表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワーウルフの里の騒動~無能魔女スピンオフ~  作者: そら・そらら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/41

10.死者との対話

 トーリさんについていって、家の勝手口から出ます。キッチンも散らかって、あちこちに埃が積もっていました。


 家の裏手から外に出ると、裏庭と呼ぶべき場所の一角に、ユーリくんはいました。


 立派な石が立てて置かれています。その前に、街で買ったお花を置いていました。いつの間に持っていったのでしょうか。

 ユーリくんは石の前で、座ったままじっとしています。何も話していません。


 こちらからは横顔しか見えませんが、かすかに笑みを浮かべていました。


「あれはお墓だよ。この里の慣習では、死者はその家の庭に埋めて土に還すことになっている」

「そうなんですか。ユーリくんのお母さんも、あそこに眠っているんですね」

「ユーリを産んで、すぐに死んだんだ。だからユーリは自分の母親を知らない。僕や、知っている人からの伝聞でしかわからない」

「悲しいですね。でも、ユーリくんはお母さんを大事にしているんですね」


 この里に帰ってきた理由も、お母さんのお墓参りなのでしょうし。


「知らないからこそ、自分の理想の母親を思い浮かべるんだろうね。ああ見えて小さい頃は寂しがり屋で、母親がいる他の子を羨んでいた」

「そうなんですか?」

「ああ。そして、僕はそんなユーリに何もできなかった。母親代わりになることはできなかったし、父親らしいこともあまりやっていない。ひとりで過ごすことが多かったから、ああいう物静かな子になったのかもね」

「なるほど……でも、ああいうユーリくんが好きですよ」


 あ、ユーリくんがこっちを向きました。近くで会話してたら、気づきますよね。


「おかえり、ユーリ。よく戻ってきたね」

「ただいま、お父さん。フィアナとは、もう話した? 僕の恋人」

「そうだね。お母さんとは、何を話してたんだい?」

「大切な人ができた。あと、旅の中であったことを教えた」


 黙ってお墓を見つめているだけでしたけど、心の中で会話していたんですね。

 大切な人というのは、わたしのことなんでしょう。里を出て旅をすること自体より、わたしの方が先に話すべきことだったようです。


「やっぱりわたし、恋人なんですね」

「ああ。そのようだね」


 トーリさんも認めてくれました。


「それでお父さん。アザンさんの家に、なにかあった? 今回の首長選びは、なにかおかしなことがあるの?」


 ユーリくんがそんな質問をしました。わたしも聞きたかったこと。ユーリくんも気になっているのでしょう。前からの知り合いが協力を求めてくるなら、特にでしょう。


「僕も、これまでの首長選びはよく知らないけど」


 確かにそうですね。前の首長選びの時、ユーリくんは七歳。その時の記憶はあるでしょうけど、よくわかっていない可能性だってあります。今のわたしたちにとって変に見えても、それが普通なのかもしれません。

 いえ、トーリさんの様子から、実際に異常なんでしょうけれど。


「ナザンは隠したがっている。しかし里の中に噂が流れているんだよ。現首長、アザンの体調が思わしくない」

「それは、病気ってこと?」

「そうかもしれないね。けど噂ではこうなっている。誰かに毒を盛られて衰弱した、と」

「毒!?」

「そう。どれくらいひどいの?」


 わたしが驚きの声をあげた一方、ユーリくんは冷静に詳細を知ろうとします。さすがです。


「ここ数日、公の場に出ていない。ナザンが里中を回って、病気だから静養させていると言っているよ」

「そう。つまり、歩いたり話したりできないほど、ひどいってこと?」

「ナザンの話から考えるに、そういうことになるね」

「それは、変。アザンはそんなに弱いワーウルフじゃない」


 トーリさんはしっかり頷きました。


 アザンさんという人は知らないのですけど、病気で参るような人じゃないらしいです。

 いえ、どんな人でも駄目にしてしまったり、殺すような病気もあるのですけど。それはそうとして、アザンさんの急病はおかしいと、みんな思っているんですね。


「アザンが、このまま回復しないなら、次の首長選びはたしかに荒れる。自分が首長になるって、みんなやる気になる」

「ユーリくん待ってください。たしかにチャンスではありますけど、アザンさんの家が首長を続けることは難しくないと思うんです」


 たしかにアザンさん自身が弱っているのは大問題です。けど、たとえ本人がそんな状態でも、家族や仲間が守ればいいのではないでしょうか。

 弱ったアザンさんについて行こうとする人が減るという懸念はあるでしょう。けど、アザンさんの家には息子がふたりもいます。


 首長の座は親から子に受け継がれるわけではありません。けど、家長の座は受け継がれるものです。


「ナザンさん……よりは、お兄さんのガザンさんですよね。その人がアザンさんの志を継いで首長選びに名乗りを挙げれば、みんなついていきますよ」

「…………」


 ガザンさんの言葉が出た途端、ユーリくんは顔を背けました。

 さっきナザンさんも言ってましたね。ふたりの間に、何かあるのは間違いありません。


 けど、今はアザンさんの家のことを聞くのが先です。


「ガザンには、たしかに首長の器があると思う。みんな、ついていく。それは、間違いない」


 ガザンさんが嫌いでも、ユーリくんは実力を認めているようです。


 けど、事情はもう少し複雑なようでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