3、タイチ 高校入学する 仲間との出会い
【登場人物】
主人公 一条タイチ 投手 右投げ右打ち
何事にも前向きな性格。じいちゃんを超えるべく日々練習に励んでいる
源 頼和 (カントク)
煌桜学園の監督を務めている。また、現代文の教諭でもある。
タイチのじいちゃん
苛烈で気難しい所もあったが、かつては伝説の野球選手として名を馳せていた。故人。
桜が咲いて春の季節が近づいてきた。3月の中旬、結果を見に行くとオレの番号があって、嬉しさのあまり、その場でガッツポーズをしていた。これからオレの通う学校は東都市にある「私立煌桜学園」という名前で、源さんが話すには「昔は野球の名門と呼ばれる学校だったが、今は野球が少しだけ強い進学高」とのことだった。
入学式後、これから本格的な野球が出来るんだと思うとワクワクして廊下を走っていた。すると角から誰か出てきてぶつかって転んでしまった。
「あっ、すいません!大丈夫ですか?」とぶつかってしまった相手に声を掛けると明らかに嫌そうな表情をしてオレを睨みつけてきた。
「いってーな、ちゃんと前見ろよ。アホ!」
そう吐き捨てるように告げると去ってしまった。さっきの人かなり体格が良かったけど何かやっているのかな。そんな事を思いながら寮へと向かっていった。
寮に着くと談話室には既に何人かいて少人数でグループを作っているようだった。俺がドアを開けると数人がオレを見てきた。すると、グループから離れた所にポツンと立っていた茶髪で髪の毛は肩くらいまである、身長は俺と同じくらいの人物が突然オレに駆け寄ってきて手を握ってきた。
「良かったー!!!ねぇ、僕のこと覚えてる!?いや、覚えてないよね……。でも、僕は知っているよ、受験の時君の後ろだったの!!!顔見知り誰もいないから不安だったよー」握りしめたオレの手を更に強く握り涙を流していた。今までこういった距離感で接されたことがなかったから俺は困惑してしまった。
「わ…分かったよ。よろしくね」
オレがそう伝えると、大量の涙を流していた。
そうこうしている内に源さん……いや今日からは監督だ。その「監督」が談話室に入ってきた。いつも見ていた穏やかさはなく、監督が入ってくると少し緊張した雰囲気になった。
「新1年生を含めたメンバーはこれで全員かな?主将」本を読んでいた主将と呼ばれる人物が立ち上がると監督にこう伝えた。
「いえ、まだ1人そろっていません。時間は伝えたのですが……」
少し困ったような様子で監督にそう返事していた。
監督は溜息をついたが手を叩いて話をし始めた。
「噂の彼か、まぁ時間も惜しいから先に始めておくか。じゃあ、それぞれ自己紹介していこう」
そう監督が話したのでオレは真っ先に手を挙げて自己紹介をした。
「オレの名前は一条タイチっていいます!!ポジションはピッチャーです!大会優勝したいです!!」
勢いよくそう伝えると監督は驚いた様子でオレを見ていた。そしてその自己紹介で2.3年生間の空気が固まってしまった。あれ、オレ何かまずいこと言ってしまった……?その流れを変えるためか主将と呼ばれていた人物が話をし始めた。
「やれやれ全く……、君はとんでもないことを話すね。昨年僕達のチームは準優勝だったことを知らないようだな」
その主将の発言にオレは思わず冷や汗がでてしまった。しまった!オレはいきなり何て発言をしてしまったんだ。顔が熱い、穴があったら入りたいって思わず思ってしまった。
「だが彼の熱意はその通りだと思う。それくらいの気概があったほうがいいからな。改めて自己紹介しよう。俺はこのチームの主将天王寺光琉、ポジションはキャッチャーだ。昨年は惜しかったが、今年こそは大会で優勝したいと思っている。チーム一丸となってリベンジを果たそう!」
そう主将と呼ばれる人物が話すと談話室中に拍手が響き渡った。皆からの人望が凄い、これが主将なのかと思った。その歓声の中ををかき分けて長髪の人物が横から主将と肩を組んでいる。
「トウマ〜、真面目すぎ〜。もっと楽な感じでいかないと〜、もっと楽な気分でいいんじゃない?あっ、俺は2年の水城聖斗だよ、ポジションは名前そのままショート。これからよろしくね〜」
水を指すような発言にその場の空気が一瞬固まったが、主将の方は気にもとめずに彼と会話をしていた。穏やかな雰囲気を感じる不思議な雰囲気の先輩に見える。その後も何やら2人で話をしていた。
その後、自己紹介が始まった。
「三輪道広……1年。中学でのポジションはサードだった。よろしく」
第一印象は「身体が大きい」だった。少なく見積もっても190以上ある身長に厚みのある身体。きっと彼も凄い選手に違いない。
最初にオレに談話室で話しかけてきた彼も紹介しておこう。
「えっと、僕は九品寺優里って言います…中学の時のポジションはセンターです……。よろしくお願いします……」
何だか自信がなさそうにしているのが気になるけど、あの素早さはそういうことだったんだ。
一通り自己紹介を終えた後、談話室の扉が勢い良く開きスカズカと誰かが入ってきた。
「あり、時間間違えちまったか?」そう話すと談話室の椅子に勢い良く腰掛けた。その顔には見覚えがあった。さっきオレと廊下でぶつかった彼だ!
「伝えた時間をとっくに過ぎているぞ、リュウ。時間にルーズなのは相変わらずだな」
呆れつつも主将が穏やかにそう笑いかけている。彼は一体…そんなことを考えていると彼とうっかり目が合ってしまった。
「悪かったよ、ヒカル。朝から走り込みしていたら寝坊しちまった……アイツはあの時の!!」
向こうもこちらに気がついたようで、勢いよくこちらへと向かってきた。
「まさか同じ野球部とはな。そうか監督が話していた奴ってのはお前だったんだな、俺は土門龍二。ヒカルとはずっとバッテリーなんだよ。エースの座は渡さねえ!まさかお気にいりだからって贔屓したりしないですよね、監督!?」
威勢よくそう話すとまた鋭い眼光でオレを睨んできた。改めて見ると物凄い威圧感があった。これがエースなのかだけどオレだって負けたくない!
「エースは実力で決める。贔屓したりはせんよ、リュウ。そんなに気になるなら紅白戦でもして実力を確かめてみるか?」しれっと監督がとんでもないことを提案した。いや、そうでもないのか。紅白戦はやるものだと「虎の巻」にも書いてあった。
紅白戦と聞いて、震えている者、無反応な者と様々な反応があったけどオレはワクワクしていた。
まさか初日から紅白戦が始まるなんて!楽しみで仕方がない。そんなわけで初日からいきなり紅白戦の幕が上がった。