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第5章 星々の彼方

これは対話形式のフィクションです。


リオが最後に老人を訪ねます。今回のテーマは「銀河への旅」。


光速の壁は本当に超えられないのか。世代宇宙船とは何か。ワープドライブの可能性は――


そして、老人が最後に少年に語る言葉。


章の後半に「解説編」を付けていますので、より詳しく知りたい方はそちらもどうぞ。




───




リオが五度目に老人の部屋を訪ねたのは、それから二週間後のことだった。


これが最後の訪問になるだろうと、リオは予感していた。木星への準備を本格的に始める時が来た。あと十年、いや十五年の準備期間。その間、リオは学び、訓練し、資格を取る。そして、いつか木星へ旅立つ。


だが、その前に、どうしても老人に聞いておきたいことがあった。


扉を開けた老人は、いつもと同じように微笑んだ。だが、その笑みには何か、別れを予感させるものがあった。


「また来たね、リオ君」


「はい。最後に、どうしても聞きたいことがあって」


老人は静かに頷き、リオを部屋に招き入れた。


窓の外では、地球が青く輝いている。月が銀色に光る。そして、遥か彼方に、見えないが確かに存在する木星がある。


二人は座った。


「それで、今日は何を聞きに来たんだい」


リオは深く息を吸った。


「先生、三つの律法を超えることは、できないんですか」


老人は目を細めた。


「超える?」


「はい。光速を超えて移動したり、質量の制約を無視したり、重力を自在に操ったり……そういうことは、本当に不可能なんですか」


老人は長い沈黙の後、静かに答えた。


「いい質問だ。それこそが、人類が二百年間問い続けてきた問いだ」


老人は立ち上がり、本棚から一冊のノートを取り出した。古く、使い込まれたノート。


「今日は、その話をしよう。可能性と、限界と、そして夢について」



老人はノートを開き、あるページを指差した。数式が並んでいる。


「まず、光速だ。リオ君、光速を超えることは可能だと思うかい」


「わかりません。でも、先生が『律法』って呼んだってことは、超えられないんですよね」


老人は頷いた。


「アインシュタインの相対性理論によれば、質量を持つ物体は光速に到達できない。光速に近づくほど、必要なエネルギーは無限大に発散する」


老人は窓の外を見た。


「だが、人類は諦めなかった。何世紀も、光速を超える方法を探し続けた」


「見つかったんですか」


老人は首を横に振った。


「直接的には、見つかっていない。ワープドライブ、ワームホール、超空間航法──どれも理論上は可能性があるが、実現には途方もないエネルギーが必要だ。太陽が一生かけて放出するエネルギーよりも多い」


老人の声が沈んだ。


「だから、人類は別の道を選んだ」


「別の道?」


「そうだ。光速を超えないまま、遠くへ行く方法を」


老人はページをめくった。別の図が現れた。宇宙船の設計図のようだ。


「世代宇宙船という概念がある。何世代もかけて、ゆっくりと星間を航行する船だ」


「何世代も?」


「そうだ。最も近い恒星、プロキシマ・ケンタウリまで、光速の十パーセントで航行しても四十年以上かかる。乗員は船の中で生まれ、育ち、老い、死ぬ。そして、子供たちが目的地に到達する」


