4 紅白戦(前)
【登場人物】
主人公 一条タイチ 投手 右投げ右打ち
何事にも前向きな性格。じいちゃんを超えるべく日々練習に励んでいる
九品寺 優里 センター? 左打ち
どうやら名家の出身らしい。代々野球選手をだしているとか。自虐なのか、自慢なのかよく分からない気難しい性格をしている。足が速い。
三輪 道広 (三輪) サード 右打ち
高身長。無口で無表情だけど、時々笑ったりする。笑いのツボが謎
天王寺 光琉 主将 捕手
温厚で真面目な性格。リュウジとは幼なじみでバッテリー
土門 龍二ピッチャー
チームのエース。4番でもあるパワーヒッター。ヒカルとは幼なじみでリュウと呼ばれている。短気な部分があり血の気の多い性格
こうして腕試しとのことで、すぐ紅白戦を始めることになった。更衣室に移動後、練習着に着替えていると右隣にいたユーリが突然床に座り込んで膝を抱え込み、泣き出してしまった。オレがどうしたのか尋ねるとこちらを見上げてきた。
「ボク野球下手だし、練習しても上達しないんだ。野球部に入ったのだって家が代々野球選手出しているとかで、野球をしないといけない変な決まりがあるんだよぅ……色んなポジションを試されて、結局足は速かったからセンターのポジションだったけど……」
自慢なのか自虐なのかよく分からない話をしながら、メソメソとなく彼にオレはどう答えたらいいのか迷っていると左隣にいた三輪が小さい声で呟いた
「九品寺……有名な家……野球選手で何人かいる……大変だな」
そう無表情で答えると、うんうんとユーリは頷いた
「そうなんだよぅ……ボクの兄弟も野球やっているからボクにはそこまで厳しくなかったんだ。でもせめて高校までは野球をするんだ、出来なければ勘当する!とか時代送れな発言をするんだ……変な家だけどいきなりひとり暮らしなんて出来ないから……」
またブツブツと話しているが、もう泣いていなかったので俺はスルーすることにした。
(まあオレの家も結構複雑だから、この話題はあまり深入りしないでおくか……)
紅白戦は通常赤と白に分かれて行う試合形式のことだと「虎の巻」に書いてあった。今回はオレ達1年生組と上級生組に分かれて試合をすることになった。するとまたユーリが何か話しかけてきた
「試合だってさぁ……。ボク達と先輩相手じゃ絶対まけるじゃん……絶対勝てないよ」
そう自信なさげに話すので俺はこう答えた
「そんなの、やってみなきゃ分からないよ。オレたちがやる前から諦めていたらそこで終わりだよ」
真剣に伝えたつもりだったが、何故か三輪が口元を押さえて笑っている。オレは何かおかしな事を話してしまったんだろうか
「ゴメン……キミ、何だか漫画の主人公みたいなセリフ話しているなって……ツボに……」
よく分からないが馬鹿にされているわけではないようだ、よく見ると三輪のぎこちなさが解けているように見える。もしかしてずっと緊張していたのだろうか。そっか、だから口数が少なかったのかな。
「2人がそこまで話すなら、ボクも少し頑張ってみようかな……全然自信ないけど」
着替えを終えて移動中に、そう話しつつも最初この世の終わりみたいな表情だったユーリの表情に、少し明るさが戻ったからオレは良かったって思った。
コイントスの結果、オレたちが先攻、先輩たちは後攻になった。エースのリュウジ先輩がマウンドで投球準備をしている姿を横目に、オレ達の打順をジャンケンで決めることにした。その結果、1番はオレになった。久しぶりのバッターボックスにオレは胸が高まっていた。先輩がどんな球を投げてくるのか、やっぱり最初は外にボールで様子を見てくるかな、そう思ったことを直ぐ後悔することになる。
「バァン!!」
まるで雷鳴の様な音が周囲に響いた。気がついた時にはボールは既にミットの中にあった。いや、リュウジ先輩の動作はしっかりと見ていた。だけど全く反応出来なかった、スリークォーターのフォームからの145キロはあるでだろうど真ん中のストレートがミットに吸い込まれるように飛んできたのだ。
「どうだ!?1年のお前にこの球は手が出ないだろ」
コウジ先輩は自信満々にそう話していた。確かに凄い球だ、これが高校野球なのか…と息を吐きながらそう思った。ふと、すこしグラウンドの端に目をやると、ムリムリボクは打てないと逃げたいと顔を青くしているユーリと、そんなユウリが逃げ出さないように無表情で身体を抑えている三輪の姿があった。それを見ると、なんだか可笑しくて笑ってしまった。他のみんなだって怖いんだなって分かると、せめて今のオレに出来ることをやるんだ、先輩の動きをしっかり見るんだ。バットに力がこもった。その後、全力でスイングしたけどやっぱりかする事もできずに、打席は終わってしまった。その後、先輩はスライダー、カープと色んな球を投げて他の1年をあっという間に三振にしてしまった。
こうして外から見て気がついたことがある。ピッチャーのリュウジ先輩も凄いけど、その先輩をリードして捕球しているヒカル先輩の凄さも改めて思い知らされた。
オレもいつかヒカル先輩に球を捕ってもらいたい、そんなチャンスはすぐに訪れた。なんと、オレ達1年の中にキャッチャーがいないのだ。そんなわけで、オレの高校での初投球はヒカル先輩が務めることになったのであった。