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「うん、これくらいでいいかな?」
ユイは両手をパンパンと叩きながら言った。目の前には、ロープでしっかりと縛られた最後の男がいる。1対10という圧倒的な戦力差にもかかわらず、単身で戦った女性に手もなく敗北してしまったことに、この最後の男にはサカセガワの存在が「規格外」として脳裏に焼き付いており、原始的な恐怖に包まれている状態だ。
男がどれほど震えているのか、もしやマイナス30度の寒さに裸で放り出されたのではないかと、焦点の合わない目で、ただ体のあらゆる部分を震わせている男を見て、あと何時間経てば正気に戻り、精神的な安定を取り戻すだろうかとため息をつくユイだ。
近くに転がっている男たちの死体が目に入る。サカセガワ・アキミという女性が単身で8人を5分もかからない時間で全てあっさりと倒してしまった。ユイは入社以来、そんなサカセガワの姿を初めて見た。何度か一緒に仕事に出たことはあるが、サカセガワは後ろで見ているだけで、一度も業務に携わったことはなかったのだ。
サカセガワの左手から理由が不明だが電気を流せるということは、以前に何度かサカセガワが「面白いもの見せてあげるよ〜」と左手で掴んだ空の電球を明るくし「じゃじゃーん!!」と社長という地位に似合わない情けない、しかしながら人間の体から電気が出るという不思議な光景で初めて認識したのだ。
まあ、その電気を人を倒すときに使うとは知らなかったけどね。
とにかく、サカセガワの身体能力も身体能力だけど、20代後半の若さにもかかわらず、どういうわけか数多くの経験が積み重なり、完璧な戦闘センスを見せつけたこと、そしてユイも戦闘センスと射撃術に自信があるだけに、僕と同等か、あるいはそれ以上かもしれないサカセガワを見て、<オムニア>の社長という地位にいるサカセガワが納得いく気がするよ。
だけど、どうして普段と違ってサカセガワは直接的に戦闘に参加したんだい?
どんな風が吹いたのかな?それとも前回、無報酬で仕事をさせたことへの贖罪かい?
何であれ、現時点ではこの原因不明の理由が一番気になるユイだけど、さっきから図書館の内部で何か引っかかることがあるので、個人的な好奇心は後で考えることにして、まずは図書館を探索しようとするユイだ。
ゆっくりと図書館を見回す。
図書館の内部、内部の備品、天井、壁面、雰囲気など、全てを見回す。
ユイが現在この図書館について最も不審に思っている点は、この図書館が全2階建てという点だ。
屋外から図書館の外観を見ても、上下の階にしか窓がないんだ。
ユイは天井から落ちたパネルをよく見る。落ちたパネルの大半は、落ちた衝撃による深い傷があるだけだ。割れたりひびが入ったりしているパネルは、せいぜい2枚程度だ。
パネルが落ちた場所の天井には、様々な配管と電線が見える。数多くの埃、蜘蛛の巣があり、どういうわけか配管を囲む発泡スチロール製の品物は全て破れたり擦り切れたりしており、電線は被覆が剥がれて、本当に危険そうだったので、古くに建てられた図書館であるだけに、雑な作りだね。
この図書館は全2階建てだ。
だけど、何かおかしい。2階建てにしては建物が高すぎるんだ。
3階建てというわけではない。3階建てとして工事されたにしては、それは低すぎるだろう。およそ8メートルくらいかな。
2階建ての建物には少々不釣り合いな高さだ。
ユイは哀れにも銃撃を受けて崩れた本棚の上に登り、パネルを剥がして天井を叩いてみる。
ドンドンというかすかな空洞音。天井の断熱材はそれほどしっかりしていないようだね。つまり、1階と2階の間の距離は遠くないということだ。断熱材が薄ければ、天井も薄くなるものだ。そうなると、その分、階下の騒音は強くなり、2階を歩く音は1階ではドンドンという不快な騒音として聞こえるはずだ。
