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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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14.ガザン

「おいユーリ! 今日は卑怯な真似するんじゃねえぞ!」

「卑怯? それは、味方を大勢引き連れること? それとも、卑怯じゃなくて臆病な真似だから、許されるって考え方?」

「てめぇ!」


 淡々とした挑発に、ガザンは怒りを強めたようです。

 一方のユーリくんはいつもの通りでした。


「罠とか武器とか使わず戦えってことだよ! わかんねえのかクソガキ!」

「うん。武器を使われると、ガザンはクソガキにも負ける雑魚だから」


 あ、これはいつものユーリくんではありません。普段は、こんなに人を煽ることはありません。


 ガザンのこと、本気で嫌いなんでしょうね。


 けど心配です。相手の数が多すぎます。

 一斉に襲いかかられたら、ユーリくんでも苦戦するかも。どうしましょうか。いざとなれば、わたしも加勢すべきでしょうか。


 自然と、背負っている弓に手が伸びます。


「今は経緯を見守ろうよ。後ろにいるのは、全員がガザンの手下なわけじゃないよ」


 トーリさんが、わたしを宥めるように静かに言いました。


「あの、赤毛の背の高い男はアドキア。その周りは彼の一派だよ。集団の右の方にいる、頬に傷のある男はゾガ。彼も自分の味方を連れている。キセロフの一派もいるね。黒髪の、目つきの鋭い男だ。ああ見えて頭脳派だよ」


 いえ、そんなに風にいきなり名前を言われても把握できません。

 わたしの困惑を見たトーリさんは、優しく微笑みかけました。


「全員がガザンの一派というわけじゃない。だから、ガザンが復讐のために大勢連れてきたのとは、少し意味が違うのだろうね。たぶん、みんなユーリが欲しいんだ」

「戦力として、ですね」


 みんな、どうしても次の首長になって村に自分の名前をつけたいのでしょう。

 そのためには戦力が必要です。ひとりでも多く。そこに、ユーリくんが帰ってきました。


 かつてガザンを倒した少年です。しかも旅の中で、強くなっていることでしょう。自分の陣営に率いれれば、かなりの味方になります。

 ガザンというか、アザンの家を倒すことへの士気も上がるでしょう。


 だからみんな来た。


 ガザンからすれば、どうしても倒したい相手。個人的な復讐もありますし、他の陣営に入れたくはない。

 だからここで、ユーリくんをやっつけてしまいたいのでしょう。


 しかし、ユーリくんを大勢で襲えば、他の陣営がこれを助けようとするかも。ユーリくんに恩を売って、引き入れるためです。

 みんな必死なんですね。


 たしかにガザンを挑発するユーリくんの言葉に、笑い声をあげている集団がいます。ご機嫌取りのつもりかもしれません。無意味だとは思いますけれど、人気者なんですね、ユーリくん。

 そんな状況を知ってか知らずか、ガザンはユーリくんに声を張り上げ続けていました。


「てめぇ……そもそも、なんで里に帰ってきた。仕返しを怖がって逃げたくせに、なんでこの時に」

「この時? 首長決めのことなら、興味ない。ただの偶然。世界を救う旅を終えたから、ちょうどいいかなって思っただけ」

「だったら、さっさといなくなれ。迷惑なんだよ」

「そう。僕がいたら、ガザンはずっと怯えて暮らさないといけないからね。また負けるかもって」

「ふざけてんのか……」

「僕は本気。ガザンには今も負けない。旅の中で、もっと強い相手と戦って勝った。ドラゴンと戦ったことはある? オークは? 海に住む巨大なタコは?」


 ちなみにオークはともかく、ドラゴンはユーリくんひとりでは倒せてませんし、巨大なタコを相手にした時は死にかけました。

 それでも生きているので、ユーリくんは十分すぎるほど強いのですけど。たしかに、この小さな里の中で最強と言っても、大したものに思えないことでしょう。


 実際、ガザンは怯んだ様子です。オークやタコなんて生き物、もしかしたら知らないかもしれません。けどそれを、平気で倒したと言うユーリくんは恐ろしく思えるのかも。

 けど、向こうも引くわけにはいきません。プライドもあるし、病気の首長の跡継ぎという立場もあります。


 それを全部知っているユーリくんは、続けて煽るわけです。


「さっき、決着つけようって言ってた。なんで、話すだけなの? 戦わないのは、なぜ? 負けるのが怖い?」

「こいつ……!」


 元々戦うつもりだったのでしょう。ガザンは怒りの形相と共にユーリくんに掴みかかりました。

 殴るのではなく、拳を開いた状態です。殴っても避けられるでしょうし、小さな体を捕まえる方針なのでしょう。一度捕まえれば、力の差は明らかですし逃げられることはないでしょうし。


 ユーリくんだってそんなことは承知で、まずは回避のために一歩下がります。


 ガザンの方が背が高く歩幅も大きいので、より一歩踏み込んで今度こそユーリくんを捕まえようとしていました。両腕で、確実に捕らえる体勢です。


「……」


 ユーリくんが、そんなガザンに向けて自ら踏み込みました。そしてズボンのポケットからナイフを抜くと、眼前の腕に向けて振ります。


 あのナイフ、わたしのですよね? いつも腰から下げているやつ。


 実際、腰を見るといつの間にか抜き取られていました。


 いつですか。あ、そういえばさっき、ローブを渡されるついでに抱きつかれました。あれですか。


 もっとロマンチックなものだと思ってたのに。

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