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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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38.恋人を庇う勇猛なる戦士

 ユーリくんの胴を両足でしっかり挟んで振り落とされないようにしながら、わたしは再度矢をつがえます。けれど放つ前に、敵とユーリくんは接触しました。

 自分より二回りほど小さいワーウルフの顔面を、ユーリくんは前足で思いっきり踏みつけました。さらに後ろ足を上げて体重をかけて苦しめながら、そのまま後ろ足で別の敵を蹴り飛ばします。


 まるで大人と子供。本来ならずっと年上のはずのワーウルフを、一度に二体無力化してしまいました。


 次の敵が側面から襲いかかってきます。わたしが迎撃すべきかと弓を構えましたけど、必要ありませんでした。ユーリくんは前に駆け出してこれを回避して、後ろを通り過ぎた敵の脇腹を後ろ足で思いっきり蹴飛ばしました。


 そして、大きく咆哮。その声は周りで暴れているワーウルフを恐れさせるには十分です。


 ユーリくんを戦力として、各陣営が欲しがった理由がよくわかります。単純に強い上に、大人よりも大きな体は威圧感を与えます。

 いるだけで、自分たちは勝てると思えるのでしょう。


「怯むな! 所詮はひとりだ! 全員でかかれ!」


 壇上でナザンさんが味方を鼓舞しています。悪事を働いた恋人を庇うために、必死です。


 アイシャさんを切り捨てる覚悟さえあれば、この戦いは不要なはずです。

 けど、ナザンさんは優しいのです。


 それを、アイシャさんに付け込まれたのでしょう。


 当のアイシャさんは、目の前で起こっている騒動を観て困惑しています。ここまで大騒動になるとは予想していなかったのでしょうか。

 ナザンさんに背中で庇われているため、彼の視界からは外れています。


 自分のために必死になっている恋人の姿を見ながら、かなり辛そうな顔をしています。

 その辛さはなんでしょうか。わかりませんけど、アイシャさんは耐えられなかったようです。


 ナザンさんの背中で、後ろを向いてどこかに逃げようとしました。


「逃げないで!」


 ユーリくんの背中で、鋭く叫びます。アイシャさんはビクリと身を震わせて止まりました。


「逃げないで! あなたは罪を償わないといけません! 目の前の光景を見てください! あなたがを守るために、大勢のワーウルフが傷ついています! 今すぐ罪を認めて、争いを止めてください!」

「いいや! 逃げろアイシャ! 話しを聞くんじゃない!」


 ナザンさんは恋人を守るように、私の視界から完全に隠すように動きました。


「ユーリくん! 急いでください!」


 比較的体格の大きいワーウルフとぶつかっていたユーリくんは、ちょうど敵の前足の付け根に噛み付いて肉をちぎったところでした。

 大怪我を追ったワーウルフの体を蹴飛ばして、ユーリくんは壇上まで一気に走ります。


 白い体にはあちこち血がついていました。全部返り血です。特に口の周りの血が濃いです。いつの間にか、大勢のワーウルフに噛み付いて怪我をさせたのでしょう。

 そしてユーリくんは、わたしの指示に従って駆け出します。止めようとしたワーウルフの鼻を蹴飛ばして、壇上へと一気に距離を詰めました。


 アイシャさんの姿は見えません。逃げたのかどうかはわからないですけど、ナザンさんの体で完全に隠されているようです。


「ナザンさん! 避けてください! あなたを殺す必要はありません!」


 警告しながら、弓を引き絞りました。

 真正面から弓で射られたら、避けるしかないものです。

 その結果、後ろのアイシャさんに当たる。そう期待していました。


 アイシャさんは殺します。罪が露見した結果、いずれは殺されることになるでしょう。

 だからアイシャさんの首があるはずの位置を狙いました。背中側ですので、首の骨に刺さるはずです。見えないものを狙うのは難しいですし、アイシャさんが逃げているなら、なおさらです。


 けど、わたしは自分の狙いに絶対の自信をもっているんです。できる女ですから。


 放たれた矢は狙い通りに飛んでいき、ナザンさんの胸に刺さりました。

 近くにいたアザンさんの、息を呑む音が聞こえました。


「……そうですか」


 これも予想できていたことです。アイシャさんを庇うために命を賭すような男です。彼は、立派ですから。


「俺が、恋人を見捨てて矢から逃げる男だと思っていたか!?」


 ナザンさんの怒りに満ちた声。

 思ってませんとも。想定はしていました。


 胸に刺さったとはいえ、心臓は外していました。ナザンさんが、急所を避けながらアイシャさんを守るように微妙に動いたのかもしれません。

 ナザンさんは動けます。そして、こちらに敵意を向けていました。


「アイシャは! 俺が! 守る!」

「ユーリくん、ナザンさんの相手をお願いします」


 壇上に飛び乗ったユーリくんから降りました。

 ユーリくんと対峙したナザンさんは、服を脱ぎ捨てて狼に変化しているところでした。胸に刺さった矢が、相対的に小さく見えてきます。


「があああああ!」


 力を振り絞るような咆哮。致命傷ではないとはいえ、胸の矢は重傷です。そして目の前には、自分より大きなワーウルフ。

 それでもナザンさんは、果敢にもユーリくんに突進していきました。


 考えなしにぶつかるのではありません。両者が接触する寸前に、ナザンさんはわずかに機動を変えました。ユーリくんの脇腹に迫ります。


 ギリギリの所で回避したユーリくんに、ナザンさんはなおも食らいつきます。比較的小さいとはいえ、ワーウルフの中では大きな方。

 ユーリくんと言えども、本気で噛みつかれたら大事です。

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