リオは息を呑んだ。


「それって……悲しくないですか」


「ああ」


老人は静かに答えた。


「だが、それが現実だ。光速の壁は、私たちに『時間』という代償を要求する」


老人は別のページを開いた。


「あるいは、コールドスリープという方法もある。乗員を冷凍し、何十年、何百年も眠らせる。目覚めたときには、目的地に到着している」


「それは可能なんですか」


「技術的には可能だ。すでに実験も行われている。だが、問題は多い。冷凍と解凍の過程で、細胞が損傷する。記憶が失われる。目覚められない者もいる」


老人は目を閉じた。


「そして、何より孤独だ。目覚めたとき、君の知る世界は遠い過去になっている。家族も、友人も、すべて失われている」



「では、質量の問題はどうだい」


老人は別のノートを取り出した。


「ロケット方程式を覚えているかい」


「はい。速度変化は排気速度と質量比の対数で決まる、って」


「そうだ。そして、この方程式には抜け道がない。どんなに効率的なエンジンを作っても、推進剤は必要だ」


老人は拳を握った。


「人類は、この制約を緩和する方法を探し続けた」


「核融合エンジン。反物質エンジン。光子ロケット。どれも従来のロケットより遥かに効率的だ。だが、それでもロケット方程式からは逃れられない」


老人はため息をついた。


「だから、私たちは『推進剤を使わない』方法を考えた」


「推進剤を使わない?」


老人は頷いた。


「光帆という概念がある。巨大な帆を広げ、レーザー光を受けて加速する。推進剤は不要だ。レーザーのエネルギーだけで、光速の数パーセントまで加速できる」


「それはすごい」


「だが、問題がある」


老人は窓の外を指差した。


「レーザー光を発射する設備を、太陽系内に建設しなければならない。そのコストは莫大だ。そして、一度加速したら、減速できない。目的地で止まる方法がない」


「じゃあ、どうするんですか」


「目的地の恒星系にも、同じ設備を建設する」


老人は苦笑した。


「だが、それには先に誰かが行って、建設しなければならない。つまり、最初の船は別の方法で減速しなければならない」


「堂々巡りですね」


「そうだ。質量の呪縛は、簡単には解けない」



老人は立ち上がり、窓辺に立った。


「そして、重力だ」


「重力は、操作できないんですか」


老人は振り返った。


「重力を『発生させる』ことはできる。巨大な質量を集めれば、重力が生まれる。あるいは、回転させて遠心力を作る。このオルビタのように」


「でも、それは本物の重力じゃないですよね」


「そうだ。真の意味で重力を操る──つまり、質量なしで重力を発生させる、あるいは既存の重力を無効化する──それは、現在の物理学では不可能だ」


老人は遠くを見つめた。


「もし重力を自在に操れたら、すべてが変わる。宇宙船は推進剤なしで加速できる。惑星から離陸するのも容易になる。人工重力都市も、回転させる必要がなくなる」


「でも、できないんですね」


「少なくとも、今はできない」


老人は椅子に戻った。


「だが、リオ君、『今はできない』は『永遠にできない』とは違う」



リオは身を乗り出した。


「じゃあ、いつかできるようになるんですか」


老人は慎重に言葉を選んだ。


「わからない。だが、可能性はある」


老人はノートのあるページを開いた。理論物理学の論文のコピーが挟まれている。


「二十一世紀、ある物理学者がワープドライブの理論モデルを提案した。アルクビエレ・ドライブという」


「どういうものですか」


「宇宙船の前方の空間を収縮させ、後方の空間を膨張させる。船自体は光速を超えないが、空間の変形により、結果的に光速より速く移動できる」


リオの目が輝いた。


「それは可能なんですか」


「理論上は矛盾しない」


老人は指を立てた。


「だが、実現には『負のエネルギー』が必要だ。通常の物質は正のエネルギーを持つ。負のエネルギーを持つ物質は、自然界には存在しない」


「じゃあ、不可能なんですね」


老人は首を横に振った。


「不可能とは言えない。量子論によれば、真空にも揺らぎがある。ある特殊な条件下では、負のエネルギー状態が一時的に現れる可能性がある」


「それを利用できるんですか」


「わからない。だが、研究は続いている」


老人の声に希望が混じった。


「もし、何百年後、何千年後に、負のエネルギーを安定的に生成する方法が見つかったら。そのとき、ワープドライブは現実になる」



老人は別のページを開いた。図が描かれている。二つの点を結ぶ、曲がった線。


「もう一つの可能性がある。ワームホールだ」


「ワームホール?」


「そうだ。空間に穴を開け、遠く離れた二点を直接つなぐトンネルだ」


老人は紙を折り曲げて見せた。


「宇宙は三次元だが、実はもっと高次元の空間に埋め込まれているかもしれない。その高次元を通れば、遠くの場所に一瞬で到着できる」


「それは本当にあるんですか」


「理論的には可能だ。アインシュタインの方程式も、ワームホールの存在を許している」


老人は紙を広げた。


「だが、自然に存在するワームホールがあったとしても、それは極めて不安定だ。一瞬で閉じてしまう。通過することはできない」


「じゃあ、安定化させるには?」


「やはり、負のエネルギーが必要だ」


老人は苦笑した。


「結局、すべては負のエネルギーに行き着く。それが鍵なんだ」


老人は目を閉じた。


「もし、ワームホールを安定化できたら。太陽系と近隣の恒星系を結ぶトンネルを作れたら。光速の壁は、意味をなさなくなる」


「それって、先生の小説にあった『扉』みたいなものですか」


老人の目が開いた。驚いたような、嬉しそうな表情。


「君、私の小説を読んだのか」


「はい。歴史記録室で見つけて」


老人は静かに笑った。


「そうだ。あの『扉』は、ワームホールを想定している。ヴォクス・インフィニタという銀河規模のネットワークが、かつて存在した知的種族によって築かれ、今も機能している──それは夢物語だ。だが、不可能ではない」


