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その古びたビルで非日常は続く  作者: ケンプファー
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図書館の奥。


「ジイイン──チッ、ジイイン──チッ」という高周波の断末魔とともに、色褪せた蛍光灯が不規則な間隔で点滅している。それはまるで、一生涯城門を守り抜いた老いた門番の行動のように、どうにかかろうじて使命を果たそうとしているかのようだ。厳格な訓練を受けた軍人のように、一定の間隔で配置されている約2メートルほどの木の書架。しかし、木の書架の心を知らぬのか、書架という家から家出した本たちは地面に乱雑に散らばっているか、書架の中で横たわっている。天井に付いているべきだったパネルは、力を使い果たしたように地面に墜落している。壁面の黄色く煤けた壁紙は、死んだ人間の皮膚のように、濃い灰色のコンクリートの内臓を露わにし、この全てのことを嘲笑うかのように引き裂かれている。


そんな図書館の内部に似合わず、立派なスーツを着た頑丈な体格の男たちが、まるで「どうやって入ってきた?」とでも言うような表情で、サカセガワさんとユイタンを睨んでいる。男たちは図書館の2階へ上がる階段の周辺に分布している。その中の一人の男は、驚いた声で。


「な、なんだお前らは?」


サカセガワさんを見て言った。サカセガワさんは図書館の入口側にじっと立っている。一寸の動揺もなく、まっすぐに正面を見据えながら、立っている。男たちはサカセガワさんの立ち姿を見て悪寒を感じる。動かずに、右手はジャケットのポケットに入れたまま、わずかに不均衡に右足に重心を傾けているのか、体が右に偏った姿勢で立っている姿は、サカセガワさんの外見と相まって重厚なカリスマを醸し出す。


サカセガワさんの後ろには、まっすぐな姿勢で立っているユイタンがいる。まだ銃口は下を向いており、何がそんなに楽しいのか、ニコニコと笑っているようだ。この冷たい雰囲気を和らげようとしているのだろうか。どうやらユイタンはこういう雰囲気を和らげるためにあの様な姿を取っているようだが、男たちの目にはサカセガワさんの存在感によって、ユイタンの姿は目に入ってこない。


「タッ!」という音。サカセガワさんの左足が持ち上がってから降りてきて、床を叩いた。


男たちの視線がさらに集中する。


もう一度「タッ!」という音。サカセガワさんの足拍子。


男たちは乾いた唾をゴクリと飲み込んだ。どういうわけか、サカセガワさんのタッタッと鳴る足拍子が続く度に、喉がカラカラに渇いていくようだ。


最後に「タッ!」という音。サカセガワさんの左足が止まった。


それに応じて、男たちもまた息をするのを止めた。空気が重いようだ。25トントラックが空気を圧縮したような感じ。


やがてサカセガワさんは目を動かす。男たち一人一人を目でサッと見渡し、視線は再び正面に戻る。


「.....ざっと10人、か。」


敵の総人数を数えたサカセガワさん。サカセガワさんの低く抑えた声は、まるで感情などない機械が話すようだ。ユイタンはサカセガワさんを見て。


「うーん、ちょっと多いかな? どうするだい? 各々5人ずつ処理するかい?」


ユイタンの合理的な意見。半分ずつ相手をして、相手の数を減らすという戦略は、現在の二人の戦力面から見ても効率的に見える。その言葉にサカセガワさんは正面を見据えながら。


「いや、いい。私がやろう。弾が勿体ない。」


普段のサカセガワなら絶対言えないであろう答えを出す。1対10という誰が見ても不利に見える戦力差にもかかわらず、自分が処理するというのではないか。なぜ急に責任感が湧いたのかは分からないが、これはこれでユイタンにはとても良い。面倒くさく動く必要もなく、全て自分が引き受けるというのに、誰が断るはずがあるだろうか。


「いいよ〜、ご苦労さま、チコリ。」


ユイタンはとても楽しそうな声で言い、小走りの足取りで、適当に近くの傾斜面に体を預ける。


ユイタンの行動を確認したサカセガワさんはフッと笑い、行動を開始する。


揺るぎない柱のようだったサカセガワさんの体が動く。それに男たちはビクッと驚く。

重心が下へと下がる。まるで戦艦の撃発直前の状態の艦砲のように重厚な物体が動くように動くサカセガワさんの上半身は、男たちの脳裏に「目の前の存在は危険だ」という意識を流し込む。動きもなく目の前の存在を意識していた男たちは、脳が送った信号に遅れて反応し、その時になってようやく状況を把握したように、慌てて腰のあたりから何かを取り出す。


