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その古びたビルで非日常は続く  作者: ケンプファー
9/14

8

場所はオフィスの中。


俺と塚原ちゃんがオフィスを出てから、五分ほど経った頃だ。


俺と塚原ちゃんを見送ったユイたんは、デスクの上に乱雑に置かれた、思ったよりも多いA4の紙の束を見ていた。もちろん、白紙のA4ではない。当然、今回依頼された業務内容が書かれた書類だ。


書類に書かれた膨大な量の文字が、びっしりと余白を埋めている。思わず眉がひそめられる。これほど多くの注意事項、人的事項、場所に関する情報などが書かれた書類を見たユイたんは、手に力が入らなくなったのか、それとも自ら力を抜いたのか、持っていた書類の束が手から滑り落ちる。どうやら、ものすごく面倒くさいらしい。


ユイたんは苛立ちが加わった無気力な口調で、地面が沈むようなため息をつきながら。


「おい……チコリ……これ……あまりにも大変そうじゃないかな……」


サカセガワさんはそれに同調するように、デスクに突っ伏したまま。


「う……仕事したくない……嫌だ……嫌だよう……」


さっきからサカセガワさんは仕事をしたくないと駄々をこねている。書類を見ると仕事をしなければならないと実感するのか、書類は散らかったままだ。やはり無責任である。


今日に限って、どういうわけかユイたんとサカセガワさんは気が合う。「面倒くさい」という感情によって、二人はチームを組んだかのように、互いに無気力さを増幅させる言葉を交わす。


「う……きっと、この仕事をしたら体が持たないだろう。」


チコリさんの不満。


「そうだろうね……痛いだろうね……」


それに頷きながら相槌を打つユイたん。


二人の歪んだ大義名分は、どんどん大きくなっていくようだ。名分が大きくなるにつれて、「うぇーん、面倒くさい」といった駄々をこねる二人の姿に。オフィスに残っているもう一人の人物は、この醜い光景を見ていたくなかったのか。ユイたんとサカセガワさんの携帯電話に振動が走る。


[出て行け。殺す前に。]


いつものヒサトさんの簡潔なメッセージ。ヒサトさんはあの二人の不満にものすごい苛立ちを覚えたようで、この短い文字列からは、凄まじい殺気と冷気が絶妙にバランスを維持し、互いの気を殺さないまま、それぞれが明確に発散しており、二つの気はテキストに非常によく溶け込んでいる。殺気と冷気の乱れのない完璧なコンボ。「文字でも人を殺せるだろう」と感じるほどの、あのメッセージは非常に恐ろしい。さすがヒサトさんだ。簡潔だが大きな恐怖を引き起こす。


とにかく、このメッセージを見て、二万年前の氷河期の大陸に立っているかのような悪寒が走った二人。びくっと驚き、二人の足は現在の雰囲気を読んだのか、無意識的に稼働し、二人は席から跳ね起きる。そして、メッセージの重圧感に押し潰されたせいか、硬い動きで書類を整理する。


「……あはは、お、面白そうじゃないか〜早く片付けてくるよ……」


ネジが外れた機械のように話すサカセガワさん。たった今感じた恐怖感で言葉はどもり、顔は腐ったような笑顔を浮かべながら。どうにか無理やり動く。


「……そ、それじゃ、さっさと行くよ、チコリ〜」


ユイたんもサカセガワさんと似た様子だ。


本当に、今日のユイたんとサカセガワさんは息がぴったり合うようだ。


駐車場に降りてきた二人。


「えへへ〜!それでも俺の愛しい愛馬を見ると、元気が出てくるよ〜。」


目的が業務用車両なのか、私心なのか区別がつかないクーペを見てニヤニヤするサカセガワさん。


「うふ……今日もお前は美しいね、俺のBRZ〜」


クーペに乗ったサカセガワさんは幸せな表情でステアリングホイールに何度もキスをしている。


「どうにも不便だよ、これ。ミニバンでも買えばいいじゃないかな。」


狭苦しいクーペを見て不満を言うユイたん。俺もある程度は同感だ。なぜある程度か?先に言った通り、俺も運転するのは好きだからな。まあ、まあ、とにかく。


サカセガワさんはジロリと睨みつけながら、なぜか車両のエアコンの穴を手のひらで塞ぎながら。


「うちのBRZちゃんが聞いたらどうするつもりだい!言葉に気をつけな、ハシノ君!」


何だ、エアコンの穴が耳なのか。


「はいはい〜」


皮肉を言うユイたん。


「う……とにかく、出発……」


皮肉を言われたサカセガワさんは少しむくれている。


「いやぁ……今日の天気はすごく良いね……ミカドの野郎が羨ましいよ。」


走る車の中から窓の外を見ているユイたんは感嘆の声を上げる。


「う……」


憂鬱そうなサカセガワさんの声。サカセガワさんはまるで自分が外で天気を満喫しているべきだったという表情で運転する。


「チコリ〜これ、間違ってないかい?」


指先でざっと持った書類をひらひらさせながら尋ねるユイたん。


「そうじゃない。」


「だけどさ、場所が図書館だなんて。何かおかしいんじゃないのかな。」


そうだ。引き受けた業務の中で、最も重要そうなものから処理する二人だった。業務内容は以下の通りだ。


依頼者はHH(ダブルH)。HHはコードネームのようなものを持つ個人なのか、あるいは集団なのかはよく分からないが。


最も重要な「我々にどうしてほしいのか」。つまり、目標は非常にシンプルだった。


「図書館へ行き、『カデ・アキヒロ』という男を見つけ、指定された場所に配達」すること。これで終わりだった。


では、一体書類の膨大な量は何なのか?


