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グロテスクな表現があります
一瞬にして2名がやられた。
今まさに現実を直視した男たちの目の前には、これまで聞いたことも、予想したこともない異様な存在が立っている。「何だあいつは?超能力者なのか?」と、彼らは考える。眼前の存在の左手から電気が放出されるのを、男たちは確かに見たのだ。これは何という常識外れの光景だろうか。人の手から強大な電気が出るなど、この現実ではあり得ないことだ。しかも、過去の経歴が気になるほど戦闘に熟練しており、日本という国で厳しく法律で規制された銃器類を扱える日本人女性がどれほどいるだろうか。圧倒的なカリスマ性を放つ女性。そんな女性に2名がやられた。2名が倒されてようやく、男たちは今の状況を悟ったのだ。
サカセガワ氏は体を起こす。そして、直ちに先ほど撃った男のすぐ隣にいた男も撃ち倒す。3人目の男も、まるで水風船に穴が開いたかのように、脳髄と血が混じった薄紅色の液体を撒き散らして崩れ落ちる。残った7名の男たちは、もはや眼前の存在に疑問を抱いたり、その存在が放つ重圧に押しつぶされている場合ではないことを悟ったのだろうか、このままでは自分たちまでやられてしまうと気づき、遅ればせながら3人目を撃ったサカセガワ氏に対して応射を始める。
だが、撃発のタイミングは外れていた。弾丸は逸れる。サカセガワ氏はまるで走り幅跳びの助走を逆再生したかのように、素早く後ろに三度跳躍し、距離を取ったままでいた。
弾丸が逸れたことに気づいた男たちの照準が移される。サカセガワ氏との距離はおよそ7メートル。先ほどより2メートル伸びている。
短い時間で、男たちは判断する。5メートルの距離では、サカセガワ氏の電気攻撃に瞬時に焼かれてしまうという事実を。そのため、何とか距離を取らねばと考え、素早い手信号で男たちはゆっくりと後退していく。
やがて距離は10メートルになる。
サカセガワ氏の視界は、7名の男たちではなく、7名の男たちの右手に握られた7丁の拳銃と、その中で最も手前にある7つの引き金を握る指の先にのみ焦点を合わせていた。世界のあらゆる音が掻き消され、ただその微細な震えだけが全てであるかのように感じられた。
静寂は短かった。ただ、一度息を吸い込むほどの時間。
静寂を破ったのは男たちだ。現時点で非常に有利な位置を占め、圧倒的な物量数を持つ男たちは、自分たちの勝利を確信したかのように、10メートル離れたサカセガワ氏に弾丸の洗礼を浴びせる準備を整え、引き金を引く─────────
あと0.2秒で、引き金は引かれ、7丁の拳銃から発射され飛び交う7発の有効射程50m、初速350mの9x19mmパラベラム弾は、一瞬でサカセガワ氏の体にエメンタールチーズのような風穴を開け、命を奪うこととなるだろう。
だが、人間は飛来する音速の弾丸を避けることはできないにしても、弾丸を発射させる引き金を引く行為自体は認識して反応することができる。
そうだ。男たちが引き金を引こうとする気配があれば、即座に体の位置を変更し、弾丸を避けられるのだ。
もちろん、このような状況は極めて稀に起こる。サカセガワ氏と男たちの間に生じた一瞬の静寂のおかげで、サカセガワ氏は男たちの引き金を握る指に集中することができたのだ。
男たちが距離を取るための静寂がなく、すぐに弾丸を乱射していたとしたら、サカセガワ氏はすでに全身から血を流して倒れていたことだろう。
やがて引き金は引かれる。
当然、サカセガワ氏はそれを察知し、即座に体に指令を下す。
一瞬の出来事だった。
「タン!タン!」という連続的な銃声が聞こえるや否や、「パパッ!」という音が聞こえてきた。
もちろん、「タン!」という音は銃の撃発音。では、「パッ!」という音の正体は何だろうか。
まっすぐな直線軌道を描いて進んだ弾丸の先には、サカセガワ氏が着ていた分厚いトレンチコートがあった。トレンチコートの厚い生地と弾丸が衝突して「パッ!」という音を立てたのだ。では、サカセガワ氏は弾丸に当たったのではないか?そうではない。サカセガワ氏は引き金が動き出すや否や、以前に後ろへ三度跳んだ際に脱ぎ捨てておいたトレンチコートを一瞬空中に投げ上げたのだ。トレンチコートで自身の行動と位置、すなわち自身が進む進路を隠すことで、飛来した弾丸をトレンチコートに命中させると同時に、自身は近くの本棚に身を隠したのである。
やがて弾丸がトレンチコートを貫く瞬間、「チュワーッ──!」と分厚い繊維が裂ける音が鋭く響いた。弾丸の運動エネルギーは布の切れ端を四方に引き裂き、サカセガワ氏が本棚の陰に身を隠す際、彼女の頬をかすめて通り過ぎる弾丸の熱い風が感じられた。