瞬間、サカセガワさんの表情が青ざめる。


男たちの腰から出てきたのはグロック17という拳銃だった。男たちは震える手で銃口をサカセガワさんに向けて照準する。


サカセガワさんはとぼけた表情で後ろを振り返る。傾斜面が快適なのだろうか、のんびりとした表情でサカセガワさんを見ているユイタンがいる。ユイタンは、振り返ったサカセガワさんに向かって「どうしたの〜? 何かあったかい〜?」という表情を浮かべる。あまりにも悠長に見えて、図書館が自分の部屋のように見えるユイタン。そんなユイタンに向かってサカセガワさんは、この状況を予想できなかったかのように憂鬱な表情を浮かべながら。


「う...ハシノ君、大変だよ...大変だよう...銃が出てきたよ...」


泣きそうな声で話すサカセガワさん。銃を抜き立ちすくむ男たちは、あれほど重圧感に満ちた空気と雰囲気を作り出した危険人物が、突然白痴美を漂わせる予想外の状況に、今自分が経験している状況が夢なのかと、きょとんとした表情を浮かべる。ユイタンはサカセガワさんの姿を見て爆笑し、どうしていいか分からない様子だ。どれほど笑っているのか、お腹が痛いのか、片手でお腹を抱えながら笑い続け、サカセガワさんに話しかける。


「あははは、チコリ、くすっ、君、はは、大丈夫かい? 手伝おうかい? ぷふっ。」


一体サカセガワさんが置かれた状況がどれほどおかしかったのか、ユイタンは笑いすぎて涙が出るほどだ。


「うう...笑ってないで助けてくれ...」


サカセガワさんは泣きじゃくるような声で、恥ずかしそうな表情を浮かべながらユイタンに助けを求める。サカセガワさんの切なる願いが通じたのだろうか、ユイタンは目の前にいる数多くの銃口に睨まれているかわいそうな子羊のようなサカセガワさんに救いの手を差し伸べるどころか、笑いを止めてサカセガワさんを冷たい目つきで見下ろす。しかし、声には笑いを含んだまま。


「チコリ、君、この前タダ働きでミカドをよくも送り出したよね? だから、君がどうにかするんだよ。銃の相手もできないのに、社長なんか務めているわけじゃないのかな? もしそうなら、僕はすごく失望するよ。

とにかく、君が銃に撃たれて死のうが知ったこっちゃないから、頑張ってね〜」


返ってきた答えは、青天の霹靂のような衝撃的な言葉。最大限かわいそうな表情を浮かべてユイタンに助けを求めたが、サカセガワさんの切なる願いは、以前の業によって地面に叩きつけられてしまったのだった。ああ、なんと無責任なユイタンの通告か。過去のサカセガワ・アキミはそんなにも無責任だったというのか? サカセガワさんは部下をあんな風にした過去の自分に呪うように不満げな表情を浮かべ、再び前を向く。


目の前の男たちは、きょとんとした姿そのままの状態だ。しかし、10本の銃口ははっきりとサカセガワさん、自身を狙っている。サカセガワさんはフウと短い溜息をついて。


「そうだな、久しぶりに体を動かすついでに。」


小さな声で独り言を呟くと、姿勢を低くした姿そのまま。じっとしている。何かを待っているかのような姿。先ほどの雰囲気を再び作り出すサカセガワさんを見て、男たちは再度乾いた唾をゴクリと飲み込み、銃口をまっすぐに調整し直す。撃発と同時に、目の前の存在の急所に正確に当たるように。


サカセガワさんは微動だにせずじっとしている。まるで獲物が罠にかかるのを待ちながらじっとしているベテランの猟師のように、息をすることからくる微細な動き以外、いかなる動きも取らない。

それに合わせて、男たちの神経もさらに鋭敏になる。目の前の存在はいつごろ行動を開始するのだろうか。今、銃を撃発して、先に殺しておくべきか。しかし、銃を撃発する動きを見せればすぐに殺されてしまうのではないか。男たちの頭は、敵の動きだけを待つように、いかなる信号も送らない。まるでアメリカ西部時代の決闘シーンのように、いかなる瞬間に、何をきっかけに、誰が先に動けば勝てるのかという状況だ。

