第1章(後半)『弾丸は告白しない』
【6】拘束室 - タングステンの壁、鋼の沈黙
住江スメールは、沈黙に慣れていた。
語らなければ、責任は流れ去る。語れば、責任はとどまる。
彼の右眼の奥には、**義眼型記憶記録装置「AROS」**が埋め込まれている。通称「サード・アイ」。
違法、非正規、そして—致命的に証拠能力が高い。
「スメール、そろそろ話してもいい頃合いだろ?」
DAの尋問官が言う。が、彼は一言だけ返す。
「この記録を、蟻生アリョに送ってくれ。それが僕の……証言になる」
【7】データファイル:No.191-YO.47「夜、そのとき」
出力形式:AROS映像記録(モノクロ処理・時間同期済)
——視点はスメルの義眼から。映像はブレている。夜。
場所:嘉嵐邸/地下階・セーフルーム前廊下。
足音。湿った靴音。スメルの視点が揺れる。
そこに、井和イワンが立っている。白いコート、無表情。
スメールは静かに問いかける。
「……これでいいの? 本当に、黙認するの?」
イワは答えない。ただ、壁のパネルに手をかざし、セキュリティロックを解いた。
スメルが再び言う。「あんたが開けなきゃ、ミトはここに来られなかった」
イワの口がわずかに動いた。
「選ばれた意志には、抗えない」
数分後。銃声。
廊下の先で扉が開き、御戸ミトが駆け出てくる。右手には薄煙を上げるナノグロック。
血の臭い。フラッシュ。父が崩れ落ちた映像は映っていない。記録はその直前でカットされている。
【8】記録終了後:スメルの独白(独白=内面モノローグ)
彼は殺した。だが、誰の言葉に導かれて?
スメルは目を閉じる。義眼が赤く点滅を始めた。
「あの日、僕がシャットダウンすれば、全て終わった。
でも——それを望んでいたのは、僕じゃない。
あの兄さんだ。
“直接手を下さないこと”で、彼は潔白のフリをした。
だけど、言葉は銃より深く、確かに殺す。」
【9】蟻生アリョの視点に戻る(挿入パート)
カフェ・プロフェトス。蟻生アリョは、記録を再生しながら、拳を握りしめていた。
「イワ兄さん……お前、自分の言葉が引き金になるって、知ってたんじゃないか?」
エノラがぽつりとつぶやいた。
「これは、“共犯”って言葉じゃ片付かないよね。
理論を信じた人が、他人を殺すこともあるんだ」
【10】章末:スメールの通信(ラストの導き)
From: SMAIL-SYS@darkroot.jp
To: ALYO.47
_「僕の記憶が、誰かの救いになるなら——
たとえそれが、僕自身を有罪にするものであっても。
真実ってのは、そういうもんだと思う。
次は、君の番だ。
——スメル」_