消失の魔法
前回の投稿から一ヶ月以上も経ってしまいました。
遅れて申し訳ありません!
話は過去へと遡る。
***
「ハツメちゃ〜ん」
姉イヨが私の名前を呼ぶ。
私は回れ右をした。
「ちょっと?分かりやすく逃げないでよ、ハツメちゃん。いや待って。待ってよ。何十分もかけて作ったこの魔法、一回だけ見てみてよ〜………いや、コソコソ逃げても無駄だかんね?」
姉は逃さんぞという顔をする。そして、私の首根っこをガシッと掴む。そのままズルズルと引っ張っていく。
「いやちょっとイヨ姉?そんな引っ張られたら、首がちょっと………いやまじで………死ぬっ……」
そのままズルズルと引っ張っていく。
ようやく家に着いた。オンボロの竪穴住居。相変わらず、いつ見ても崩れそうだな。
私は姉の腕をペシペシと叩く。放してくれた。嬉しい。
「ゲボっ…それで、今日はどんな魔法?」
「あれ、ハツメ。やけにノリノリじゃん。いつもはギャーギャー言って、まともに見てくれなかったのにさ〜。」
「首根っこで死にたくないからね。それに、いつも見せてくれる魔法、全然大した事ないじゃん。この前見せてくれた魔法とか、最悪だったよ。なんだ、髪の触覚を耳にかけられなくする魔法って。」
ホント最悪だった。あれ、まじてうっとおしかった……。
「えへ。面白がってくれて、私は嬉しいよ〜」
どこがだよ。と、心の中でツッコミを入れる。どうせ言っても、話が長くなるだけだし。面倒だ。
「まぁでも、今回のはかなり凄いと思うよ。私の魔法開発人生の中で、一番の傑作だ。期待していいよ?」
「はいはい。」
どうせ、「目に入ったまつ毛を取れなくする魔法」とかなんだろな。こんな、役に立たなそうな魔法を思いついてる時点で、私もどうかしてるけど。
そう思いながら、竪穴住居に入る。家全体をじーっと見てみる。
案の定、訳のわからない魔法陣が広げられていた。めちゃでかい。木の棒とかで描いたのか、地面に溝が四方八方に伸びている(このボロい家に床なんてものはない)。
ていうか……小一時間前に地面ならしたばっかなんだけど。
え?この人正気?私、手で地面をグイグイってやってたの、見てたよね?汗と泥にまみれながら、地面ならしてるの、見てたよね?この前あんた、「デコボコな地面だと過ごしにくいなぁ、ハツメならして〜お願い〜」って言ってたから、しょーがなくやってあげたんだよ。え?それなのになんだ、この有り様は?そこら中に土をとばしやがって。許さんぞ。
恨みがましい目をイヨ姉に向ける。全然気づかん。殴ろうかな。
グーの手を作った私を差し置いて、姉は片耳しかない獣耳をピクピクさせている。そして、ニンマリとした笑みをこっちに向けながら話す。
「今回はなんと!目に入った眉毛を取れなくする魔法です!」
うわーい、ほぼ当たりだぁ〜嬉しいなぁ〜
……こんなくだらない会話早く終わらせよう。というか逃げよう。つきあってらんねえ。
「えーちょっと、見るだけ見てみてよ〜。ほらこんな感じで魔法をかけると〜、………眉毛って全然目に入らないんだね……知らなかったな…」
そっか〜眉毛を目に入れる魔法じゃないんだ。だから、魔法全然発動しないんだ。へーそっかー。バカでかい魔法陣の意味。汗と泥にまみれた時間を返せ。
姉はあっちゃ〜やっちまったなぁって顔をする。
「あら〜失敗しちゃったなぁ。残念残念。」
私はその呑気そうな顔に心底呆れた。
「はぁ…。そんなくだらない魔法ばっかり作って…。魔術師の仕事はちゃんと出来てるんだよね?魔王さんとかなんか言ってない?クビにするとか言われてないよね?」
「あーうん。仕事はまぁちゃんと出来てるよ。たぶん。」
たぶん…ね。曖昧な言葉使わないでもろて。
「でも、信頼は得られてると思うよ!ほら、今日だってこの魔導書読んでこいって魔王様から言われてるし!」
それは魔術の教育をさせられてるということでは?
ていうか、何その魔導書分厚すぎ。普通の4倍はあるぞこれ。
「早く読みなよ。そんな分厚いの読んでたら日が暮れるよ。」
「えーめんどい。やだ。」
「読め。」
私はそのバカ厚い魔導書をグイグイと姉に押し付ける。ただでさえ薄そうな信頼感が、これを読まなかったことで更に薄くなるかもしれん。ペラペラのハム並みになったらこの家もおしまいだ。一家の安泰を願って。アーメンソーメンヒヤソーメン。
「そんな怖い顔で、祈らないでよ。分かったから!読むから読むから!」
私の願いは通じたらしい。ありがとう、麺の神様。
姉はしょうがないなぁって顔をしながら、魔導書をバサッと開く。それは余程古いものなのか、開いただけで埃がブワッと舞った。
「埃がすごいな…。なんの魔法がかかれてるの?」
「色々。一つの魔法じゃなくて、たくさんの魔法を集めたって感じ。大分変わってんねこの魔導書。」
それは魔導書と言うのか……?知らんけど。
姉はパラパラとめくっていく。そして、あるページでピタッと止まった。
「……どしたの」
「いや………ちょっとこれ見てみて。」
私はその本を覗き込んだ。その魔法は、大分端っこのところにかかれてあって、よく読まないと見つけられないものだった。隣の、バーーンとかかれてある魔法のほうが、余程目を引く。私はそっちの方に顔を向けた。
姉は、そのバーーンとかかれてる魔法のページを手でバシッと隠した。仕方なく、私は姉が言う魔法に目を向ける。
「なにこれ……" 消失の魔法"……?聞いたことないな。」
「大分古い魔法だね。最近だと使われていないらしいよ。扱いが難しくて、浸透しなかったんだって。余程魔力が高い者にしか扱えなかったとか……あと、大分グロい魔法だったとかなんとか……」
姉はう~んと唸った。どうした一体。
そして、姉は驚きの発言をする。
「これ……ちょっと改良してみようかな……」
「は?改良?」
「そう。もっとなんか…いい感じのものにしたいなって」
「いやいや。こんな難しそうな魔法、改良してどうすんの?というか、イヨ姉みたいなくだらない魔法ばっかつくっている魔族が、改良なんてできる?」
「……………確かにそうだね。でも私は結構優秀だよ。魔王様にもそう言われている。だから、やってみようかな。」
優秀って……信じられんな…
「やってみるって……。なんで、そんなにやってみたいの……?」
「………………………なんとなく、かな。」
そうか、なんとなくか。じゃあしょうがない。
「分かった。じゃあやってみて。もし、改良できたら魔王さんから褒められて、なんか褒美も貰えるかもしれんし。」
「……………うふふ。そうだね、楽しみにしててね。」
姉はそう言うと、早速作業に取り掛かった。魔導書を片手に、魔法陣をグルリと描いている。
こりゃ地面も更に荒らされるな。私がそれを直すのか。めんどくさいな。
そうして、数ヶ月が経ち、姉はついに改良を成功させた。
あの恐ろしく綺麗な魔法が、完成した。
次回に続きます。