だが、サカセガワさんの表情は余裕を取り戻したようだ。敵が銃を持っていること。切実に頼んだ助けが無残にも拒絶されたことに対する泣きそうな表情は、もうとっくに消え去っていた。一方で、男たちの表情には余裕など見えない。この極度に張り詰めた緊張感に押しつぶされ、瞳孔は震え、冷や汗は壊れた水道の蛇口のようにとめどなく流れている。


この無限に対峙するのではないかと思われる状況が破られたのは、3秒後だ。


パッと、天井の古びた蛍光灯が点滅した。


突然暗転した図書館。暗転していた時間はわずかではない。いや、むしろ非常に短かった。1秒にも満たない暗黒の時間。しかし、この1秒は男たちの鋭敏になった神経を逆撫でするトリガーとなるのに十分だった。男たちは、押さえつけていた緊張感が爆発し、一瞬油断する。


サカセガワさんはこの瞬間を狙っていたのだ。図書館に入るとすぐに周囲の環境をチェックし、このような危険な対峙状況を考慮して、蛍光灯が点滅する前まで動かなかったのだ。そうだ。賭けだ。敵が先に銃を撃てば、サカセガワさんはそれに当たる運命だった。世の中にいるいかなる人間であっても、5メートルにも満たない距離で銃口の火炎が見えた途端に超人的な動きで弾丸を避けるということは、絶対に不可能だ。サカセガワさんは、自分が作り出した雰囲気に敵が引っかかることを願い、対峙状況を作り出したのだった。


図書館が再び明るくなる。そして、サカセガワさんは自分の真正面にいた男の鼻先にいた。

1秒の時間、その時間中にサカセガワさんは両足に瞬間的な力を込めて生み出したロケットのような推進力で、敵に突進したのだった。


サカセガワさんの左腕が告げる。ヒュッと、上半身の後ろにあったサカセガワさんの左腕が、まるで極限まで引き絞られた弓弦の矢のように、シュッと上半身の前へとまっすぐ伸びる。サカセガワさんの左手は、大きな回転半径から生まれた放たれた矢のような反動で、両足に力を込めて突進したスピードで、目の前の男の顔を左手でバシッと掴む。鈍い破裂音とともに、男の顔は粘土のように歪むぞっとするような圧力を感じたことだろう。悲鳴はすでに彼の気道の中で圧殺されていた。そのような速いスピードで肉薄してきた左手の衝撃自体だけでも、顎を打たれた男には致命的なダメージだったが、サカセガワさんは単に物理的な衝撃で敵を制圧しようとしたのではない。


瞬間、サカセガワさんの左手からパチパチと音を立てながら、青い光が閃光のように放たれる。そうだ。目の前の敵を高電圧、高電流の電気で一瞬にして焼き払ったのだ。タンパク質が焼けた不快な匂いを漂わせながら、左手に顔を掴まれた男は数歩よろめき、力を使い果たした薪のように、微かな煙を上げながらドサッと倒れた。


かわいそうに電気焼きにされた男がよろめいている間、銃を撃発しても十分に残る時間があったにもかかわらず、いかなる対応も起こらなかった。サカセガワさんの周りの残りの男たちは、瞬時に起きた予想外の出来事に、自分たちを油断させるのに十分だった1秒間の暗転時間によって、目の前の光景をぼんやりとした目でただ見つめるだけだった。


サカセガワさんは倒れた男から銃を拾う。やがて平然とした表情で銃を見て、銃を検査するかのようにあれこれと触る。「ガチャリ」という音とともに、薬室を確認する。「カチッ」という音とともに弾倉を抜き、残りの弾薬を確認する。そしてサカセガワさんは照準するような姿勢を何度か取ってから、右手で銃を握りしめて。


「ふむ、使えるな。さて、遊んでみようか。」


突然響いた「タン!」という音。銃の遊底から強烈な火薬の匂いを漂わせながら、カシャンと出てくる空の薬莢。サカセガワさんの右手の前に立っていた男は、何かを飛び散らせながら倒れる。そうだ。サカセガワさんの銃口から鳴った音だった。銃から発射された弾丸は、正確にサカセガワさんの銃の前に立っていた男の頭にめり込んだ。高速で回転する弾丸は、男の頭蓋骨をまるでスプーンでプリンを潰すかのように砕き、前頭葉、後頭葉を通り抜け、反対側へと貫通して出た。人間にとって最も重要な臓器である脳を損傷してしまった男は、血を流しながら死んだのだ。


もう一度起こった予想外の出来事。その出来事に、残りの男たちはようやく自分たちが置かれた現在の状況を理解し、サカセガワさんを照準する。

次回(じかい)もどうぞお(たの)しみに!

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