星降る奇跡~ファミリータイズ
「お父さんのウソつき! 大っ嫌い!」
とあるマンションのリビングで、唯ちゃんの声が響きました。
「す、ごめんな……」
言われたお父さんは頭をかいて、そう謝ります。
「もうしらない」
唯ちゃんはリビングを飛び出して、行ってしまいました。
「はぁ、こんなんで大丈夫なのかな」
そう声を漏らしたお父さんは、リビングの端に置かれた仏壇の前に行き、手を合わせて前に座ります。
仏壇には去年に事故で亡くなった、唯ちゃんのお母さんの写真が飾ってありました。
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「もう、もう。お父さんのバカ、がんばって練習したのに」
クラスのお遊戯会に来てくれなかった事が悲しくって、唯ちゃんはベットの上で足をばたつかせます。
「お父さんは、私なんて好きじゃないんだ」
自分で言って悲しくなった唯ちゃんは、ベットから立ち上がり窓の外を眺めました。
その時、星が輝いて落ちていきます。
(流れ星だ~)
その輝きに目を奪われて、唯ちゃんは星を見ることにしました。
(また、落ちた。そうだ、願い事を言えばかなうって、ママが言ってたんだ)
唯ちゃんは目を閉じて願います。
お母さんに会えますように。
強く、強く願いました。
ふと、風を感じた唯ちゃんは、目を開きます。
先ほどまでいた自室ではなく、何故か川のほとりにある花畑に立っていました。
「ここ、どこだろう?」
不安にな気持ちで、きょろきょろと辺りを見回します。
「唯? どうして……」
後ろから聞き覚えのある声がして、勢いよく唯ちゃんは振り向きました。
「え? ママ? ママー」
突如目の前に現れた母に、唯ちゃんは泣きながら駆けよって抱きつきます。
「あらあら、どうしたの?」
お母さんは優しく微笑んで、頭を撫でて聞きました。
「お部屋にいたのに、流れ星にお願い言ったら――ここにいたの」
「そう、それは驚いたね」
お母さんは優しく頭を撫でながら、唯ちゃんをギュッと抱きしめます。
「でも、ママに会えてうれし」
「ふふ――でも、ここは来てはいけない場所なのよ」
「どうして?」
唯ちゃんがお母さんの顔を見上げて、小首をかしげて聞きました。
「ここは、死んだ人が住む場所なの」
「でも、私……お母さんと一緒にいたい」
「ダメ! 唯ちゃんがお婆さんになったら、ここにまた来れるからね?」
お母さんは寂しそうな顔で、そう言います。
「でも、ママが一人ぼっちになっちゃう」
「唯は優しいわね……でも、ここにいたら、パパが一人ぼっちになっちゃうわよ?」
「お父さん――知らない。噓つきは嫌いだもん」
顔を膨らませプイッと顔を背けて、唯ちゃんはそう言いました。
「唯? ダメよ? お父さんは唯のことを思って、頑張っているんだから」
「そんなことないもん。今日だって約束を破ったんだよ? 私の事、嫌いなんだよ――ママ?」
ギュッと抱きしめられ、唯ちゃんは不思議そうな声を出して、言葉を詰まらせます。
「違う、違うのよ。唯……パパはね、本当に楽しみにしてたはずよ」
膝から崩れるように座り、耳元で泣きそうになるのを抑えながら、お母さんはそう言いました。
「ママ? 泣いてるの?」
心配になって唯ちゃんは少し顔を離して、そう聞きます。
「ごめんなさいね。そうだ、少しついてきて」
お母さんは立ち上がって、唯ちゃんの手を引きました。
「え? う、うん……」
顔を腕で拭って立ち上がったお母さんの提案に、少し不安な気持ちになりながらも唯ちゃんはついていくことにします。
手を引かれて着た場所は、すぐそばの川の前でした。
「ここはね、星が役目を終えて眠る場所なのよ」
「え? わぁ~、綺麗……」
中を覗くと不安を忘れてしまうほどの、綺麗な輝きが見えます。
遠くから見た時は水に見えていたのに、近くで見ると小さな宝石のような輝きの岩が無数に流れているのが分かりました。
「でしょ? それにここはね、見たいものを見れる場所でもあるの」