なのに、2階には間違いなくサカセガワがいるはずなのに、どういうわけか動く足音が聞こえないんだ。
とにかく、薄い天井があるから、こうなると、1階の高さはおよそ3メートル80センチメートル程度でなければならないはずだ。
だとしたら、天井のパネルが落ちる際、十分に割れてもおかしくないだけの運動エネルギーを持っているはずだよね。だけど、パネルはほとんど割れていない。ひびもほとんど入っていないよ。
この全ての状況に異常を確信したユイは、近くの備品を見ておよそ1階の階高を計算する。
顔を向けた途端に見えるのは木の書棚だ。この一定の間隔で配置されている木の書棚の高さが2メートル程度だ。木の書棚が配置されている空間の余裕の高さはおよそ30センチメートル残っている。
この全てを総合してみよう。だとしたら自然とこの建物の1階の階高は2メートル30センチメートルになる。
それなら、1メートル50センチメートルほどはどこへ行ったんだい?やはり何かおかしいよ。
おおよその階高計算を終えたユイは、2階にも聞こえるほどの大きな声でサカセガワを呼ぶ。
「おーい、チコリ!!! 2階の階高はどれくらいだい!!!」
一瞬の静寂の後。
「大体3メートルだ!!! なぜだ!!! 何かおかしいのかい!!!」
2階から聞こえてきたサカセガワの声。
おそらく2階も、1階と同様に2メートル30センチメートルだろう。
「とりあえず2階にいてくれ!!! 何かあったら呼ぶからね!!!」
サカセガワの言葉を聞いたユイは、何かパズルが合ったのだろうか、すぐに2階へ上がる階段へと向かう。
階段を見上げるユイ。
やはり、階段の高さが高すぎるな。そして、どういうわけか段数も他の建物に比べて多い気がする。
この意味は何だい?「使用していない高さ」が存在するという意味だ。
ユイは僕の理論をさらに明確にするために階段を登り始める。
この人間工学に基づかない階段の高さは膝を酷使するのに十分だ。ただでさえ小さな体格を持つユイは、ぶつぶつ言いながら懸命に階段を登る。
だいたい1階と2階の間、階段の途中で立ち止まったユイは、隣の壁を叩いてみる。
コンコンという音。何か空洞の音がする。
ユイは確信する。これは**「間仕切り壁」だ**。しかも、ある程度の厚みもなく、非常に薄い間仕切り壁だ。
そして、間仕切り壁の裏の空間は高い確率で空いているだろう。
ユイは息を吸い込み、ただでさえ狭い空間で間仕切り壁との距離を取るために、最大限体を外壁に密着させる。
そして続くユイの助走。たった一度の助走だけど、それでも目の前のまるで段ボールで作られた家のように脆い壁を打ち破るには十分だ。ユイは助走で得た追加の力でキックを放つ。ドン!という音とともに、間仕切り壁には大きな穴が開く。
「やっぱりね!」
間仕切り壁の裏に隠されていた光一つない純度の高い暗黒でできた真っ暗な空間が露わになる。
ユイは僕が正確だったことにわずかな笑みを浮かべ、残りの間仕切り壁を壊すために、穴を銃の硬い下部を使って広げる。ブスブスという音とともに、穴から生じたひびが広がり、穴が大きくなる。
これで、ユイの推理は成功だ。図書館の1階と2階の間に、追加の「1.5階」とでもいうべき空間が存在するのだ。
「2階にカデ・アキヒロはいないだろう。きっとこの空間にいるはずだよ…!」
確信に満ちた声で、独り言をつぶやくユイ。
人が入れるくらい穴を広げたユイは、もう一度サカセガワを呼ぶ。
「チコリ!!! 2階に何もいないよね?! すぐに階段を降りてきてくれ!!!」
2階からドタドタという速い足音が聞こえる。おそらくサカセガワのものだろう。
