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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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34/41

34.ワーウルフの集会

 他の多くの街では、行政の中心地と長の住む街は同じで、街の中心地にあります。権力が世襲制なので、そうしても問題ないわけです。

 この里は違って、首長の家が五年ごとに変わる可能性があるために、家と集会所は別にあります。


 首長を始めとした里の首脳陣が集まる場所。そこに、今夜は里中のワーウルフが集まっているわけです。


 場所は、里の中心部。全体が山の斜面に沿った坂になっている里の、中腹です。真ん中にある点は、他の街と同じですね。

 住居を兼ねた場所ではないので、そこまで大きくはないです。一応は里のシンボルではあるので、外観はきれいに整えられていますけど。


 とはいえ今は夜。そして大勢のワーウルフが集まっていて、わたしたちは人目についてはいけません。なので建物をじっくり見ることもできないです。その必要もありません。


 建物の前に、ワーウルフが大勢います。会合の始まりを待っているのでしょう。みんな立っています。

 最後列にトーリさんがいました。わざと遅れて行って、端に座ったようです。時折周りを見て、わたしたちが来ていないか確認しています。


 物陰から様子を伺うわたしたちに気づいたようです。直後、ユーリくんは指をひとつ立てました。アイシャさんの部屋に、弓があったという合図です。

 トーリさんは少し驚いた顔をしながら、頷きました。彼も、本当は信じたくなかったのでしょう。アイシャさんが殺した事実を。


 ややあって、皆さんの前にアザンさんと、その家族がやってきました。アイシャさんもいます。


 こちらからはよく見えませんけど、壇を作っているらしいです。アザンさんやナザンさんやアイシャさんは、皆さんよりも頭ひとつ抜け出した高さにいます。


 アザンさんは毒の影響で弱っています。ナザンさんに肩を借りています。

 けれど首長として、この仕事を放り出すわけにはいきません。最悪に近い体調を押して、ここに来たのでしょう。


 毒に負けて皆さんの前に来れないとなれば、家についてきている味方の士気にも関わります。彼は息子に首長の座を継がせたいと思っていますから。

 その息子とは今はナザンさんですけど、嫡男の死でただでさえ味方に不安が広がっているところです。当主自ら皆の前に出て、安心させなければいけません。


 もっとも、その頑張りはすべて無になってしまうのですけど。


 何も知らないアザンさんは、里の皆に呼びかけようと息を吸い。


「首長! 本題に入る前に、ひとつ終わらせないといけない問題があるんだ」


 トーリさんが声を上げました。

 集団の最後列にいる彼に、一斉に視線が向きます。


 わたしやユーリくんが出たら、話をする前に疑問と疑いでそれどころではなくなるでしょう。だから、トーリさんに仕事を負わせる形になってしまいました。申し訳ないと思っています。

 もちろん、急にこんなことを言い出したトーリさんにも、疑問の目は向きます。


「それは、首長が変わってからではいけない話なのか?」

「そうです、首長。ガザン殺しの手がかりなので。ガザンを殺した者がわかるかもしれません。その犯人が首長になってしまう可能性は、潰したいのです」


 大勢のワーウルフのざわめきが聞こえます。アザンさんは弱った体に鞭打って、声を張り上げてこれを黙らせました。

 トーリさんの話を放っておくと、たしかに問題が拗れてしまいます。だから聞こうと考えたようです。


「三年前の、大きな猪騒動を覚えていますでしょうか。結局使いませんでしたが、退治のために僕は大きな弓を改造しました」


 言われてから、ようやく思い出したというワーウルフが多いようです。しかし実際にあった出来事です。皆さん納得の表情をしていました。


「この弓がガザン殺しに使われたのだと思います。僕の家から盗まれていたようです。探したけど見つかりませんでした」


 トーリさんは、これまでの調査でわかったことを説明しました。


 いつの間にか、弓が消えて事と、木の枝に装置をつけた痕跡があること。装置を使ってガザンさんが殺された可能性が高いこと。

 装置を使えば成人男性に限らず殺しは実行できるし、痕跡の高さから推測するに、むしろ小柄な狼体の者が犯人である可能性が高いこと。


「あの弓は、僕の発明品だ。できれば返してほしい。……正直に言えば、犯人が誰かはそんなに興味はない。裁くのは僕ではないしね」


 この言い回しも事前に打ち合わせしていた通りです。アイシャさんの心の負担を軽くするためです。


「今日、里を歩き回って弓がどこかに捨てられていないか探した。けど見つからなかった。だから今度は、それぞれの家の中を調べたい。何人かで確認するんだ」

「お前の家は散らかっている。失くしたとかじゃないだろうな?」


 アザンさんが、訝しむような声で尋ねます。お隣さんですしアイシャさんの繋がりもありますし、家が汚いのは知ってるんですね。


「そうだね。家をよく探せば、やっぱり見つかったっていうこともあるよね。その時は、僕が馬鹿だったとみんなで笑えばいいです。その時は、木の傷がなぜついたかを考えないといけませんけど」

「……そうか」


 アザンさんは、トーリさんの言うことも一理あると考えだしたようです。


「なので提案です。主だったワーウルフを二手に分けましょう。片方は僕の家。片方は、妹の家ということでどうだろう。そして、家の主だったところを探す。……親族ですから、僕が覚えていない時に貸したかもしれません。アイシャも家によく出入りしていましたし。もちろんその後に、有力者を優先して他の家も探す」

「なるほど……」


 トーリさんの提案をアザンさんは頷きながら聞いていました。

 ところで。


「表情が変わりましたね」

「うん」


 壇上のアイシャさんの顔が、明らかにこわばりました。秘密がバレてしまうかもしれない。そんな恐れを抱いた顔です。

 トーリさんも気づいているのでしょう。

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