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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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26.大きな弓

 昨日花を買った大人しそうな少年も、ワーウルフになれば喧嘩が強いと知ったおばさんは、さらに驚いていました。こっちに関しては、ユーリくんの強さに慣れたわたしとは感覚が違うのでしょう。


 なるほど慣れですか。こうやって暴力が伝統として組み込まれた世界だと、それが当たり前になるのでしょう。そこから殺人までは、一歩踏み出すだけで事足ります。

 ガザンさんを殺したこと自体は許されることではないですし、里の誰も許さないでしょう。けど、里の誰もがそれを実行できる心持ちなのも事実なのかもしれません。


 ふたりの間に、しばらく沈黙が流れました。


「そ、そうだ。弓を少し見てもいいですか!」


 その空気に耐えられなかったので、強引に話を変えました。そしてお店の一角に向かいます。


 大きめの村の商店とはいえ、村は村です。そんなに大きなお店ではありません。


 そこに日用品だけではなく、里のワーウルフのためのお土産とかも売っているので、扱う品の数は多くなります。

 必然的に、特定の商品の品揃えは少なくなってしまいます。そう何種類も置く場所はありませんから。


 例えば弓も、二種類の大きさのものがひとつずつ。矢もそれに合わせた長さのものがまとめて売られているだけです。

 ちなみに、どちらもわたしが扱うには大きすぎます。成人男性用です。


 それから、サイズが合っているかは重要ですけど、手作りのものですから同じサイズでも微妙な違いがあります。本当なら、いくつか手にとって自分に一番合っているのを選ばなきゃいけないんですよね。

 だから本当なら、街の武器屋まで行って調達すべきなんですよね。


 ちなみにわたしの村でも、状況は似たようなものでした。わたしの最初の弓は、お父さんが街まで連れて行ってくれて買いました。わたしに扱える小さな弓は、街の武器屋にしかないので。


 買った後も、自分で調節して最適な使い心地にします。そういう作業も慣れたものです。


 今回の犯人はどうなんでしょうね。


「……」


 売られている弓の片方は、かなり大きいサイズです。正直、買い手がいないのでしょう。あのおばさんが日々拭いてはいるのでしょうけど、端の方に埃が見えました。

 もう片方は、その様子はありません。一般的な男性用のサイズですし、最近買われて新しいのを入荷したってことなんでしょう。


 ワーウルフではなく、村人が買うことは珍しくないと言いますし。ちなみにガザンさん殺しに使われた弓のサイズも、こっちだと思います。珍しくなさすぎて、なんの印象にも残らないですし手がかりになりえない弓です。


 あのおばさんも、ワーウルフと村人の区別はつくはずです。ワーウルフは服装が違いますし、村人は普段一緒に生活している顔なじみですから。


 それよりも、気になるのは大きい弓の方です。これ、かなりの大男が使うやつですよ。


 もちろん、放たれる矢の威力も馬鹿になりません。鉄製の鎧で武装した兵士を、鎧ごと射抜くために使うと言われても疑問には思いません。

野生動物を仕留めるのにこんな大袈裟な弓と矢が必要とは思えないです。


 どっちかと言えば戦争用とかです。この国ではもう、何十年も行われていないものと聞いています。


「これ、誰が買うんですか? この村に力自慢の狩人さんがいるんですか?」


 興味がわいたので、訊いてみました。今回の殺人事件とは無関係だと思いますけど。


「それはねえ……何年か前に、ワーウルフがこんな弓が欲しいって言って言ったから入荷したのよ。ちょうど、村に商人が来てたから、大きめの弓を調達するようお願いしたの」


 ここでいう商人とは、各地を回って顧客の欲しいものを調達する種類の商人さんですね。お金持ちのお得意さんがいて、遠方の地の珍しい品とかを持ってきて売るというものです。移動する商人です。

 この商店はお金持ちというわけではないですけど、仕入先としてお得意さんにしている、似たような商人がいるのでしょう。


 普段は街と往復して、領内の村のそれぞれの商店に商品を卸す。今みたいに特別な注文があれば対応してくれます。


 お金持ち相手の商人とは規模が異なりますが、やっていることは同じです。


「喜んで買っていってくれたわ。だから、その後も買い替えとか矢の補充があるかもと思って仕入れたのだけど、それきりね」

「ワーウルフですか。やっぱり、体格がいい方なんですか?」


 何年か前ということは、さすがに今回の事件とは無関係ですよね。けど気になったので尋ねました。


「いいえ。あまり大きくはなかったわ。普段から運動はしてるのでしょうけど、細身で……ああ。白髪だったわ。そうそう、昨日あなたと一緒に花を買いに来た、あの子にそっくり。まるで親子みたいに」

「親子……あの。その子と弓を買ったワーウルフさん、雰囲気は似てましたか?」

「雰囲気? そうねぇ……あの子は物静かだけど、買っていったのは優しそうな人よ。確かに両方ともおとなしそうではあるけど、ちょっと違うわ」


 間違いありません。トーリさんです。


 なぜかはわかりませんけど、トーリさんは自分が扱えない大きさの弓を買って、そのままにしているようです。

 数年前なら、今回の事件とは関係ないはずです。矢の長さも違いますから、ガザンさんを殺した凶器とも無関係なはずです。


 本当にそうでしょうか。


 もう一度、弓と矢を見ます。長さに差があると言っても、両方とも成人男性の使用を想定した大きさです。

 長い弓に、少し短い矢をつがえることは、なんとか出来そうです。


「あ、あわわ……」


 わたしはもしかして、とんでもないことに気づいてしまったんじゃないでしょうか!?

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