男たちは一瞬動揺した。どうやって弾丸を回避したのか、と考えたが、そんなことを考える余裕はなかった。どうせ近くの本棚に隠れたのだろうと考え、サカセガワ氏の近くの2つの本棚に銃を連射する。
残念ながら、木製の薄い本棚の厚みでは重い弾丸を防ぐには力不足だ。飛んでくる弾丸は、現在サカセガワ氏の貴重な遮蔽物となっている本棚を、紙に錐を突き刺すように簡単に貫通させる。
絶え間なく聞こえる「タン!」という銃の撃発音。サカセガワ氏は幸いにも、貫通する弾丸に何度かかすってできた火傷以外に、これといった傷はないようだ。
サカセガワ氏は何かを数えている。
「110…111…。」
小さな声で呟きながら、両耳に直接ダイナマイトを続けて爆発させるような鼓膜が破れるほどの撃発音の中、絶え間ない撃発によって立ち込める不快な火薬の臭いの中で、よくもあんな小さな声で数字を数えているものだ。
「タン!」という銃の撃発音は続く。サカセガワ氏の哀れな遮蔽物である本棚は、夥しい弾丸の洗礼にその機能を果たせないほど崩れ落ちた。サカセガワ氏のすぐ隣の本棚は、弾丸の洗礼に耐えきれず、すでに形を留めておらず、ただの木板と化している状態だ。
サカセガワ氏はまだ数字を数えている。
「118…119..!」
サカセガワ氏の「119」という数字を最後に、どういうわけか銃の撃発音は止まった。グロック17、なぜ「17」なのか知っているか?答えは弾倉に入る弾薬の数が17発だからだ。男の数は合計7名。17に7を掛けると119。そうだ、119。これは弾薬が全て使い果たされたことを告げる数字である。
サカセガワ氏は銃撃戦が始まってから、敵が撃ち放った総弾数を数えていたのだ。弾薬が全て尽きた銃は、装填を通じて新しい弾薬を給弾する。装填という行為は、かつては弾丸一つ一つを薬室に装填したが、グロック17のような現代では、新しい弾倉を交換し、スライドを引いて戻すことで完了する。このように簡略化された装填をするにしても、弾薬を使い切ってから少なくとも3秒ほどの時間は必要だ。
グロック17、7丁は119発を撃ち放った後、7丁の銃から同時に「カチッ!」とスライドが後退したまま停止する、乾いた希望的な音が響き渡った。そして、再装填のために弾倉が床に落ちるガラガラというプラスチック音と、薬莢の「チャリン、チャリン」という金属音がようやく鼓膜を打った。
その音によって、サカセガワ氏には3秒という時間が生まれた。それゆえ、自身の使命を完遂し、壮絶に崩れ落ちた遮蔽物から飛び出し、行動を開始するのだろう。
「フリック」と素早く遮蔽物から飛び出したサカセガワ氏。「タン!タン!タン!」と、合計3回の撃発音が1秒間に響いた。サカセガワ氏の銃から放たれた3発の弾丸は、まるで機械が撃ったかのように正確に、見事なくらい左端の男から順に3名の頭を貫いた。
サカセガワ氏は敵の頭に穴が開いたのを確認し、4人目の敵の頭に照準を合わせ、引き金を引く。だが、弾丸は発射されなかった。それに、サカセガワ氏は僅かに動揺した。
確かに銃を鹵獲した際に確認した残弾は、ざっと10発を超えていたはずだ。サカセガワ氏は合計5発を発射した。では、なぜ弾丸が出なかったのか?
サカセガワ氏は一瞬銃を見下ろした。薬室に薬莢が詰まり、スライドが後退した状態で固定されているではないか。普段なら耐久性の問題など起こらない、圧倒的な信頼性と耐久性を誇るグロック17だが、銃身に凝固した血によって機能不全が起こったのだ。
「チッ」というサカセガワ氏の苛立ち交じりの舌打ち。
機能不全を解決する時間などない。サカセガワ氏は思い切って銃を捨てる選択をし、10メートルもある距離を縮めるために、発射されなかったおよそ6発の弾丸の心情を代弁するかのように、弾丸のような速度で前へ向かって走り出す。
わずか4回、4回だけ爆発的に跳躍して脚を動かしたサカセガワ氏。やがてもう一度、サカセガワ氏は装填中の4人目の男に向かって何とか距離を縮めるために伸ばした左腕を利用する。男の腰を左手で掴み、電気攻撃を加える。
「ぐぐぅ…っ!」
男の短い呻き声と共に、丸焦げになった男は感電死する。サカセガワ氏はすぐさま5人目の男へと向かって走り出す。だが、時間はすでに3秒が経過していた。5人目の男は少しでも遅れれば自分が死んでしまうという未来に慌てふためき、走り寄るサカセガワ氏に照準を合わせて撃発する。
しかし、サカセガワ氏は4人目の男の死体を盾にして、走り続けているではないか。5人目の男は動揺している。あと数秒で自分は死ぬ運命だからだ。そのため照準は揺らぐ。まるで強風に吹きさらされる街路樹のように、真っ直ぐにならずに揺れている。