老人は遠くを見つめた。


「もし本当にそんなネットワークがあったら。もし人類がそれを発見したら。銀河は、突然小さくなる」



リオは考え込んだ。


「でも、先生、そういう技術ができるまで、何百年、何千年もかかるんですよね」


「おそらくね」


「じゃあ、僕たちの世代では、木星までが限界なんですか」


老人は深く息を吐いた。


「そうかもしれない。だが、リオ君、それでいいんだ」


老人は立ち上がり、窓辺に立った。


「人類の歴史は、一歩ずつの積み重ねだ。月に行くまで、何十年もかかった。ラグランジュ都市を作るのに、百年かかった。木星に到達するのに、さらに何十年かかるだろう」


「そして、いつか、誰かが恒星に到達する。それはおそらく、君の孫の世代、ひ孫の世代だろう」


老人は振り返った。


「だが、その旅は、君が始めるんだ。木星への一歩が、やがて恒星への道になる」


「そして、何千年後、人類の子孫たちが銀河中に広がっているかもしれない。彼らは君のことを覚えていないかもしれない。だが、君の一歩がなければ、彼らは存在しなかった」


老人の声に温かみが戻った。


「時間は代償だ。だが、それは呪いではない。時間は、世代を超えて何かを築く機会でもある」



リオは立ち上がった。


「先生、じゃあ、いつか三つの律法を超えられるんですね」


老人は少し考えてから答えた。


「超える、というより、『共存する』んだ」


「共存?」


「そうだ。光速の壁は変わらない。だが、ワームホールがあれば、壁を迂回できる」


「質量の制約も変わらない。だが、光帆や重力アシストを使えば、制約を緩和できる」


「重力の支配も変わらない。だが、回転都市や人工重力技術があれば、その中で生きられる」


老人はリオの肩に手を置いた。


「律法を『破る』ことはできない。だが、律法を『理解し、その中で生きる道を見つける』ことはできる」


「それが、人類の知恵だ」


リオはゆっくりと頷いた。


「わかりました」


老人は微笑んだ。


「だが、リオ君、一つだけ覚えておいてほしい」


「何ですか」


「律法は絶対ではない」


リオは驚いて老人を見た。


「え?」


老人は窓の外を見た。


「かつて、人類は地球が宇宙の中心だと信じていた。それが覆された」


「かつて、人類は物質が連続的だと信じていた。原子が発見され、それも覆された」


「かつて、人類は時間が絶対的だと信じていた。相対性理論が、それを覆した」


老人は振り返った。


「私たちが『律法』と呼んでいるものも、現在の理解に基づいている。もしかしたら、何百年後、何千年後に、まったく新しい物理法則が発見されるかもしれない」


「そのとき、すべてが変わる」


老人の瞳に、遠い未来への希望が宿った。


「だから、諦めるな。今は不可能に見えることも、いつか可能になるかもしれない」



部屋に沈黙が満ちた。


リオは深く息を吸った。


「先生、ありがとうございました」


「どういたしまして」


老人は椅子に座った。疲れているようだった。


「リオ君、最後に一つだけ言っておきたいことがある」


「はい」


老人は真剣な表情で少年を見た。


「技術は、道具に過ぎない」


「道具?」


「そうだ。ワープドライブも、ワームホールも、世代宇宙船も、すべて道具だ。大切なのは、それを何のために使うかだ」


老人は立ち上がった。


「もし人類が、銀河を征服するために技術を使うなら、私たちは侵略者になる」


「もし人類が、資源を搾取するために技術を使うなら、私たちは略奪者になる」


「だが、もし人類が、知識を求め、生命を尊重し、共存を目指すために技術を使うなら──私たちは探求者になる」