それは、配達場所と図書館の位置、内部設計図と注意点。これらは書類1ページ分も満たしていなかった。残りの膨大な書類の内容は、目標であるカデ・アキヒロを除いた、図書館にいる予想される人員すべての人的事項だった。人の特技、弱点、過去の出来事一つ一つが書かれており、人が生きてきた人生が書類の分量を満たしていた。それゆえに、書類の内容からは狂気、あるいはある種の不快感が感じられる。


もちろんユイたんとサカセガワさんは書類を細かく読んでいない。生面識のない他人のすべての人的事項を知りたい人がいるだろうか。内容を作成したHHは、どうやらどこかおかしな人物のようだ。


とにかく二人は図書館に向かっている。


「……図書館か……」


サカセガワさんは小さく呟き、場所についてじっくり考えているようだ。


図書館に関する詳細な内容は以下の通り。


ミシマ市のすぐ隣、シオン市。シオン市はミシマ市よりも約3分の1ほど人口が少ないため、人通りはさらにまばらだ。そんなシオン市の最も人通りの少ない最外郭に位置する小さな図書館。図書館を利用する人があまりにもいないせいで、閉鎖が計画されている。事実上放置中ということだ。それゆえに、今の時間帯なら人は一人もいないだろう。ならばカデ・アキヒロはなぜ死にかけの図書館にいるのか?小さくて保管中の書籍もあまりないだろうに?まあ、行ってみれば分かるだろう。


二人を乗せたクーペは、図書館の裏に停車する。


二人はクーペから降り、目の前の図書館を見つめる。図書館の大きさは小さい方だが、階が分かれている。


全2階。1階と2階の構造は全く同じだ。


ユイたんはサカセガワさんをちらっと見て。


「さあ、じゃあチコリ。何か考えたプランとかはあるかい?」


ユイたんの言葉に、サカセガワはフッと笑い。


「誰だと思っているんだい?当然、ないだろう。」


それにユイたんは銃を装填しながら、同じようにフッと笑う。


「だろうね。」


サカセガワさんは左腕をぶらりと振りながら。


「さあ、入ってみるか。」


ギィと図書館のドアが開く。ドアが開く音に、スーツを着たある男性が近づいてくる。


「ここは閉鎖されました。別の図書館をご利用ください。」


太い声でサカセガワさんを見下ろしながら話す男性。


「あーあー、そうですか。人を探しているんですが、カデ・アキヒロという。」


愛想よく笑いながら話すサカセガワさん。目の前の男性の反応を見ているのか、それとも本当に会話で試みようとしているのか。


「……そのような者はいません。別の図書館をご利用ください。」


男性はしばらく沈黙した後、目を細めたままで、さっきと同じ言葉を繰り返す。


「えい〜そう言わずにさ〜ここにいるだろう?」


もう一度笑いながら話すサカセガワさん。


男は深いため息をつき、サカセガワさんを睨みつけながら。低く抑えた声で。


「失せろ。」


男性はドアをバタンと閉める。


閉ざされたドアの前でサカセガワさんの微笑は消える。やがて怒ったような表情を浮かべる。サカセガワさんの表情を見たユイたんは笑いながら。


「あはは、断られたねチコリ〜」


サカセガワさんを嘲るように指さしながら笑うユイたん。


それにさらに怒ったのだろうか、サカセガワさんはすぐにドアを勢いよく開け。


「いるだろう。」


苛立ったような声で男を睨みつけながら話すサカセガワさん。


男性も怒ったのか。袖を捲りながらずんずんと近づいてくる。


サカセガワさんの目の前に立つ男性。彼もまた怒った声で。


「失せろ。」


それに、


男性の言葉が終わるやいなや、サカセガワさんは左手を男性の腹部に当て。


「パチチチチチッ」という音とともに男性はふらりと倒れる。


何だか、タンパク質の焦げた匂いがする。


そうだ。男性は電気ショックを受けたのだ。サカセガワさんの左手から出た高圧の電気は、男性を焼き焦がしたのである。


「あれ?死んじゃったのか?まずいじゃないか!」


戸惑った様子のサカセガワさん。電流が強すぎたのか、倒れてしまった男性は焦げた匂いを漂わせながら微動だにしない。


「うう……気絶させて尋問するつもりだったのに……」


「調節しなよ。」


そんなサカセガワさんをチッと舌打ちしながらたしなめるユイたん。


「チコリ、そろそろ入ろうか。カデ・アキヒロは確実にいるみたいだね。」


ユイたんはポケットの銃を取り出しながら話す。


「う……分かったよ。どうやって探せばいいだろうか。」


「うーん、とりあえず一緒に行動しつつ、同時に死角を消そうか。これなら安全に探せるんじゃないかな。どうせカデ・アキヒロは2階にいるだろうしね。」


「そうだろう。」


短い作戦会議を終え、二人は図書館の中へ入っていく。

次回(じかい)もどうぞお(たの)しみに!

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