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ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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13.宿敵

 夕食を食べたら、少しだけ掃除の続きをしようかなと考えていたところ、外が騒がしいと気づきました。


 大勢の人の声が聞こえます。人というか、ワーウルフでしょうけど。

 一日の仕事を終える時間帯ではあります。みんな家に帰って家族との時間を過ごす、そのざわめきなのかもと思いましたけど。


「うちの前に、ワーウルフが集まってきてる」


 ユーリくんが外の方を見ながら言います。まるで、こうなることを予想していたみたいな言い方でした。


「みんな、僕が気になるんだ」

「え? どういうことですか?」

「強いから」


 ユーリくんは立ち上がって玄関の方へ歩いていきました。


「ちょっと! ユーリくん! 戦いには参加しないんですよね!?」

「うん。けど、向こうが関わってくる」


 いつもと同じ口調。けど、どこか怒りがこもっているようにも思えました。


 さらに、外から声が聞こえます。


「おいクソガキ! 出てこい! 決着つけるぞ!」


 どう考えてもユーリくんのこととしか思えません。クソガキとはひどい言いようです。


 それを聞いたユーリくんは、一瞬だけ足を止めました。それからローブを脱いでわたしに渡します。

 止めるべきなんでしょうけど、あまりに自然に渡されたので受け取ってしまいました。


 さらにユーリくんは、ローブを渡した瞬間にわたしに抱きついたのです。

 え? 急になんですか? なんだか、決死の戦いに行くみたいじゃないですか!


「上等。やってやる」

「待ってください! 今のは誰ですか!?」

「ガザンだよ。ユーリが、この里から出ていくことになった原因」


 追いかけてきたトーリさんが、静かに言いました。


 ナザンさんのお兄さんですよね。たしかにユーリくん、その人のこと嫌いそうでしたけど。


「決着をつけようっていうのは」

「ガザンの強がりだ。決着はついている。ユーリは九歳の時に、当時十七歳だったガザンを叩きのめした」

「え? さすがにそれは、ありえないのではないですか?」


 たしかにユーリくんは強いです。けど、さすがに年齢差がありすぎます。


「もちろん、まともに戦ったわけじゃないよ。罠に嵌めたんだ」

「罠ですか?」

「ガザンが毎日通る道に落とし穴を掘り、落ちたガザンに対して大量の石を放り投げた。簡単に這い出せなくなったガザンに対して、長い棒でひたすら突き続けた。手足の関節を執拗に狙っていたそうだ……とはいえ、なんとか穴から出られたガザンに対しては、真正面から飛びかかって勝ったのだけどね」


 まともに戦えば負ける。けど策を弄してかなりの傷を負わせれば、勝つかもしれない。


「ガザンは強いが粗暴な男だ。首長の家の子というのあるし、子分も多い。だから増長していた。ユーリはといえば、前からあんな子だった」

「ユーリくん、いじめられていたんですか?」

「そうなるのかな。僕はそれを、後から知ったのだけど」


 わたしの村でもありました。集団の中に入らない子に、酷い言葉をかける子供はいます。

 親が片方いないというのも、いじめる理由になるでしょう。


 ガザンは人望があるといいます。つまり味方が多いということです。大勢で、弱い者いじめをすることができるということです。


「ユーリはそれを、ガザンがひとりになる時を狙ってやった。ガザンの仕打ちに耐えながら、勝てる時を探していたのだと思うよ。騒ぎに気づいて人がやってきた時には、狼になったガザンがユーリに組伏せられて、血まみれになっている光景が繰り広げられていた」

「そうでしたか。それはガザンさんにとっては屈辱ですね」

「ユーリはみんなに恐れられるようになった。元々、狼化すれば周りより体が大きくなる子だ。しかも何を考えているかわからない」


 みんな恐る恐る接するようになったのでしょう。しかも問題はそれだけではありません。


「ガザンの一派を敵に回して、深い恨みを買ったのだから、外に出ることは難しくなった。ガザンは今度は、集団で襲ってくるだろうからね」

「ユーリくんは旅に出た理由を、里に居辛くなったからと言ってました」

「そうだよ。ガザンを叩きのめしてから、旅に出るまでは数日だった。ろくに準備もしないまま、ユーリは里を出た。元々、僕とユーリは村まで何度か一緒に行っていたから、道はわかっていた」


 その後のことを、トーリさんは知りません。カイさんと出会い、そしてわたしたちと出会ったのです。

 とにかく、ユーリくんの帰郷を知ったガザンが押し寄せて来たというわけでしょう。味方を大勢連れているのかも。


「ガザンさんも、前の戦いは負けと認めたくないのだと思います。罠と武器を使われたのだと」

「かもしれないね」


 外で大きな声が上がりました。わたしとトーリさんは、急いで玄関へと向かいます。


 家の前の道に、大勢の人が集まっています。小さな子供やお年寄りはいません。若いか中年かです。つまり、みんな戦える年齢です。

 男性が多いですが、女性も混ざっていました。総勢五十人ほどでしょう。かなりの数です。


 集団の前に、男がひとり立っています。ナザンさんに少し似てる気もしますけど、髪はより濃い茶色でした。目も少し吊り上がっていて、より凶暴な顔つきです。

 あれがガザンなのでしょう。年齢は、トーリさんの話から計算すると二十歳です。

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