老人はリオの目を見た。


「君が木星に行くとき、君は何を目指す」


「生命を見つけたいです。そして、理解したいです」


「それでいい」


老人は満足げに頷いた。


「技術は進歩する。いつか、光速の壁を超える方法も見つかるだろう。だが、それ以上に大切なのは、私たちの心だ」


「謙虚さ、好奇心、そして他者への敬意。それがなければ、どんな技術も無意味だ」


老人の声が静かに響いた。


「星々の彼方に行くことは、目的ではない。手段だ。本当の目的は、そこで何を学び、何を理解するかだ」


10


リオは深く頷いた。


「先生、僕、行ってきます」


「ああ、行きなさい」


老人は立ち上がり、リオの手を取った。


「木星で、エウロパで、ガニメデで、何を見つけても、地球に伝えてくれ」


「約束します」


老人は微笑んだ。


「そして、いつか、君の子供たちが恒星に向かうとき、君が学んだことを伝えてあげなさい」


「三つの律法のこと。AIとの共生のこと。生命への敬意のこと。そして、時間という代償のこと」


「それらすべてを、次の世代に」


リオの目に涙が浮かんだ。


「先生、また会えますか」


「わからない」


老人は正直に答えた。


「私はもう年だ。君が木星から戻ってくる頃、私はここにいないかもしれない」


「でも、大丈夫だ」


老人はリオの肩に手を置いた。


「私の言葉は、君の中に残る。君が誰かに語れば、私の思いはそこに生き続ける」


「人は死ぬ。だが、知識と思いは、世代を超えて受け継がれる。それが人類の強さだ」


リオは深く頭を下げた。


「ありがとうございました、先生」


「ありがとう、リオ君。君のような若者に出会えて、私は幸せだった」


リオは扉に向かった。


だが、ドアノブに手をかけたところで、最後に振り返った。


「先生、星々の彼方に、何があると思いますか」


老人は長い沈黙の後、静かに答えた。


「答えがある」


「私たちは何者なのか。どこから来たのか。どこへ行くのか。宇宙に、私たち以外の知性はいるのか」


「その答えが、星々の彼方にある」


老人は窓の外を見た。


「そして、もしかしたら、もっと大きな問いの答えもあるかもしれない」


「もっと大きな問い?」


「そうだ。『なぜ宇宙は存在するのか』『なぜ私たちは存在するのか』──そういう、根源的な問いの」


老人は振り返った。


「だから、行きなさい。そして、探しなさい。君が見つけるものが何であれ、それは人類の宝になる」


リオは深く頷き、扉を開けた。


「さようなら、先生」


「さようなら、リオ君。どうか、無事で」


扉が閉まった。


エピローグ


老人は一人、窓際に立った。


地球が、月が、静かに流れていく。


遠くに、木星がある。


さらに遠くに、土星、天王星、海王星がある。


そして、その彼方には、無数の恒星が広がっている。


老人は目を閉じた。


心の中で、遠い未来を思い描く。


リオが木星に到達する。


リオの子供たちが、恒星に向かう。


リオの孫たちが、銀河中に広がる。


何千年後、何万年後。


人類は、星々の海を渡っているだろう。


三つの律法と共に生き、AIと共存し、生命を尊重し、知識を求めながら。


老人は微笑んだ。


それは、美しい未来だった。


扉が再び開く音がした。


老人は振り返った。


だが、そこには誰もいなかった。


風が吹き込んだだけだった。


老人は静かに笑った。


「幻聴か。年だな」


だが、心のどこかで、老人は思った。


あれは風ではなく、未来からの声だったのかもしれない、と。


リオの声。


