表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/41

1.わたしとユーリくん

 夕暮れ前、少し日が傾いたくらいの時間の森は静かで、斜めから差し込む光で照らされた光景は幻想的です。


 登りやすい木の枝に跨って周囲を見回しますが、動くものはありません。静寂もいいですけれど、夕食が野草を煮た塩味のスープだけなのは勘弁したいです。


 その時、視界の端で動きがありました。背の高い草むらの中で、動物が動いたのでしょう。

 大きめの鼠でしょうか。それともイタチでしょうか。猪や狼の大きさではなさそうですけど、子供の可能性もあります。


 目を凝らして見ると、ウサギでした。しかも二羽います。両方とも灰色の体毛でした。


 今日の晩ごはんを見つけました。気の毒ですけど死んでもらいましょう。


 弓を引絞り、矢を放ちます。片方の首を背中側から射抜いて即死させた後、すぐに次の矢をつがえて同じように放ちます。

 二羽目も、隣のウサギが死んだことに気づく間もなく死にました。


 さっそく木から降りて、獲物を見ます。同じ種類のウサギですが、大きさは少しだけ違いました。


 つがいでしょうか。それとも、偶然同じ場所にいただけでしょうか。


 どっちでも構いません。これで、夕食はかなり豪華になるのですから。


 殺したら、味が落ちる前に血抜きをしないといけません。ですけどこの場でやるのも気が引けるので、ウサギを掴んで移動します。

 森の中にあった、木々の生えていない野営にぴったりの場所へ行けば、旅の仲間が焚き火を起こしているところでした。


「ユーリくん見てください! ウサギが捕れました! しかも二羽も!」


 焚き火に木の枝を焚べて大きくしているのは、わたしと同じ十二歳の男の子。彼がユーリくんです。


 白い髪がとてもきれいな、可愛くてかっこいい男の子です。粗末な作りのズボンを履いていて、上半身は裸の上に魔法使いがよく着ているようなローブを羽織っています。


 こんな格好をしているのには理由があります。ユーリくんはワーウルフ、狼に変身できる人間なのです。

 変身する時に服を着たままだと破れてしまうので、脱ぎやすい格好をしているんです。


 いざとなれば狼になって敵を倒すワイルドな男らしさもありますし、人間の姿の時は無口でクールですし、大きな都市をいくつも旅をしていて都会的な洗練された魅力もあります。それに頭もいいのです。そして顔つきはかわいいんです。

 ワイルドで知的でクールでキュートなのです。ユーリくんは最高ですね。


 そんなユーリくんはわたしの方を見て。


「フィアナは、狩りがうまいね」


 短く言ってから、ユーリくんは焚き火に視線を戻しました。


 返事がそっけないのは、嫌われてるとかではありません。ユーリくんはこういう話し方をするのです。

 口数が少ないし、話してもあまり多くを語りません。表情の変化もあまりないです。


 それでも話しかければ返事をしてくれますし、よく見れば顔も気持ちを語っているのがわかります。それを理解してこその、ユーリくんのパートナーなのです!

 そして、ユーリくんのことを世界で一番か二番目に理解できていると思っているのが、このわたし、フィアナなのです。


 わたしとユーリくんは、強い絆で結ばれています。そしてユーリくんの方はわからないですが、わたしはユーリくんのことが、す、好きなのです。


 これ、誰にも言ってはいけませんからね!



 わたしのことも話しますね。


 生まれは、ワケアという小さな街の外れにある小さな村でした。狩人をしている父から弓を教わって、将来は自分も狩人として村で生きるのだと思っていました。

 そんな時、村を訪れたすごい魔法使いのお姉さんであるリゼさんと出会い、外の世界が見たいと思って一緒に旅に出ることにしました。


 結局、リゼさんはものすごいバカで、魔法使いとして優れているのは一緒にいた使い魔のコータさんだというのは村にいた間に知ったのですけど。

 一応、リゼさんもすごい人ではあったのですけど、それはそれです。リゼさんはバカなので、ちゃんと躾けてあげないといけません。


 コータさんは、元々こことは違う異世界から来た人間だそうです。その世界を、コータさんは地球と呼んでいました。魂だけこちらに召喚されたので、リゼさんの持っていたぬいぐるみの中に入って使い魔として生きることにしたそうです。


 旅に出てすぐ後に、ユーリくんと出会いました。


 ユーリくんは、カイさんという年上のお兄さんと一緒に旅をしていました。

 ワケアの街の隣の村で出会ったわたしたちは、そこで起こった事件に巻き込まれたのをきっかけに、その後も一緒に旅をすることになったのです。全員で、冒険者ギルドに登録をして仕事をしながらの旅です。


 その旅の中でも、いろんな事件があって、ついに国を揺るがすような大きな陰謀すらも阻止することになったのですけど、そこの話は長くなるので割愛しますね。

 とにかく、わたしとユーリくんはその旅の中で親交を深めていったのです。深まっているはずです!



 さて、大きな事件が終わった後も旅は続くのですが、みんなどこに行きたいかの意見が分かれてしまいました。


 カイさんが、一度故郷に戻りたいと言いました。そしてユーリくんも同じように、故郷であるワーウルフの里に行ってみたいと言ったのです。

 順番に行けばいいとは思うのですが、これはチャンスです。別行動にしましょうと、わたしは言い張ったのです。


 ユーリくんとふたり旅ができる、絶好の機会ではありませんか!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