第7章 ゾシマの沈黙
【1】その死は、予告されていた
都市内第12区、地下第3層。旧DA司令部跡地。
“かつての導き手”は、そこで静かに息を引き取った。
ゾシマ・ミズキ——元DA司令、そしてコペル・ホーム設立者。
死因は心肺機能停止。だが、誰も“自然死”と信じていなかった。
彼は、語ることを恐れなかった。だからこそ——誰かにとって、危険だった。
【2】アリョ、遺体に触れる
ゾシマの遺体が安置された部屋で、アリョは沈黙していた。
義体ではなく、本物の“肉体”として生きたゾシマ。
その身体には、腐敗兆候が予想よりも早く、激しく現れていた。
「“聖なるもの”は、腐らないはずだ」
——そう語ったのは、誰だったか。
その問いは今、アリョ自身に跳ね返る。
「導き手が死んだ。
俺たちは、どうする?」
【3】DA公式声明:「ゾシマ司令は都市に反した」
翌朝、都市の中央掲示系に一つの声明が流れた。
「元DA司令ゾシマ・ミズキ氏は、個人的理念に基づき、
非合法な倫理情報の蓄積および児童記録の未承認保存を行っていたことが確認されました。
よって都市は、その死を“反倫理的存在の終焉”として記録します」
それは、「記憶の抹消」に等しい宣言だった。
【4】記録の継承:アリョの決意
ゾシマの個人端末に、彼自身の声で残されたデータがあった。
_「語る者は孤独である。だが、語らぬ者は都市に飲まれる。
私が死んだら、君が語ってくれ。
私が見た“人間たち”の可能性を、未来に向けて——」_
アリョは、静かに端末を閉じた。
そして、かつての兄弟全員の“記憶ファイル”を一つのノードに統合した。
「これは、都市に対する、語りの宣戦布告だ」
【5】腐敗の意味
ゾシマの遺体が、他の遺体よりも早く腐ったこと。
それは、都市の技術的衛生管理では説明できない。
だが、アリョはこう思った。
「人は“記憶されない”とき、腐っていく。
逆に、語り続けられる存在だけが、腐敗を越えて、生きる」
都市はゾシマを封印した。ならば——アリョは彼を語り続ける。
【6】章末:アリョの第一声
その夜、プロフェトス地下で、アリョはマイクの前に立った。
都市中の闇ネットに接続し、“無署名放送”を開始する。
_「こんばんは、都市の誰かへ。
これは、ある男の遺言と、三人の兄弟と、一人の語り部の物語です。
俺は、記憶を話す。忘れられた者たちを語る。
都市よ、お前が拒絶した倫理を、俺は言葉に変える」_