リオの子供たちの声。


そして、遥か遠い未来、星々の彼方で生きる人類の声。


「ありがとう」と言っている声。


老人は窓際に立ち、最後にもう一度、宇宙を見上げた。


星々が瞬いている。


無数の光。


無数の可能性。


無数の夢。


「行きなさい」


老人は静かにつぶやいた。


「星々の彼方へ」


「そして、教えてくれ」


「宇宙の果てに、何があるのかを」


部屋に沈黙が満ちた。


だが、それは終わりの沈黙ではなかった。


始まりの沈黙だった。


新しい旅の、始まりの。


窓の外では、地球が再び姿を現した。


青い惑星。


人類の故郷。


だが、もはや唯一の家ではない。


宇宙が、人類の家になりつつある。


老人は深く息を吐き、椅子に座った。


そして、静かに目を閉じた。


心は満たされていた。


自分の役割は、果たした。


あとは、若い世代に任せればいい。


彼らが、未来を作る。


彼らが、星々に到達する。


彼らが、答えを見つける。


老人は微笑んだまま、深い眠りに落ちていった。


夢の中で、老人は星々の海を航行していた。


巨大な宇宙船に乗って。


リオと共に。


そして、遥か彼方に、光が見えた。


新しい恒星。


新しい惑星。


新しい生命。


老人は、その光に向かって手を伸ばした。


「ああ、美しい」


夢の中で、老人はつぶやいた。


「これが、星々の彼方か」


そして、光の中に消えていった。




───




【解説編】恒星間航行の科学

老人が語った恒星間航行――これは現在の人類にとって、最も困難な挑戦です。今回は、その科学的背景を詳しく見ていきます。




1. 光速の壁

光速:秒速約30万km(正確には299,792.458 km/s)




これは宇宙の絶対的な速度制限です。




アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)によれば:




· 質量を持つ物体は、光速に到達できない


· 光速に近づくほど、加速に必要なエネルギーが無限大に近づく


· 光速に近づくほど、時間が遅くなる(時間の遅れ)




最も近い恒星までの距離



プロキシマ・ケンタウリ:4.24光年




光の速さで4.24年。


でも、私たちの宇宙船は、光速の0.01%も出せません。




現在最速の探査機:


· ボイジャー1号:秒速17km(光速の0.0057%)


· パーカー・ソーラー・プローブ:秒速192km(光速の0.064%)




この速度でプロキシマ・ケンタウリまで行くと:


→ 約7万年かかります。




2. 世代宇宙船(Generation Ship)

恒星間航行に現実的な唯一の方法(現在の技術で):




世代宇宙船




巨大な宇宙船に数千人〜数万人が乗り込み、何世代もかけて目的地に到達する。




必要な要素



· 自給自足の生態系


食料、水、空気をすべて循環させる閉鎖系。




· 遺伝的多様性


近親交配を避けるため、最低でも数千人が必要。




· 社会の安定


何世代も、目的地を見ることなく船内で生きる。


反乱、戦争、文明の崩壊を防ぐ必要がある。




· 技術の継承


宇宙船の維持・修理技術を失わないこと。




課題



· 莫大なコスト:人類史上最大のプロジェクト


· 倫理的問題:宇宙船で生まれる子供たちは、地球を見ることなく死ぬ


· 目的地が住めない可能性:到着しても移住できないかも




3. ワープドライブの可能性

SF小説でおなじみの「ワープ」。これは可能なのでしょうか?