唯ちゃんの笑顔に嬉しそうに、お母さんは笑みを浮かべます。
「見たいもの?」
「そう、こうやって手を入れれば――」
お母さんは説枚するよりも見せたほうが早いと思って、川に手を入れました。
すると星がキラキラと輝いて、何かが浮かび上がり始めます。
「お父さん?」
浮かび上がってきたお父さんの姿に、唯ちゃんは不思議そうな声を出しました。
「そうよ。流れる星が残った力を使って、大切な人の姿を見せてくれるの」
「でも、ここの星はお休みしてるんだよね?」
星を見ながらそうお母さんに聞きます。
「そうよ……最後に残った力で、私達が寂しくならないように見せてくれるの」
お父さんがペコペコと、頭を下げました。
「どうして頭を下げてるの?」
「早く帰るために、お願いして回っているのよ」
お父さんは額の汗を拭いながら、書類を終わらせていきます。
でも次から次から、机の上に書類を置かれるので終わりません。
「何でお父さんを、みんなでいじめるの?」
少し怒ったような声で、唯ちゃんはお母さんに聞きます。
「ふふ、いじめてるんじゃないわ。お父さんは少し偉いから、頼られるのよ」
「でも、どうしてこんなに急いでるの?」
「これは、今日の様子ね。発表会に行くためじゃない」
お母さんは当たり前でしょと、言わんばかりの顔で言いました。
「そうだったんだ……」
唯ちゃんは食い入るように、お父さんの姿を見つめます。
書類を終える寸前、ちらりと時計を見て笑みを浮かべました。
今から出れば、間に合いそうだからです。
書類整理を終えたお父さんが出口に向かう途中、新入りの子が怒鳴られているのを見つけました。
お父さんが声をかけ、頭をかいてまた席に戻って、パソコンをカタカタとし始めます。
「本当に、優しい人なのよ」
お母さんは、嬉しそうな声を出しました。
「そうだった。うん、お父さんは、ヒーローだもんね――」
唯ちゃんは、昔のことを思い出します。
迷子の子を助けて、誘拐犯と思われたり。私の忘れ物を届けに来て、警備員さんに取り押さえられた日の事を思い出しました。
「なんか、不器用? だよね」
唯ちゃんは楽しそうに、そうお母さんに笑いかけます。
「フフ、そうね」
お母さんも楽しそうに、笑いました。
お父さんがパソコンを閉じると、外では日が暮れています。
うなだれたような様子で席を立って、出口へと歩いて行きました。
「お父さん、こんなにも頑張ってくれていたんだ」
「そうよ、いつもそう。唯の事が好きで、守るために努力しているの」
何も見えなくなった星の川を見ながら、お母さんは唯の頭を撫でます。
「私、謝らなくちゃ!」
唯ちゃんは空を見上げて、そう声を出しました。
「じゃぁ、帰らなくちゃね?」
お母さんは立ち上がって、微笑みます。
「でもどうやって?」
唯ちゃんは辺りをキョロキョロと見て、そう聞きました。
辺りは花畑で、どうやって帰ればいいのか分かりません。
「大丈夫、大丈夫だから……星に願うの。そうすればきっと、帰れるわ」
安心させようと頭を撫でながら、お母さんはそう言いました。
「分かった。やってみる。でも、お母さんが……」
「ふふ、私はちゃんと見守っているから……ここで見てるから寂しくないわ」
自分を心配する唯ちゃんを強く優しく、撫で続けます。
「くすぐったいよ~。うん、じゃぁ、やってみるね」
唯ちゃんは目を閉じて、お部屋に帰してくださいと願いました。
ふわっと、体が浮く感じがして、柔らかい感触が唯ちゃんを受け止めます。
「ここは……あ、私の部屋だ」
目を開くと、自分の部屋に帰ってきたことが分かりました。
「お父さんー」
唯ちゃんはそう声を出しながら、リビングに向かいます。
その後、リビングから唯ちゃんとお父さんの楽しそうな声が、聴こえてくるのでした。
おしまい。
願い星は、きっと奇跡を起こします。子供に夢と家族の大切さを知ってほしくて書きました。
大人にもくすっとしてもららえるように工夫しましたです(笑)