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アダムとイヴと

作者: 雉白書屋

 昔々。話は人類の始まりまで遡る。

 天地創造その後。偉大なる神によって創られし最初の人間。その男の名はアダム。そしてそのアダムの肋骨から作られた最初の女。その名はイヴ。

 二人はやがて蛇にそそのかされ、禁断の果実を食し、楽園から追放されることになるが……。


「あ、あれよアダム! ほらほら!」

「ははは、そんなに腕を引っ張らないでくれよ、イヴ。それで、あれがかい?」


「うん。あのね、蛇さんがね、あそこにある果実を食べると良いことがあるって言ってたのよ」

「ふうん」

「へえ、あれがねぇ」


「えっ」

「えっ」

「ん?」


「いや……あなた、誰?」


「僕はポバムだけど?」


「ポバム!? え、アダム、あなた知ってる?」

「いや、全然……なんかすごく……その、太い、というか丸いね……体が」


「ん? それって悪いことかな? 違うよね」


「あ、は、はい……」

「う、うん……それで、ポバム。えっと、君はどこから来たのかな?」


「どこからって、君からだね。僕はアダムの耳たぶの骨を取って作られたのさ」


「耳たぶ!?」

「どうりでここプニプニしてると思ったよ……」


「ああ、本当だね。どれ」


「えっ!」

「うわっ! な、何するんだ!」


「ふふっ、可愛い反応。他のところも食べちゃいたいなぁ」


「な、なんでアダムの耳たぶを噛んだの……?」

「うぅ、気持ち悪い……」


「気持ち悪い? 気持ち悪いってなんだい? 人に対し、そんなこと言っていいと思ってるのかい? ねえ、そう言われた僕の気持ちを想像できないの? それがどんなに浅はかな人間であるか、自分が恥ずかしく思わないのかい? 君は僕という存在を否定したんだよ、ねえ、ねえ」


「い、いや、僕はただ、君の行動が、耳たぶが君の唾液で濡れたことが……」


「同じことだよ。君はね、今僕を傷つけたんだ。僕は君のことが好きだし、愛情表現でしたことなのに僕を拒絶してね。謝って欲しい。今すぐに僕に謝って欲しい」


「え、その、ごめんなさい……」


「はい。それで君もだよ。イヴ」


「え? わ、私も?」


「君の目。君、僕が男なのにアダムを、同性を好きなことを不快に思っているだろう」


「え、いや、そんなことは……それに好きとか愛とかわからないし……」


「かまととぶってんじゃないよ!」


「え、い、痛い! なんでぶつの!?」


「差別主義者は殴られて当然なのさ。僕の心の痛みはその比じゃないんだからね」


「そんな……」


「まあ、その辺にしておきなさいよ」


「え、だ、誰……?」


「あたしはブムウ。アダムの足の小指の骨から作られたの」


「足の小指の骨!?」

「どうりでこの指だけ短いと思った……よくぶつけるし最悪だよ……」


「女同士、よろしくねイヴちゃん」


「え、女……? あなたはその、二人と同じ男の人じゃ……」


「は……? は? は? 嘘でしょ? え、待って。は? いやいやいやいや、えー!? はぁー、はぁ、はぁー! ……イヴちゃん。あなた、とんでもないことを言っちゃったわね」


「え、でもだって太いけどアダムと同じような体。ほら、そこについてるし……」


「ついてても心は、お・ん・な・な・の! わかる!? いやもうまったく駄目だわぁ。はー呆れちゃう。ほんと前時代的すぎてはぁーもぉーはぁー!」


「いや、時代は始まったばかりじゃ……」


「土下座しよっか」


「え、でも」


「しよっか」


「……はい」


「まったくホント、理解がない子って困っちゃうわねぇ」


「そうねぇ、まったくホント若い女の子って困っちゃうわよね」


「え、誰!?」

「また僕から作られた人かい……?」


「は? 違うわよ。あたしはバマヴ。生えてきたの」


「生えてきた!? 地面から!?」


「そもそも、あたしたち女が男から作られたっていうのがおかしいのよねぇ。社会は女がいないと成り立たないのにねぇ」


「社会……」


「もっと、あたしたちのようなマイノリティの声を聴かないとねぇ」

「ホントだよねぇ」

「そうよねぇ」


「マイノリティ……? いや、でも今はこの五人しかいないから、どちらかというとこっちが少数……」

「君たち、もう実を食べたんじゃないの?」


「お黙りなさい二人とも。まだわからないようならわかるまでキッチリとお話をしますからね……いーい、まずはね――」



 と、いうお話が核戦争により荒廃した世界でとある偉大な伝道師によって人々に語られました。

 彼は自称ゲイで時にレズビアンでトランスジェンダーで黒人で難民で被爆者でそれとは別に体に障害があり人権活動と環境保護活動を重視していてフェミニストでベジタリアンでそれから――

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