アルクビエレ・ドライブ



1994年、物理学者ミゲル・アルクビエレが提案した理論:




宇宙船の前方の空間を縮め、後方の空間を伸ばす。


すると、宇宙船は「空間の波」に乗って移動できる。


光速を超えないが、空間自体を曲げるので光速の制約を回避できる。




問題点



· 負のエネルギーが必要


「エキゾチック物質」と呼ばれる、理論上の物質。


存在するかどうか、不明。




· 莫大なエネルギー


初期の計算では、木星の質量に匹敵するエネルギーが必要。


最新の改良案でも、太陽が1秒間に放出するエネルギーに匹敵。




· 因果律の問題


ワープドライブが可能だと、タイムマシンも可能になる(理論上)。


「親殺しのパラドックス」が発生する。




結論



理論的には否定されていない。


でも、実現可能性は極めて低い。




少なくとも今後100年では、無理でしょう。




4. その他の恒星間航行の方法

レーザー推進ブレークスルー・スターショット



超小型探査機(数グラム)を、地上からの強力なレーザーで加速。


光速の20%まで加速できれば、プロキシマ・ケンタウリまで20年。




· 実現可能性:高


· 課題:減速できない、データ送信が困難




核融合ロケット



核融合反応を推進力にする。


理論上、光速の10%まで加速可能。




· 実現可能性:中


· 課題:核融合炉の小型化、燃料の確保




反物質ロケット



物質と反物質の対消滅で得られる莫大なエネルギーを利用。


理論上、光速の90%まで加速可能。




· 実現可能性:低


· 課題:反物質の生成・貯蔵が困難




5. 相対論的時間の遅れ

もし光速に近い速度で移動できたら:




宇宙船内の時間は遅くなる




例:光速の99.9%で移動した場合




· 地球での経過時間:10年


· 宇宙船内の経過時間:約5ヶ月




つまり、乗組員にとっては短時間でも、地球では何十年も経過している。




浦島効果と呼ばれます。




6. それでも、なぜ行くのか

老人がリオに語った最後の言葉。




困難で、時間がかかり、自分は到達を見られない。




それでも、なぜ?






それは、人間の本質だから。




· 未知を知りたい


· 地平の向こうを見たい


· 次の世代に、何かを残したい




何万年前、私たちの祖先はアフリカを出ました。


地平の向こうに何があるか、わからないまま。




その子孫が、今、星々を見上げています。




同じ問いを抱いて。




7. 参考文献



入門書

『恒星間飛行』ジム・アル=カリーリ(白揚社)


『Newton別冊 相対性理論』(ニュートンプレス)




専門書

『Interstellar Travel and Multi-Generation Space Ships』Yoji Kondo他


『The Starflight Handbook』Eugene Mallove & Gregory Matloff




ウェブ資料

Breakthrough Starshot: https://breakthroughinitiatives.org/initiative/3


NASA Technology Roadmaps: Interstellar Travel


アルクビエレ・ドライブの解説(日本語)




───




【次回予告】

総括「SF的思考の未来」


この連載で、私たちは5つの対話を追ってきました。




重力、AI、木星、地球外生命、そして銀河への旅。




次回は、これらすべてを振り返り、


「SF的思考とは何か」


「なぜ私たちは宇宙を夢見るのか」


について考えます。




そして、あなたへの問いかけ――




来週水曜20時(1月15日)、お楽しみに。

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