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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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23.婚約

 ユーリくんも服を脱いで裸になって、狼化します。さすが大きいです。ゾーラさんが子供にしか見えないです。彼女もわたしよりも大きいのに。


 これは、ユーリくんに任せましょう。わたしの出る幕はないです。矢で援護して、間違って怪我でもさせたら大変です。幸い、わたしには殺意がないようですし。


 ゾーラさんは、自分よりも体の大きなユーリくんにも果敢に襲いかかります。口を大きく開けて噛みつこうとしています。

 小さい方が小回りが利きますし、懐に入り込んで噛み付けば大怪我を負わせられます。場合によっては殺せます。


 図体が大きい上に狼の体では手足の器用さも制限されますから、振りほどくのも難しいわけで。小さいゾーラさんはそこに勝機を見出したのかもしれません。

 まあ、ユーリくんはそういうこと全部お見通しだから強いんですけどね。


 ゾーラさんの動きを完全に見切っています。噛みつきや前足による切りつけを何度も回避しています。しかも常にギリギリのところです。完全に狙ってやっています。

 なかなか攻撃が決まらずにゾーラさんが苛立って来たのがわかります。だからこそ動きが大きくなり、勢いが強くなります。


 ゾーラさんがユーリくんの脇腹へと全力で踏み出した瞬間に、ユーリくんは大きく身を引きました。眼前をゾーラさんの体が通り抜けていきますが、ユーリくんはすぐさま前進に転じました。ゾーラさんは逆にユーリくんの脇腹を突かれてしまいました。


 噛みつきはしません。強く押しただけです。鼻先で突くと痛いので、少し顔を横に向けて頬で押す感じです。それでも体格差のおかげで、ユーリくんは見事にゾーラさんを横倒しにしました。

 さらにゾーラさんの横腹に前足を乗せて、起き上がれないようにしました。ゾーラさんはなんとか起きようともがきますけれど、無駄なようでした。


 これはユーリくんの勝ちですね。けど、ゾーラさんも諦めなさそうです。


「あの、どうするんですか?」

「がう……」


 ユーリくんも、ここから迷っている様子です。動けなくした後のことは、何も考えてなさそうです。殺していいなら、いくらでも手はあるんですけどね。


「説得してみますね」

「がう」


 うなずいてくれました。


 ユーリくんは今話せません。狼化を解除したら、体重が軽いから押しのけられてしまいます。だからわたしが話すしかありません。


「ゾーラさん。落ち着いてください。ユーリくんと戦う理由なんてありません。なにがあったか、まずは教えてもらえませんか?」


 ゾーラさんはなおも暴れたままです。仕方ありません。他に方法も思いつかないですし、ゾーラさんが疲れるか落ち着くまで話しかけます。


「いきなり襲いかかるのは駄目です。なにがあったか教えて下さい。ね?」


 根気よくお願いするしかありません。やがて、ゾーラさんはおとなしくなりました。疲れただけかもしれません。


「ゾーラさん、とりあえず人間の姿に戻ってください。落ち着いて話しましょう」


 彼女はこちらを、じっと見つめました。その目には悲しみの色が見えました。


「力になれるかもしれません。なので、話してください」


 ゾーラさんはゆっくりとうなずいてから、人に戻ります。裸の女性に、すぐに着ていた服をかけてあげました。

 ユーリくんも、同じように戻っていきます。


 話せるようになったとはいえ、ゾーラさんはしばらく口を開きませんでした。気持ちもあると思いますけれど、疲労のためかもしれません。

 一応、わたしは腰のナイフをいつでも抜けるようにしています。背負った弓の用意をするのはあからさまで、ゾーラさんに警戒されたくはありません。けれど彼女が、またユーリくんに襲いかからないとも限りません。わたしに来ることもあるかもですし。


 しばらく、沈黙が続きました。あまり長くはありませんでした。それを破ったのはユーリくんです。


「ガザンを殺したのは、僕じゃない」

「嘘!」


 里の大勢の人が知っていることを言ったユーリくんに、ゾーラさんは突っかかりました。


 皆さんの結論を否定したのではなく、本当に知らなかったのだと思います。皆さんがガザンの死体に集まっている間に、ゾーラさんはここで泣いていたのでしょう。

 なぜ、泣いていたのかは知りませんけれど。


「僕は、昨日の夜、ガザンと話した」


 ユーリくんは知っているのでしょう。語り始めました。


 さっき、わたしにも教えてくれると言っていたことです。このタイミングで話してくれるということは、ゾーラさんにとっても必要なことなのでしょう。



――――



「さっきは悪かった。俺の負けだ」


 昨晩。ユーリを呼び出したガザンは、最初にそう言った。

 その真意を計りかねて黙っていたユーリに、ガザンは続ける。


「お前と、ちゃんと決着をつけなきゃいけないって思ったんだ。首長の跡継ぎとしてな。俺が、まだ首長の息子でいられるうちに」

「それは、アザンが、次の首長決めで負けるかもしれないってこと?」


 別に会話がしたくないわけじゃない。疑問があればすぐに尋ねた。ガザンもそう問われることは予想していたらしく、頷いた。


「負けるとは思ってねえ。が、万が一ってことはあるからな。それに、俺自身にも区切りをつけたかった」


 区切り。ガザンは少し力を入れて、そう言った。どちらかといえば、こちらが本当の理由なのだと思う。


「結婚するんだ」

「そう。……誰と?」


 相手が誰かは、正直そこまで興味はなかった。ガザンが話したそうにしていたから、礼儀として訊いておいた。

 礼儀を払おうと思えるほどの相手ではないけれど。アザンの手前もあったし。


「ゾガのところの娘だよ」

「何人か、いる」

「ゾーラだ」



――――



「ええっ!? ゾーラさん、ガザンと結婚する気でいたんですか!?」


 ユーリくんが話してる途中なのに、わたしは大声を出して驚いてしまいました。

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