そのような照準では、先ほどの本棚よりも頼りになる肉の盾で自身を遮蔽しながら走ってくるサカセガワ氏に当たるはずがない。せっかく装填した弾丸は、すでに死んでしまった死体をもう一度殺すように、動かない肉体にめり込むだけだ。
「ヒイィッ」という絶叫。未来を直感した5人目の男の声だった。
やがてサカセガワ氏の左手からは、もう一度青い閃光が起こる。5人目の男もまた焼かれた。
サカセガワ氏のグロック17が機能不全を起こしたことと、4、5人目の男を殺すために使った時間のおかげで、残りの二人の男は装填を終え、体勢を立て直し、撃発するのに十分な時間を稼いでいた。
それゆえ、男たちは安定した体勢で撃発するはずだったが……。サカセガワ氏の目の前の6人目の男は、どういうわけか見るも無残に、頭と上半身を繋ぐ首が、綺麗に、鋭利な刃物で切断されたのでもなく、何かによって背骨が見えるほどに弾け飛んでいた。頭は残存している首の組織のせいでぶらぶらと上半身にぶら下がり血を噴き出しており、弾けた場所からぞんざいにちぎれた食道からは胃液のようなむっとした臭いを帯びた液体が逆流して流れ出ており、頭に血を送る断ち切られた頸動脈は、心臓の鼓動に合わせて規則的に送る血流の量が変わり、血が噴水のように噴き出していた。弾けた首から血が噴き出し、空気と混ざって**「プシュ、プシュ」**という泡の音を立てる。さらに、バラバラに引き裂かれた筋肉の断片がまだ痙攣し、微かに「ピクピク」と動いているのだから、非常にグロテスクな姿であった。
残り一人の男は、目の前の同僚が原因不明の事態によって悲惨で恐ろしい死を遂げたのを見て、「うわあああ!」という悲鳴を上げ、足に力が抜けたのか、ドサッと座り込んでしまった。
サカセガワ氏は、目の前で嫌悪感を催すものを見て歪んだ表情で横に首を回して見た。
およそ15メートルの距離で「お疲れ様~」とでも言いたげな、にこやかな笑顔を浮かべたユイタンがいる。
ユイタンのワルサーP5拳銃からは、今しがた弾丸を撃ったかのように、真っ白な煙が立ち上っていた。
拳銃に装着された特製サイレンサーのおかげか、撃発音は聞こえもしなかった。ただ一瞬にして首を弾けさせただけなのだ。
ユイタンはサカセガワ氏の危機なのかどうか分からない状況に、まるで一触即発の事態にヒーローが格好良く登場するかのように、銃を撃ち2名の男を殺すことで戦いを終わらせたのだった。
ユイタンが使用している弾丸はグロック17と同じく9x19mmパラベラムだが、特異なことにホローポイント弾(HP弾)である。ハーグ協約で禁止されたその姿は殺傷にのみ特化しており、弾丸の先端部分が肉体にめり込んだ瞬間に星形に広がり無数の鉛片となって拡散する。これはまるでコンクリート建物の中心柱に爆弾を炸裂させるかのように、効果的に肉体内部を崩壊させる。そのような凶悪な弾丸が、人間の首という比較的薄い部分にめり込んで広がり、弾丸の力によって首の組織が弾け飛んだのだ。一言で言えば、HP弾は重要な器官である首を単純な肉片へと変えてしまったのである。
サカセガワ氏は不満げな口調で。
「う……グロいって……それ使うなって言っただろうが。」
「でも、効果は確実だよ?これはこれで魅力があるのさ、チコリ~。どうせあの人たちが銃を取り出した時点から、僕たちにも彼らを殺す大義名分はあったんだし、何を使おうと関係ないよね~。」
ユイタンは、首から血を噴き出す残虐な光景を背にして、微笑みながら答える。自身の拳銃に愛情があるらしいユイタンは、HP弾以外の弾薬を自分のワルサーP5に入れたがらなかった。
だからこそ、常に怪物のような殺傷力を維持し、P5は死を献上していたのだ。
「さて、じゃあ、一階は片付いたようだな?二階へ上がるか。一階でこれほど銃撃戦があったのに、上から何の反応もない。上には戦力はいないだろうな。」
顔についた血を拭いながらサカセガワ氏が言う。
「うーん、チコリ。君は二階へ上がってみてよ。何かが引っかかるんだ。君の言う通り、二階は安全だと思うから大丈夫だと思うけど。あ、でも油断はしちゃだめだよ。」
サカセガワ氏の傍に近づいたユイタンは、何かおかしな気配を感じたのか、顎に手を当てて言った。
「分かった。じゃあ、先に上がる。そうだ、そいつをしっかり縛っておいてくれ。後で尋問するからな。」
サカセガワ氏は短く頷き、座り込んでヤマナラシのように震えている男性をちらりと見て、近くの死体の銃を拾い、二階を向けて階段を上っていく。
次回もどうぞお楽しみに!




