消えかかっている
前回の更新から、二週間経ちました。今回が三度目の投稿です。よろしければ、最後までお読みください!
「ところで、さっきからずっと気になっていたんだけど、君の獣耳の模様、随分珍しいよね。」
不思議そうな顔をしながら、勇者は言う。ホントこの人表情豊かだよなと思いながら、私は返しの言葉を紡ぐ。
「血縁関係によるものなのかな。私もよくわかんないんだけど、姉さんも似たような模様をしていたよ。私は両耳で、姉さんは片耳しか生えていなかったけど。」
自分の獣耳を指さしながら、説明する。ふつう、魔族の獣耳は、シマシマ模様が一般的だが、私の場合は何故か水玉だった。姉さんも似たようなものだったから、恐らく遺伝だろうが、両親の姿を私は一度も見たことがなかったので、実際のところはなんとも言えない。
そう言ったら、何故か勇者は眉間にシワを寄せた。
「姉妹とも、水玉の獣耳…?どこかで聞いたことがあるような…」
勇者は怪訝そうな顔をする。そしてこう尋ねる。
「ねぇ、もしかして君…。この森の近くにあった村出身かい?半年前に滅んだって言われている「コト」って名前の村…」
「……、そうだけど。でも何で…」
何で知ってるの、そう言おうとしたその時、勇者は勢いよく剣を抜いた。そして、私の顔の前に構えた。鼻から一センチ先にあるその剣はよく研ぎ澄まされているようで、キラキラと輝いている。
私は、固まってしまった。今、自分が何をされているのか、よくわからない。なんで、この人は私に剣を向けているのだろう。
じーっと相手の顔を見てみる。
勇者は、驚きと疑惑と憎しみをごちゃ混ぜにしたような顔をしている。そして、さっきより1オクターブ低い声で話す。
「水玉の獣耳の姉妹は、コトという村に住んでいたらしい。二人はそれはもう優秀な魔族で、魔王からの評判もとても良かったらしく、特に姉の方は魔王側近の魔法使いになるよう勧められたほどだったと聞く。」
勇者は私の個人情報を流れるように話す。そしてこう続ける。
「姉の方は、実際に魔王側近の宮廷魔術師になって、そこで魔法の開発に励むようになった。村でもその様子がよく見られていて、完成した魔法を妹や村人によく披露していたらしい。」
確かに姉はいつも、なんかよくわからない魔法を開発していた。ボロい竪穴住居のなかでも、熱心に魔法陣描いてたっけな。
勇者は続ける。
「姉によって開発された魔法のほとんどは、あまり使い物にならなかったらしい。ボタンを必ずズラしてつけるようになる魔法や、アホ毛だけをフサフサにさせる魔法など、それはもう使われる頻度が少なすぎるような魔法ばかり開発していたらしい。何でそんな魔法を作ってるんだと聞いたら、妹にイタズラするためだったという。」
おいコラ待て、そんなこと初めて聞いたぞ。いやそういえば確かにあったな…なんか連日ボタンずらして服着ていたりとか、アホ毛だけが異様にフサフサしていたりとか…。あれアイツのせいだったのか。むっちゃ腹立ったぞあれ。あの野郎なんてことをしてくれるんだ。いや女だから女郎か…?どっちでもいいやそんなもん。
私は呑気にそんな回想をしていた。勇者は続ける。
「みたいな感じで、姉はしょーもない魔法ばかりを開発していたらしい。他の魔族たちは思った。もしかしたら、こいつ自体もそんな使い物にならないのでは…と。しかし、彼女がある魔法を開発してからは空気が一変した。なんの魔法なのか、君は分かるよな…?」
ここで、こっちの空気も一変した。重たいベールが体中を纏っている感じがする。重い。凄く重い。早くどこかに行ってくれないかな。
勇者の方をチラリと見る
彼は微かに身を震わせていた。
「俺の父親は……その魔法によって殺されたんだと思っている…。ハッキリしていないんだよ、あの現象が何だったのか。今、あちこちの国でそれを解明しようとしている。」
さっきも聞いたセリフだ。 勇者はトーンを更に重くした。
「俺は、あの現象が何だったのかを知る権利がある。だから、お願いだ。あの時、何があったのか、詳しく教えてくれないか。」
「………。」
私は、言葉に詰まった。
勇者の顔を見てみる。
彼は真剣な顔をしている。しかし、どこか悲しそうで。
なんだか、過去を省みているような顔にも見える。
「……分かった。じゃあ話すよ。」
私はその真剣な顔に負けて、過去を全て話してしまった。どうせ、ついでだからな。
全て話し終えた。
勇者は今にも泣きそうな顔をしている。
「そうか…」
そして、剣を改めて構える。
「ほんの少しだけ恨みを晴らさせてくれ…」
彼は剣を振るった。
殺気を感じた。やばい。これはホントにまずい。
私は慌てて弓を手に取った。そして、引いた。
弓矢が空中を飛ぶ。相手に目掛けて。
弓矢は勇者の腕を貫通した。彼は驚いた。
しかし、勢いはそのままに、剣は私の頭に向かってくる。そして…
私の獣耳に剣が当たった。そして、それは勢いよく吹っ飛んだ。血が吹き出る。一枚の獣耳が空中を飛ぶ。
一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。
だか、数秒後にこの世のものとは思えないほどの灼熱を頭に感じた。地獄の業火を浴びた時、もしかしたらこんな感じなのかもしれないと思うほどの熱さ。そして、キーンと鳴る耳鳴り。極めつけは突き刺すような、頭に響く痛み。
痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
駄目だ何も聞こえない。片耳はまだ残っているはずなのに、あまりの痛みにキーンと言う音しか聞こえない。涙が次々と、溢れてくる。頭の中は、ゲシュタルト崩壊が起こりそうなぐらい、「痛い」の2文字が舞っている。
前の男が何か言っている。だが、その声も聞こえない。こんな至近距離にいるのに。
なんとか頑張って相手の顔を見てみる。男は、驚いたような、でも真剣な、それでいて怯えているような、顔をしている。腕の方に目を向けたら、何故か、弓矢が刺さった場所からキラキラとした粒子がとんでいた。その粒子の量は徐々に多くなっている。そして、腕がどんどん透けていってる。
私はこのような光景を一度だけ見たことがある気がする。というか見たことがある。それはあの日、半年前のあの日。故郷の村が滅ぼされたあの日。私が……姉を、この手で、消したあの日。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!次回の過去編も、よろしくお願いいたします!