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3.ワーウルフと人間の共存

 翌朝、ユーリくんが言っていた通り、ナランズビルという街に着きました。


 ここから里に続く村まで、歩いて半日ほど。また夕暮れ時が近いでしょう。

 たしかにユーリくんの足でも、里まで向かうには遅い時間ですね。


 旅はゆっくり行くのがいいですよね。


 ワーウルフの里と隣接している街ですけど、見た目はそんなに変わったところはありません。木や煉瓦で作られた建物が並んでいて、それぞれが家やお店です。そこを訪れる人が何人もいます。

 どこにでもある、小さな田舎町です。それでも、わたしの故郷の村と比べると、人も建物も多いですけどね。


 これが村になると、建物の数がまばらになって、代わりに農作地や牧草地が多くなります。煉瓦の建物は減って、木造の建物の割合が大きくなり、人の数も減ります。

 たぶん、里に続く村もそんなものなのでしょう。


 違いがあるとすれば、例えば。


「ここの人の中にも、ワーウルフが混ざってるんですか?」

「どうかな。この街では、そんなに。ちょっとくらいはいるかも。街で買い物をするとかの用事で」

「村の方はどうですか?」

「何人か、いるはず。出稼ぎに来ているのが」


 出稼ぎに買い物ですか。


「ワーウルフの里は、山奥にあるから。あまり人と交流はない。けど、禁止もされてない」


 ユーリくんの話しによれば、里は木々が鬱蒼と茂る山の中の空き地にあるそうです。ユーリくんたちの先祖であるワーウルフが、人との関わりをあまり持たなくていいその場所に移り住み、周りの木を切り開いて集落を作ったらしいです。


 建物はそれなりにありますけれど、普通の村と比べても簡単な造り。

 食料は主に、森から捕まえる野生動物。農地も少しは作っているのですけれど、主食は肉です。さすがは肉食獣です。ウサギを生のまま食べると言うユーリくんの同族です。


 もちろんワーウルフは、野蛮な種族ではありません。ちゃんと人間との関わりを持って、文化を取り入れているようです。


 昔はワーウルフは完全に人間から離れた生き方をしていたそうですけど、だんだんと人里に降りてくるようになったといいます。長い歴史の中で、まだこの百年ちょっとくらいのことですけれど。

 隣接した村まで出稼ぎに行き、貰ったお金で物を買って里にもって帰る。上質な道具や里では手に入らない食べ物。あとは装飾品とかですね。


 出稼ぎの仕事は、村の近くの害獣退治とか、あとは農業のお手伝いとかです。その村には、ワーウルフ専用の仕事探しの建物があるそうです。冒険者ギルドから派生した施設で、確かにやっていることは一緒ですね。

 ワーウルフは単に労働力になるだけではなく、馬の代わりにもなれます。人間の知能を持つ、人間以上の力を持った動物なので、農作業にすごく役立つんですよね。害獣退治も狼に変身すれば簡単にできます。

 だからその村は農作物が他よりも多く採れて、それを街に売ることでお金が儲かります。ワーウルフや儲けた農家に物を売るためのお店も建ちますし、商人さんも訪れます。


 それを繰り返して人口も増えていって、村としてはかなり立派になっているのだと、ユーリくんは説明してくれました。


「ただの村だと思っていました。でも特徴ってあるものなんですね……」

「この街と比べると、まだまだ小さいよ。だから、村なだけ。里のワーウルフの数も、街の人口くらい多いわけじゃないから」


 だから、出稼ぎに来る人数も限られるわけですね。それでも労働力としては大きいので頼りになるのですけど。


「だから、村は村。もっと大きな街に興味を持って、旅に出るワーウルフもいる」

「ユーリくんもそうなのですか?」


 そういえばわたし、ユーリくんがなぜ里を出たのか知りませんでした。

 知るにはいい機会です。たぶん、わたしの質問で正解だと思うのですけど。


「興味は、あった。けど、きっかけは少し違う」

「きっかけですか」

「里に居づらくなった」


 それきり口を閉ざしてしまいました。


 これは、あまり聞かれたくないことだったのかもしれません。


 あまり深刻な理由ではないと信じたいです。本当に里にいられないなら、こうして戻ることもないでしょうから。

 とにかく、ここは詳しく尋ねるべきではありません。ユーリくんが語らないのですから、無理させることはないです。


 わたしは、できる女ですから!



 街を出て半日歩いて村に着きます。


 なるほど、よくある村と比べると、立派な建物が目立つような気がします。田畑も牧場も広いのが多くて、儲かっていそうです。


 普通は村にはあまり無さそうな、ちょっと高めの服を売るお店なんかもありました。ワーウルフ相手の商売のためですね。


 村の宿も立派でした。ワーウルフからあまり高額な宿泊料は取れないにしても、農家の繁忙期には大勢来ます。だから儲かるのでしょう。明らかに普通の村の宿屋よりも大きいです。

 今日は空いているようですけれど。


「こんにちは。ふたり」


 ユーリくんが宿屋の主人に、そう話しかけました。


 子供だけで旅をしているわたしたちに、少しだけ不審な目を向けていましたけど、冒険者ギルドの登録証とユーリくんがワーウルフなことを伝えれば納得してくれました。

 こういうことはよくあります。慣れればどうということはないです。


 リゼさんたちと旅をしていると、いつも男女で二部屋借りていました。けどこの旅ではふたり一緒の部屋で寝ます。さすがにひとりひと部屋は贅沢ですから。

 ユーリくんは別々でもいいと言ってましたけど、気になりません。野宿の時は一緒に寝てますしね!


 とにかく、宿に泊まること自体は問題なさそうです。


 けど。


「最近、ワーウルフがあまり来なくなった理由について、心当たりはあるかい?」


 主人がそんな質問をして、わたしたちは顔を見合わせました。

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