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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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18.遺体

「アザンさんは、わたしたちの仲を認めてくれているわ。配下のワーウルフには、ナザンも政略結婚目的で、他の主だった派閥の娘と付き合うべきっていうのもいるけど……従う気はないわね」

「そうですよね。好きな人と、一緒になるべきですよね」

「ええ。ナザンは本当に良い人よ。夫にするには理想の男」

「そういえばアイシャさん、まだナザンさんと結婚はしていないんですよね? 当たり前のようにこの家にいますけど」


 トーリさんの妹さんの娘さんなんですよね。アイシャさんにも実家というものがあるはずですけど。


「ええ。両親とも、わたしたちのお付き合いを認めてくれたわ。だから、早いうちに家に押しかけなさいって。……これが大きい派閥の家の娘なら面倒なことになるけど、うちは違うから」


 トーリさんの家もそうでした。みんながみんな、派閥に属しているわけでもないのですか。


「なるほど。それは良かったです。でも、もうすぐ結婚するんですよね?」

「ええ。首長選びが落ち着いたら、ね。どうする? わたしたちの式、見て行く?」

「はい! そうしたいです!」


 ワーウルフの結婚式、すごく興味があります。

 わたしとユーリくんの時の参考にもなるはずです。これは絶対に見なければ。


「ふたりとも、仲良くなったんだね」

「あ。ユーリくん! ガザンさんとの話はどうでしたか? 喧嘩しませんでした?」

「しなかった。じゃあ、帰ろう。アイシャも、元気そうで良かった」

「ええ。またね、ユーリくん。この里でゆっくりしていきなさい」

「うん。そうする」


 ユーリくんも、この里自体は好きなんでしょうね。



 アザンさんの家を出て、ユーリくんの家に向かいます。


「あそこ。ゾガが見てる」

「え?」


 ユーリくんの視線を追えば、頬に傷のある四十代くらいの男性が、アザンさんの家に歩いていくのが見えました。

 そうですね、あれがゾガさんです。覚えていますよ。有力派閥の人ですよね。


 向こうもこちらが気になるのか、視線を向けていました。逆に見られたと気づいたら、すぐにアザンさんの家に向き直りましたけど。


「あの家に何の用でしょうか」

「わからない」


 そうですよね。そんなことより、楽しい話しをしましょう。


「ユーリくんユーリくん。アイシャさんとナザンさんの結婚式、見てから里を出ませんか?」

「いいよ。長くなりそうだったら、カイたちに手紙書かないとね」

「そうですね! 合流するまで、もう少し待ってくださいって」

「リゼが、こっち来たがるかも」

「あー……言いそうですね。なんとかして断らないと……」

「断るんだ」


 はい! 断固としてお断りします。リゼさんがいたらムードとか台無しじゃないですか!


 アイシャさんはこの先、アザンさんの家で幸せになるんです。結婚式も完璧でなければいけません!

 ユーリくんの家に入る前に、もう一度アザンさんの家を見ました。首長選びがどうなるかは、まだわかりません。けど、この家自体はこれからも立派に続いていくんだと思います。





 翌朝、ガザンが死体で発見されました。





 ユーリくんの家で朝ごはんを食べていると、外が騒がしいと気づきました。

 昨日みたいに、家の前に集まっているわけではありません。みんなが一方向に向っているようです。


 よく見れば、アザンさんのうちに人が集まっていました。


「なにか、あったみたい。行こう」

「あ、はい」


 ローブを羽織って外に出るユーリくんを、わたしも弓と矢を手にとって追いかけます。

 アザンさんの家には、既に大勢の人が集まっていました。正確には、家の前の道にです。

 何かを囲むようにして、皆さん口々になにか言っています。


「なにか、あったの?」


 ユーリくんがワーウルフのひとりに尋ねると、皆さん一斉にこちらを向きました。

 そして、わたしたちから距離を取るように道を開けます。皆さんが囲んでいる何かが見えました。



 家の真正面からは少し外れた箇所で、ガザンが仰向けに倒れていました。死後どれくらい経っているかはわかりませんが、既に死臭が漂っています。

 比較的暖かいこの地方で、野ざらしで放置されていれば腐敗するまでそんなに時間もかからないはずです。


 体に矢が一本だけ刺さっています。四肢ではなく、お腹のあたりですね。心臓に刺さっているのはないらしいです。

 致命傷になったのは矢ではなく、首にある大きな傷でしょう。大きく食いちぎられていました。


 狼化したワーウルフにやられたんだと思います。


 殺人事件なのは間違いないですね。元々、乱暴者で派閥の外の人間からは恨みも買っていたでしょうし、状況が状況なので殺す動機は大勢の人にあります。

 殺し方も、そんなに変わったものではありません。弓矢だって、里にはいくらでもあるでしょうし。


「ひどいですね」


 旅の中で、死体は見慣れています。あまり好きな相手でもなかったから、悲しみはまったくありませんでした。

 ユーリくんも同じだと思っていましたけれど。


「……」


 拳をぎゅっと握りしめ、怒りの混ざった表情で死体を見下ろしていました。

 怒りは、死んだガザンに向けられたものではないと思います。彼を殺した誰かにです。


「誰が、殺したの?」


 やがてユーリくんは、周りのワーウルフを見回して尋ねました。

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