「カデ・アキヒロを見つけたかい?」
「いや、まだ見つけてないよ。だけど1.5階…とでもいうのかな、隠された空間を見つけたんだ。建物設計当時からあった空間みたいだけど、どういうわけか隠されてたみたいだ。」
ユイは携帯のフラッシュライトで空間をあちこち照らしながら言った。フラッシュライトに照らされた空間、空間の奥には狭そうに間仕切り壁があちこちに立てられている。
「2階にカデ・アキヒロはいなかったよね?多分ここにカデ・アキヒロがいるだろう。」
「そうかい、よく見つけてくれたね、ハシノ君。」
サカセガワは「よくやった、よくやった」とユイの頭をペットのように一度撫でると、暗黒の空間へと入っていく。ユイはペット扱いされて撫でられたのが気に食わなかったのか、非常に不機嫌な表情で後ろからサカセガワを睨みつける。
やがてユイも暗黒の空間に足を踏み入れる。
ドンドンという足音。おそらく床の厚さがかなり薄いのだろう、空虚な音を立てる。さっきの段ボールのような脆い間仕切り壁を思い出し、僕が踏んでいる床がフスッと崩れるのではないかと、緊張するユイだ。
目の前に置かれた脆い間仕切り壁。工事が不十分だったのか、本来ならこのただでさえ狭い空間に間仕切り壁で別に区画を分けて、さらに狭くするつもりだったようだけど、間仕切り壁が完全に繋がっていないまま、まばらに不規則に立てられている。
この図書館の設計者が誰なのか非常に疑わしいユイだ。本当にひどい作りだね。
空間の内部は非常に雑然としていた。
フラッシュライトであちこち道を照らしながら空間を探索するけど、壁と天井には何の仕上げ処理もされていないのか、配管にはひびが入り、もし水でも流れたらすぐに漏れて水浸しになるほどだ。電線は1階で天井を見上げた電線と同じく、大半が被覆が剥がれており、まるで人間の毛細血管のように整然とせず、あちこちに絡み合っていた。だから、配管から水が漏れれば被覆が剥がれた電線によって水浸しが生き地獄になるほどだ。
やがて二人は小さく古びた鉄製のドアを発見する。
まるで悪名高い孤島にある収容所の独房のように、ユイが頭を下げなければ入れないほどのドアの大きさ。ドアには錐で開けたように5センチメートルほどの小さな円が3つ、空気を通しているようだった。ドアの蝶番は錆びの程度が非常に大きく、手を触れただけで破傷風にかかりそうだ。ドアの前には鋼鉄製の段差があり、ドアノブは存在しないようだ。中からどのような方法を使っても脱出できないようにするためだろう。
ただ、目の前に存在するこの醜悪な鉄製のドアは、誰かを閉じ込めるために設計されたとしか言えないよ。
サカセガワは小さく開いた穴に顔を突っ込みながら、
「うーん…このドアの中にいるだろうか?」
「そうだろう。ドアから離れてくれ、チコリ。」
ユイはドアから2メートルほど離れる。サカセガワはユイの行動を見てドアから離れる。
ふうと息を吸い込み、ユイは速い速度で、まるで特殊部隊がドアを破壊するために突進するみたいに、体を飛ばす。
ドン!という音。ユイの体重を乗せた攻撃を受けてもびくともしない。
「いたたた…これ、僕じゃなくて大柄な人が来なきゃだめじゃないのかい?」
鉄製のドアに強くぶつかったせいで、体が痛いのか呻き声を上げながら言うユイ。
「うーん…こうしてみるか。」
サカセガワは拾ってきたグロック17を蝶番に照準を合わせ、発砲する。
キン!という音とともに蝶番が壊れる。
そして情けないといった様子でユイを見るサカセガワ。
「蝶番があるって知らなかったよ…」
ブスッと膨れて、ジェスチャーで「知らなかった」とユイは言い、自分の役割を終えたドアを足で蹴り倒す。
そしてその中には...
次回もどうぞお楽しみに!




