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9.トーリ

 なるほど、トーリさんですか。ユーリくんの名前はお父さんから派生しているのですね。


 三十代後半くらいの、よく鍛えられた体をしている男性でした。ワーウルフの皆さんは、みんな体が引き締まっています。普段から鍛えてるですね。けれど顔や表情からは穏やかそうな印象を受けました。


「ナザンから知らされて帰ってきたんだよ。ユーリが恋人を連れて帰って来ているって」


 あの人、家に入ったと思ったらすぐに出て、トーリさんに知らせに走ったのでしょうか。

 親切心なんですね。


 とにかく、ユーリくんがいないのにお父さんと対面することになってしまいました。


 何がまずいというわけでもないですが、気まずいです。


「はい、わたしが恋人です。お世話になります……」

「なるほど。それは本当なのかい?」

「え?」

「ユーリが方便のために、フィアナちゃんを恋人と言い張っているだけ、ということはないかい?」

「それは……どういうことでしょう」


 トーリさんの言っている意味がわかりませんでした。


 彼は決して、わたしを認めていないとかではなさそうです。むしろ、ユーリくんが言ったことを申し訳なく思っている様子でした。わたしのことは認めているように見えます。

 トーリさんはわたしの様子を見て、説明してくれるようでした。


「この里に、ワーウルフじゃない人間は来れない。ワーウルフの助けがないとね」


 それはわかります。自分の足で、あの道を行けと言われても無理です。


「だからみんな自然と、ワーウルフ以外の種族を歓迎しなくなったんだ。というか、ありえないことだからどう反応していいかわからない」


 たしかにさっき、ナザンさんはわたしを見て驚いていました。それは恋人発言に驚いたわたしの様子を見たからだと思ってましたけど、それだけではないのでしょう。

 人間が里に来ること自体、ありえないのです。


 わたしの服装を見れば、ワーウルフじゃないことは明らかでしょう。狩人が着る、しっかりした服ですから。

 だから変わった目で見られてしまいます。


「わたし、招かれざる客なのですか?」

「そうなるかもしれない。けど、ユーリはそうしたくなかった。だから恋人と言ったんじゃないかな。里の者の恋人なら、許されると考えて」

「なるほど……」


 トーリさんの考えはよくわかりました。

 けど、ご心配には及びません。


「わたしとユーリくんは、本当に恋人ですよ」

「そうなのかい?」

「はい。里の皆さんにわたしを受け入れさせる作戦なら、事前に言ってくれるはずです。恋人のふりをしてくれ、と」

「かもしれない。けど、あの子は口数が少ない。言うべきことを言わないことも多い」

「たしかに。そうですね」


 ユーリくん、昔からそうなんですね。さすがお父さんは、ユーリくんのことをよく知っています。

 けど、わたしだって知ってるんです。


「ユーリくんは、言わなきゃいけないことは言ってくれます。特に、わたしに関わることは」


 ユーリくんが説明してくれた通り。言わなかったのは作戦のことではありません。ふたりが両思いだって事実です。

 それもユーリくんが、お互いわかっていると思っていたから言わなかったことです。


「わたしたちは間違いなく恋人です」

「そうか……わかった。信じよう。ところでこれは別の質問だけど、ユーリはここに居着くつもりなのかい? フィアナちゃんとここで結婚して、子供を作るつもりかい?」

「けっ!? こ、子供!?」

「ごめんね。気が早かったね。子供相手に、ちょっと不躾な質問だった。謝るよ」


 動揺したわたしを見て、トーリさんは慌てた顔を見せました。


 そ、そりゃわたし、ユーリくんと付き合っていますから。将来的には、け、け、結婚とするでしょう。こ、子供も、作るのでしょうか。

 まだ早いですけど。ちょっと、そういうのは考えにくいですけど。既に付き合ってるのに、何言ってんだとは自分でも思います。

 けど、トーリさんにとっても気が早かったのでしょう。そんなものです。


 それはそうとして、疑問がひとつ浮かびました。


「人間とワーウルフの間に産まれる子供って、なんなんですか?」


 旅の中で、毛むくじゃらの獣人と人間の間に産まれた半獣人の話は聞いたことがあります。

 ワーウルフの場合は、半分ワーウルフができるのでしょうか。


 トーリさんは首を横に振りました。


「わからないんだ。誰も試したことがないからね。少なくとも、里のワーウルフは誰も人間と交わったことがない。やろうとも思わない。自分の子として、得体の知れない物が出てくるかもしれないから」


 なるほど。前例がないってことですね。

 人間と交流を持っているワーウルフですけど、恋愛には発展しないのですか。


 あれ、でもだとすると。


「やっぱりわたし、歓迎されてませんよね?」


 本当なら里に来るはずのない人間。しかもワーウルフの恋人。異質な存在ってやつです。

 ナザンさんが驚いただけで、わたしをそこまで警戒しなかったのは、彼が優しいからでしょう。もっと気性の荒いワーウルフは、露骨に嫌ってくるかもしれません。

 そもそもナザンさんだって、わたしではなくユーリくんとばかり話していたわけですし。まあそれは、知り合いだからなのもあるでしょうけど。


「うちでは歓迎するよ。よく来たね。外でも、ユーリと一緒にいれば問題はない」

「はい。……やはり里全体としては、歓迎されてないのですね」

「そうなるかな……特に今は、みんな気が立っているから。本人はそんなつもりはなかっただろうけど、ユーリが戻って来たとみんな知ったら、もっと殺気立つ」

「なにがあったんですか? 首長選びと関係があるようですけど」


 ナザンさんもそのことで、ユーリくんを誘ってました。


「首長選びについては聞いているんだね。何があったかは、ユーリにも話してあげようか」

「はい。ユーリくんはどこに」

「庭だろうね」

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