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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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25/41

25.再び村

 けど、ゾーラさんの求める答えは、今のところ誰も言えません。


「ナザンかも」

「え?」


 ユーリくんがふと言った言葉に、わたしはすぐに反応できませんでした。

 一方のゾーラさんは、頷きました。


「ガザンが率いるはずの味方を引き継いで、自分が首長になれるもんね」

「そう。あまり考えたくないけど、ナザンは得をする」

「ち、ちょっと待ってください! 兄弟を殺すなんて!」


 いえ、家族間でも対立があって、悲劇に繋がることはわたしも知っています。


わたしもユーリくんも、家族仲はいいです。

 しかし一緒に旅をしていたリゼさんは、両親から逃げるように家から飛び出たのが旅立ちのきっかけです。最終的には和解しましたけど。

 同じくカイさんも、父親と対立してしまいました。今も和解はできていません。


 その街のお金持ちであるほど、家の権威や財産や方向性に縛られて、家族の仲に亀裂が入るものです。この里でも同じなのでしょう。

 もちろん、素晴らしい家族愛も見たことはありますけれど。


「ユーリくん。その可能性は、一旦忘れませんか?」


 あらゆる可能性を考えるべきなのは、わたしもよく理解しています。けど、家族間の争いは悲しいです。


「まずは村に行って、手がかりを集めましょう。犯人探しは、その後です」

「わかった」

「わたしも一緒に行く」


 ゾーラさんが、かなり前のめりな姿勢で言います。いつの間にか涙は完全に乾いていました。


 協力的なのは嬉しいです。でも、あまり知らない相手と一緒に行動するのも考えものですね。というか、ユーリくん以外とは動きたくないです。


「ゾガが心配してるだろうから、戻ってあげて」

「でも」

「犯人は、必ず僕とフィアナとで見つける。もちろん、ゾーラにも教える。恨みを晴らすなら、それからにして」

「……わかった」


 ユーリくんの圧の強さに押されたのでしょう。あまり納得はしていなさそうですけど、頷いてくれました。


「僕のお父さんに伝えてほしい。すぐに戻るって。明日の夜にも」


 さっきキセロフさんにも同じようなお願いをしていましたけど、出て行けといったナザンさんの手前、いつになるかは言ってませんでした。

 トーリさんを安心させるためにも、必要なことですね。それに明日の夜ということは。


「首長選びに名乗りを上げるための会合がある日ですね」

「うん」


 卑劣な人殺しを首長にはしたくありません。だからその日の晩に、会合の場で真実を明かしましょう。


「犯人が誰であれ、僕たちが動いていること、知られたくない。ゾーラ、このことは、僕のお父さん以外には内密に」

「わかった。頼んだよ」


 ゾーラさんは里の方へ戻っていきました。


 軽率な行動はしないと思いますけど、早く帰ってあげないといけません。


「僕たちも」

「はい。行きましょう」


 再び狼化したユーリくんにまたがり、森の中へ入っていきます。

 森の中を、巨大な狼が疾走します。木々の間を抜けて川を飛び越え、斜面を下っていきます。


 乗っているわたしは何もしなくていいのですけど、万一にでも足を踏み外さないかと手に汗握ってしまいます。ワーウルフにしか通れない道って、本当にすごいです。


 あまり時間は掛らず、昨日見た村に戻ってきました。


「二手に分かれよう。僕は仕事の案内所に」

「わたしは商店ですね。後で、宿屋さんで合流しましょう」


 空を見れば、まだ昼なので明るいです。でも、昨日の今日で同じ宿屋に泊まることになるかもしれません。



 手がかり探しと言っても、何をするべきでしょうか。殺害現場である里とは離れた場所です。そこで手がかりが得られるとしたら、なんでしょう。

 ここには日常的にワーウルフが来ているはずです。怪しい人がいなかったか、とかでしょうか。


 そうでした。ユーリくんからは、凶器である弓の線から探ってくれと言われたんでした。


 昨日も訪れたその商店は、ワーウルフが里に買っていくお土産の扱いがメインです。けど里で作れない金属製の製品や、その他日用品なんかも売っています。

 村の人も日常的に使うお店ですし、この村にも狩人さんはいるはずです。弓矢の取り扱いもあるでしょう。


 この商店で、最近弓か矢を買ったワーウルフがいるか、尋ねればいいんです。簡単ですね。


「こんにちは。質問があるのですけど、いいですか!」


 意気揚々とお店に入ったわたしは、そう尋ねて。


「弓矢かい? ワーウルフ相手には、最近売れてないわねえ……」


 そんな返事をされました。いきなり手がかりが途切れました。


「さ、最近というと、どれくらいでしょうか!?」

「さあて……村の人たちには、よく売ってるのだけどね。ワーウルフだと……覚えていないわ。ごめんなさいね……」

「いえ。こちらこそすいません」


 人の良さそうなおばさんの店主さんが申し訳なさそうな顔をしました。申し訳ないのはこっちです。


「最近はワーウルフさんが、全然来ないでしょ?」

「あ、その理由なら知ってます」


 申し訳なさをごまかすために、事情を説明しました。おばさんは、ワーウルフの里で行われている血なまぐさい風習や、今は特に過激な抗争になってしまっていることに驚きの顔を見せました。

 そうですよね。これが普通の感覚ですよね。

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