マリー。僕もそうだよ。ずっと、ずっと昔からそう願っていた。この世界に僕たち二人だけだったら。でも、きっと君は、この世界が本当に僕と君の二人だけで構成されていたとしたら、僕を求めることはなかっただろう。王子という肩書きがなかったら、僕がただの男だったら、輝きに満ちたあの瞳を向けてくれることもなかっただろう。
僕は君がどんな姿になっても、見つけ出したよ。天真爛漫な町娘であったときの君も、城の清掃員であったときの君も、痩せ細った孤児であったときの君も、言葉の通じない敵国の女兵士であったときの君も、変わらず愛してしまった。君がどんな姿になっても、どこにいても、僕は君を見つける。でも君は、僕が王子ではなくなったら、この顔に醜い傷でも負ってしまったら、僕の色なんて簡単に消してしまえる。結局、どこまでも僕の片想いだ。
綺麗事なんていらない。ただ僕を愛して。僕が君に対してそうであるように。僕の世界に存在するのは君だけなのに、君の世界はどうしてそんなにも賑やかなのだろう。僕の世界は君ひとりの存在で鮮やかに色づいていくのに、君の世界での僕は数ある色のうちの一色でしかない。
僕の物語は君一人で完結するのに、君はそうじゃない。多彩に色づく君の世界なんて嫌だ。見たくない。君の世界を一色に染めるために、僕は時を渡り続ける。




