時を刻む針
お裁縫、苦手です。
12までの数字がふられた盤を
静 動 静 動 ぎくしゃく動きやがるおまえが
コマごとに 時を刻むのだとしたら
そんなのが針のすべきことなのかよって
おれはちょっと渋い顔をさせてもらう
おまえには針として足りないものがある
そりゃたしかに 針のくせして
突くでも 刺すでもなく
切り刻んでやろうって根性が
気に食わねえといやあ 気に食わねえが
おまえには針として足りないものがある
わかんねえか?
おしえてやろうか?
やっぱり もったいぶってやろうか
そいつは穴だ
おまえは針のくせして
糸をとおす穴があいてやがらねえ
ふつうなら穴だらけのやつのほうが よっぽどぽんこつで
おれくらい穴だらけになると
まるで 網目みたいになっちまって
だきしめようとした いろんなものが
すりぬけてくままになるのを
そのうち あきらめなくちゃならなくなるんだけど
おまえには穴が必要だ
おまえは針のくせして
糸をとおす穴があいてやがらねえ
コマごとに 刻んじまった時を また 縫いあげて
過去から 未来へが きちんと繋がった
映画のフィルムみたいになってられるようにするのが
12までの数字がふられた盤を
ぎくしゃく動きやがる針よ
おまえのすべきことじゃあないのか
時計の針であるおまえのすべきことが
時を刻むことではなく 縫いあげることだとしたら
おれにたくさんあいてる穴でよければ 好きなやつを
おまえにくれてやれたらなって おもってみたりする
ミシンのドドドド! が、チェーンソーみたい。