4 紅白戦(後)
【登場人物】
主人公 一条タイチ 投手 右投げ右打ち。
熱血で何事にも前向きな性格。じいちゃんを超えるべく日々練習に励んでいる。150キロ近い球を投げて、先輩達を驚かせた。
九品寺 優里 センター? 左打ち
どうやら名家の出身らしい。代々野球選手を排出しているとか。自虐なのか、自慢なのかよく分からない面倒な性格をしている。とにかく足が速い。
三輪 道広 (三輪) サード 右打ち
高身長。無口で無表情だけど、時々笑ったりする。笑いのツボが謎
天王寺 光琉 主将 捕手
温厚で真面目な性格。リュウジとは幼なじみでバッテリー 紅白戦で強気なリードを見せている。
土門 龍二 ピッチャー 左投げ左打ち
チームのエース。ピッチャーとして様々な球種を投げてくる。また4番でもありパワーヒッター。ヒカルとは幼なじみでリュウと呼ばれている。短気な部分があり血の気の多い性格が玉にキズ。
現在、3回表スコアは0―6
1年生間の空気はさながらお通夜の様な空気感であった。だけど、誰かが誰かを責めたりする状態ではなかった。単純に格が違う、子猫が熊に挑んでいるような状態だ。これが今のオレ達の全力なんだ、勝てるイメージが持てない。だけどせめて一糸報いたい、そんな気持ちで頭の中はいっぱいだった。
今までのメンバーの情報から何か浮かばないか、ずっとベンチからリュウジ先輩を観察していた。そして、オレはあることに気がついた。オレは次の打者のユウリにある「提案」を持ちかけていた。
この回もリュウジ先輩は調子が良いようで1年生2人は簡単アウトを取られてしまった。
そして、次の打者はユウリだった。ユウリは緊張しているのか震えていた。ユウリにした提案は「きっとリュウジ先輩は、ユウリの事を甘く見て手を抜いてくるかもしれない。だからもし甘い球が来て打てたら全力で2塁まで走ってほしい」だった。ユウリはその提案に「ムリだよぅ…、ボクなんかにあの先輩の球を打てるとは思えないよタイチ…」と不安そうな表情をしている。そこで、オレがリュウジ先輩を見て気がついたことを伝えた。
「先輩は確かに凄いピッチャーだよ、だけどここまで見ていて気がついたことがあるんだ。それは、自分が下だと思った相手には手を抜いていると感じる場面があった。実際、三輪が当てた場面があっただろ。オレ達は甘く見られているんだ。つまり、ユウリ相手なら間違いなく手を抜いてくれるはず!!」
そう話すとユウリはなんだか不服そうな表情をした
「何だか複雑な感じだけど…そこまでタイチが言うならやってみるよ」と少し震えも収まったようだった。実際その予測は当たり、リュウジ先輩はユウリを甘く見ているようで明らかに手を抜いている、もう2アウトだからというのもあるからだろう。そして、リュウジ先輩が次の球を投げた瞬間ユウリは左中間の間に飛ばすことに成功し何とか2塁まで行くことが出来た。流石センターを守っているだけあって足が速い!オレは思わず感心してしまった。
そして、次はオレに打順が回ってきた。最初の打席は全然打てなかったけど、みんなが打席に入っている間オレはずっと打てないかイメージを欠かしていなかった。リュウジ先輩は打たれた同様なのか、それとも類にいるユウリの様子が気になるのか何だか集中出来ていないようだった。オレはバットを握りしめ(ユウリも頑張って打ってくれたんだ、オレもそれに応えたい。絶対打つんだ!)頭の中はそれだけだった。リュウジ先輩にもオレの気迫が伝わったのか、少し冷や汗をかいているのが伝わってくる。
先輩が球を投げた、セオリー通りなら外で様子を見るだろう。だけど、先輩は最初のオレの打席でインコースに投げてきた。そして、オレは打てなかった。だから今回もインコースに投げてくる、そうオレは確信していた。オレは腕を畳んでレフト方面に勢いよくとばすことが出来た。ユウリが全力でホームに戻ってくる。そして、1年生チームに1点が入った。このまま次もいけるかもしれない、そう思った時ヒカル先輩がタイムを取った。口元を隠してリュウジ先輩に何かを伝えているようだった。
タイムが終わり試合が再開するとリュウジ先輩はあっという間に抑えてしまいオレ達の攻撃は終わってしまった。その後、何故かリュウジ先輩から油断の気配は一切消えてしまい、誰に対しても一切手を抜かず、またオレもあれから先輩達に打たれてしまい、結局5回終了時点で1―12の圧倒的大差のゴールドゲームで試合は終わってしまった。日が陰り夕方も近づいている状態だった。初めての試合は敗北し、オレたちは苦汁を味わったのであった。