表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神AIが勝手に依頼を受けてくるんだが!? 俺は田舎でのんびり暮らしたい  作者: 赤松勇輝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

15、どうしてここまで

 蛇のように蠢く階段——蛇階段は俺たちの接近に気づくと、口を大きく開けて禍々しい黒いブレスを放出してきた。放つ際の音はまるで子どもの泣き声のようで、胸にズキッとくる。


「何だよこれ。絶対に俺一人じゃ無理じゃねえかよ」

「……ま、任せてください!」


 ブレスなんて俺には防ぐことはできない。田所の補助異能で防ぎながら蛇階段へと接近していく。


 階段を駆け上がっていると——蛇階段が突然うねった。


「……いってえなぁ」

「新堂さん大丈夫ですか!?」


 登ったところで蛇階段がうねり、俺はそのまま情けない姿で地面へと転がり、枯れ木にあたってようやく止まることができた。


 田所は心配してくれたが、アリスは腹を抱えて大爆笑している。


『ウネウネしてるんだから、単純に登っても振り落とされるのは目に見えてわかってるでしょうに! これは傑作ね!』


 人が大変な目に遭ったのに、笑われるのは無性に腹が立ってくる。


「……わかってるんだったら先に言えよ!」

『見なくてもわかるでしょ! 橙綺くんって時々抜けているわよね』


 頭を使って疲れていると、思考力がどうにも落ちる。チョコレート二粒程度じゃそこまで回復しないか。


「はぁ……本当にうっせえ」


 だが、そうなるとどうやって登ればいいのだろう。アリスに聞いても時間の無駄だ。田所に相談するしかないか——。


「って、田所は何をしてるんだ?」


 田所を見ると、階段に手を合わせていた。そういえば、道中でもバグった絵馬たちの修正をした後でやっていたな。


「つーか、今までもバグった連中を修正した後で手を合わせてたけど、何してるんだ?」

「……バグが生じてしまった絵馬や手水舎、賽銭箱に狛犬たちは全てご神体様の悲しみを受け、バグが生じてしまっていたと思います」


 手を離した田所は俺に笑みを向けた。


「ですので、今まで見守っていただいてありがとうございました、と祈っていました。今も、お話がしたいので通してもらえませんかと祈ってみました」

「……そうだったのか」


 なるほど、さすがは大神官で巫女の田所だ。そんなことをしながら進んでいたのか。だから、俺が倒した魔物の数も覚えていたのだろう。


 俺は単純にバグを修正しながら程度の気持ちだった。バグが治ればそれでいいくらいの気持ちしかなかった。


「……うん?」


 だが、非科学的なことは、時に理論の範疇を超えた挙動を起こす。


「田所、階段の動きが遅くなってねえか?」

「そう言われると……そのような気がします」


 田所の祈りが届いたのか? 


 蛇階段はブルブルと震えている。俺たちを進ませようとしている様子もあるが、拒もうとしているようにも見える。


 とはいえ、今がチャンスだ。見たところ、コードも読み解きやすくなっている。今のうちに修正していこう。


 階段を登り、まだバグっているところに手を触れる。今まで以上に神体の気持ちの奔流が押し寄せてくる。


 ふらついて——


「新堂さん! 大変なのはわかっています。でも、頑張ってください!」


 倒れそうになったが、田所が回復しながら支えてくれる。それに、田所が触れていると神体の気持ちの奔流が穏やかになったように感じる。


 ……今まで祈りを捧げてきたからか? 


 そんなことはわからない。だが、先に進むにはこの階段を大人しくさせるしかない。集中してコードを修正していくと——


「——なッ!?」

「新堂さん! 見てください!」


 まるで拒絶されたかのように手が弾かれた。階段の修正が半分くらい終わったところで、修正の途中で大きな鳥居が出現して進行を止めてきた。


「……くそっ、まだ抵抗する気かよ」


 立ちはだかる鳥居から、これ以上は通さないという意思が形を取ったかのような、威圧感を感じる。


 ……つーか、異様に眠い。今までにないほど集中したせいだろう。目を瞑ってその場に寝転んだらすぐにでも眠れそうだが、今はそんなことをしている場合じゃない、場合じゃないのだが目を開けてられない。


「ご神体様……」


 背後から聞こえてくる田所の悲痛な声を聞いて、ハッとする。だめだ、寝てる場合じゃない。今は依頼の最中だ。それに、魔物と戦闘中だ。疲れたからって寝ている場合じゃない。


