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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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15.ユーリくんの戦い方

 それよりも戦いです。ユーリくんが突然出したナイフを、ガザンもすぐに認識したことでしょう。けど、勢いよく腕を伸ばしていた途中です。避けられませんでした。

 ガザンの右腕に、長い傷ができました。血がダラダラと流れて、ガザンは咄嗟に傷を押さえつけます。


「てめぇ、また武器を!」

「うん。これは、首長決めの戦いじゃない。別に、禁止じゃない。仕掛けてきたのは、ガザンの方」


 ユーリくんは再びガザンさんに接近して、両腕が塞がっている彼の間合いに潜り込むと、思いっきり腹を殴りました。

 さらに姿勢を低くして、片方の膝を蹴ります。姿勢を崩したガザンを押して、仰向けに倒してから馬乗りになりました。


「……」


 何も言わず、ユーリくんはガザンの顔面を殴ります。一度ではありません。何度も何度も、執拗に鼻だけを狙って殴りました。

 ガザンが腕を振って抵抗しようとした瞬間に、ユーリくんは片手をガザンの右腕に向けます。腕を掴んで長い傷の一部に指を入れてこじ開けるように食い込ませたところ、悲鳴が上がりました。


 それに構うことなく、ユーリくんは片手でなおも殴り続けます。それから、近くにあった石に手を伸ばして、これを握って大きく振り上げて。


「ユーリ、もうやめてくれ。ガザンが嫌いなのはわかっているけど、俺の兄なんだ」


 ユーリくんの振り上げた手を、ナザンさんが掴んで止めました。


「……」

「そこまでにしてくれ。ガザンには俺から言っておく。ユーリに構うなって」

「言うこと、聞くと思う?」

「聞かせる。ここは俺を信じてくれ」

「……わかった」


 ユーリくんは石を放り投げて、ガザンの上からどきました。

 そのまま家の方まで戻ろうとして、ふと立ち止まって。


「ナザン。アザンと会いたい。どんな様子なのか確かめたい」


 また、足元の別の石を拾い上げながらお願いしました。これ、どっちかと言うと脅迫ですよね。


「わかった。来てくれ。父上の、病気が心配なんだな?」


 病気。ナザンさんはそこを強調しました。敵対するワーウルフが多く集まっているここで、毒によって衰弱していると認めたくないのでしょう。

 誰も、病気なんか信じていないのも事実ですけど。


「フィアナ、来て」

「は、はい!」


 ユーリくんのローブを持って、慌てて駆け寄ります。一緒にいたいと、わたしも思っていました。


「みんな、聞いて。僕は、今回の首長決めで、誰の味方もする気はない。アザンの様子は、気になるけど、戦う気はない」


 集まっている人たちに、ユーリくんはそう呼びかけました。自分を欲しがっている人が大勢来てるのをわかっているのでしょう。

 彼らはといえば、困惑していました。ユーリくんの宣言もそうですけど、さっきの戦いぶりに恐れを抱いたのかもしれません。


 同族との戦いにしては、遠慮がなさすぎましたから。


「あの。ユーリくん。どうするつもりですか? 首長決めに関わらないなら、アザンさんに会う理由もないと思うんですけど」

「一応、何があったかは聞きたい。本当に毒を盛られたなら、犯人は気になる」

「他の首長候補というか、手下を持っている派閥の誰かじゃないですか。さっきトーリさんから、何人か教えられましたよ。アド……なんとかさん」

「アドキア? あいつは、そんな手は使わない。もっと直接的に、暴力で勝ちたがる。やるとすれば、キセロフ。それかその手下」


 キセロフさんって、頭脳派の方でしたっけ。


「そうだ、ナイフありがとう」

「勝手に持って行ったんですよね?」

「うん」


 わたしから受け取ったローブで、ナイフの血を拭ってから返してくれました。ユーリくんなりの心遣いだとは思うんですけど。


「服で血をふくの、あまり行儀がいいとは言えませんよ」

「そう? 僕は、気にしないけど。気持ち悪くもないし」

「それを洗濯するの、わたしなんですよ」

「……わかった」


 わかってくれたならいいです。今後気をつけてください。


 まあ、そうは言ってもわたしたち、トラブルには巻き込まれがちですから。戦いになって汚れた時には、寛大な心でちゃんと洗ってあげましょう。


 わたし、できる女なので!


 そんなことを考えながら、ナザンさんについていって彼らの家まで向かいます。

 大勢のワーウルフの皆さんが、わたしたちを見ています。扱いに困っている様子です。わたしではなく、ユーリくんの扱いですね。

 ユーリくんがいなくなれば用事もなくなります。彼らはそのうち帰っていくでしょう。


「ナザン。アザンの病気は、伝染るの?」

「え?」

「人から人。ワーウルフからワーウルフに伝染する病気は、多い。アザンのは、そういうの?」

「それは……違うと思う。断言はできないが……」


 毒なのですから、伝染などありえません。けど毒ではないことにしたいナザンさんは、答えに困ったようです。


 嘘がつけない人なのかもしれません。基本的に良い人で、だからこそ家長の窮地に、どうすればいいのか困ってるのだと思います。

 肝心の兄、アザンさんに何かあった時の代わりの家長があれですから、なおさらです。


 わかっていて、わざわざ尋ねるユーリくんは意地悪です。

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