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女神AIが勝手に依頼を受けてくるんだが!? 俺は田舎でのんびり暮らしたい  作者: 赤松勇輝


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1、勇者と女神?

 夕刻。


 田んぼの畦道を、浮遊原付エアバイクで流している。動力は電気。エンジン音はなく、聞こえるのは風で揺れる稲の音と、虫の鳴き声と、蛙の合唱くらいだ。


 茜色の空を眺めていると、自然とあくびが出てくる。


 ……のんびりしすぎたな。


 とはいえ、ただ浮遊原付を流しているわけじゃない。仕事先に向かっている——夕飯代を稼ぐために。


 ゴーグルの内側で目を細め、腕時計型デバイスをちらりと見る。画面の端に、冒険者ギルドの簡易依頼が表示されている。


 【調査:田んぼで暴走する鳥型カカシ(ファームガーディアン)】

 【ランク:F】

 【報酬:三千円】


「三千円か……これだけあれば数日はもつな」


 口に出した瞬間、背後から少女の声がかかった。


『全く、勇者様の力で小銭を稼ぐだけなんて』

「うるさいぞ……」


 俺の背中に腕を回して荷台に腰掛けている少女が、頬を膨らませている。


 腰まである白い髪を赤いリボンでひとつに束ね、虹色に輝く瞳は宝石みたいだ。ブレザーの制服のような格好も相まって、外国人のような見た目のアリスの姿は、畦道の風景には似合わない。


「アリス。俺の名前は新堂橙綺しんどうだいきだ。勇者じゃない」

『はいはい、橙綺くん。……でも、私にとっては運命の勇者なのよ』

「……ったく」


 アリスは、俺にしか見えない存在だ。本人いわく、百年前に崩壊しかけた日本を再構築した女神——らしい。


 学校を卒業して一人暮らしを始めた日に、何食わぬ顔で部屋にいて以来、ずっと俺の家に居座っている。


 俺は田舎で静かに暮らすつもりだったのに……。


 人混みは苦手だ。卒業したら、田んぼや山が見える近くの田舎で、ほどほどに稼いで、悠々自適な生活を送ると決めていた。


 ……なのに。


『目を細めて、風が嫌なの? ほらほら、髪が乱れちゃうよ』


 アリスが面白がって、わざと俺の無造作に伸ばしている茶色の髪を指でつまんでくる。鬱陶しいから俺は小さく息を吐いた。


「いきなり触るなよ。走行中だ、危ないだろ」

『危なくないよ。だって落ちるわけないし。なにせ、私は女神なんだからね!』


 ウインクをする女神様に言っても無駄だから、イラつく気持ちを鎮める代わりに浮遊原付のアクセルを強く踏む。


 目の前には、畦の向こうに広がる田んぼ。夕日に照らされた水面が、鏡みたいに橙色に光っている。


 そんな穏やかな景色の上を黒い影が、旋回している。腕時計型のデバイスが、依頼場所に到着したことを知らせるアラームが鳴ったから、浮遊原付を停める。


「……こいつか」


 鳥型のカカシ。


 田んぼの害鳥を追い払うための、ファームガーディアン。機械仕掛けの農村の守り手。普通なら、設定された範囲を回るだけのはずだ。


 なのに今は、まるで生きているかのように田んぼ全体を回り、時折、鋭角に落ちては舞い上がる。


「……思った以上に激しいな」


 黒い影がぶるりと震えた瞬間、空気がざらつくような音が走った。加えて、鳥型カカシにノイズが走る。


 目の奥が、軽く痛む。


『……ふむふむ、なるほどねぇ』


 アリスが、勝手に荷台から立ち上がる。


 やめろ、と言う前にアリスはカカシへ向かって手を振った。


『おーい、ファームガーディアンちゃーん。どうして暴れているのよ?』

「おいっ、何してんだっ!?」


 瞬間、鳥型カカシが旋回を止め、首をきゅるりとねじった。


『……えっ?』


 甲高い警報音が静かな田んぼに響き渡る。明らかに俺たちを警戒している様子で、カカシが一直線に突っ込んできた。


 目標は——


『ちょ、なにそれ、聞いてないわよ!』


 金属の翼がジャキンと広がり、鋭いクチバシの先端が光った。


 アリスがしゃがみ込むより早く、カカシのクチバシが彼女の頭をつつく。


『いたい! いたい! 私、女神なんだけどっ!?』

「……お前何してんだ?」

『ちょっと橙綺くん、笑ってないで助けてよ!』


 ……女神が、頭をつつかれて悲鳴を上げている。まぁ確かに、笑ってる場合じゃないな。


 ファームガーディアンの調査は、俺が受けた依頼だ。夕飯のためにも、さっさと片をつけよう。


 浮遊原付を畦道の端に停め、地面に足を下ろす。それから、ズボンのベルトに提げたポーチへ手を伸ばす。


「……分かったから静かにしてくれ。状況を見る」


 なるべく声を荒げず、短く言う。


 集中の先は、カカシ——じゃない。その奥だ。


 この世界のあらゆるものは、基本的に『0』と『1』のコードでできている。俺の服も、田んぼの水も、空気の密度——など、あらゆるものがコードの集合で定義されている。


 俺はコードを視認でき、触れれば書き換えることができる。


 目を凝らすと、鳥型カカシの輪郭の上に、薄い文字列が浮かんで見える。整然と並ぶはずの『0』と『1』が、ところどころ乱れている。


 そして、混ざっている。本来あるはずのないコード『Ω』や『Δ』が。


「バグか……」


 嫌な予感が確信に変わった。

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