 眠気を飛ばすために頬を叩いた。


「……まだ、終わってねえよ。拒絶されたからって、諦めてたまるか!」


 立ち上がり、鳥居のそばまで進んで行こうとするが、蛇階段は揺れて俺の進行を妨げようとしてくる。


 ふらついて倒れそうになったところを田所が支えてくれた。


「……悪い、助かった」

「以前のお返しです」


 そういえば、田所が階段から落ちそうになったところを支えたこともあったな。まさか、同じシチュエーションで助けられるとは思わなかった。


 その場に片膝をつくと、田所が手をぎゅっと握るのが目に入った。


「どうした?」

「新堂さんは、どうしてここまで頑張ってくれるんですか?」


 地面には田所の涙がポタポタと落ちる。


「村には避難勧告だって出ていました。ダンジョンなんて危険ですし、今だって疲れて危ない状況でした。……逃げ出したって誰も責めない状況です」


 アリスと目が合う。 


『橙綺くんは、この世界を救う勇者だもんね』


 そんな理由では全くもってない。俺は俺の目的のために動いているだけだ。俺の責任を全うすること——それから、今後もアカツキ村で悠々自適な生活を送っていくため。


 深呼吸をしてから立ち上がる。足元がおぼつかずふらつくが、そんなことはどうでもいい。


「俺はなぁ……一度やると決めたことを途中で投げ出すのは、嫌いなんだよ」


 ハッとした表情の田所に加え、アリスは何だか含んだ笑みを浮かべている。あまり頭の回転が良くないから気にする気力も湧かない。


 全身が重い。頭はぼんやりして、視界の端がかすんでいる。それでも、一歩、また一歩と進む。なんでここまでしているんだろうな。馬鹿みたいだと自分でも思うが、それでも足を止めたくはなかった。


 ふらつきながら進んでいると、手を取られた。振り返ると、田所の決意に満ちたといった表情が見てとれた。


「……私も、諦めません! 私も、ご神体様を救いたいです!」


 そう言うと、田所はまた祈るように手を合わせた。心の中で何を祈っているのかはわからない。


 だが、明らかに蛇階段の動きが止まったように感じる。それに呼応するように、階段の周りにはキラキラと輝く絵馬が出現した。


 コードを読み取らなくてもわかる。気持ちのいい雰囲気だ。そのうちの一つに手を触れる。


 これは——おそらく幼少期の田所のものだろうご神体にお礼を言っている情景が頭の中に入り込んできた。それを嬉しそうに見つめている神体の感情も。


 田所と神体の良い思い出。田所の祈りによって思い出したのかもしれない。


『ねっ、言ったでしょ? 田所ちゃんなしではこの依頼の完遂は難しいって』


 隣でアリスが胸を張りながら、自信満々といった様子で言った。


 お前がでしゃばることじゃないだろ、と悪態をつこうと思ったが、目の前の神秘的な光景を目の当たりにしてしまうと野暮だと感じてしまう。


「あぁ、その通りだな」


 門のように立ちはだかる鳥居まで歩みを進め、鳥居に触れる。田所の祈りのおかげだろう。コードは非常に読み取りやすくなっている。


「……これだけお前を思ってる奴がいるんだ。もう拒む必要ねえだろ」


 コードを修正していく。門のように立ちはだかっていた鳥居は消え、続く蛇階段の先も普通の階段へと戻った。


「修正完了……もうダメだ」


 その場にへたり込むと、田所が駆け寄ってきた。


「新堂さん! ……ありがとうございます! これで、ご神体様にお会いすることができます。あっ、少ししかありませんがチョコレート食べますか?」

「くれ!」


 田所が差し出してくれたチョコレートをかっさらい、口に入れる。甘さが体全体に染み渡る。身体の奥に、もうひと踏ん張りできる力が戻ってきた。


『橙綺くん、お疲れ様! さぁ、最後の関門はクリアしたことだし。本命の神体と対面といくわよ!』


 このまま幸せな気持ちのまま眠りたいが、蛇階段はあくまで関門でしかない。本命は、神体のバグを修正することだ。


 ……もうひと頑張りだな。


「よし、ちょっと疲れも取れた。じゃあ、いくか」

「はい!」


 階段の先へと俺たちは歩みを進めた。いよいよ神体との対面だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