ブラックな世界到来 8
高見沢治美が、ドレミヒーローの住まいに到着したのは、繰り返しになるが、カミーユが、ゾンビを出現させてから一時間ほどが過ぎたころであった。
高見沢治美は、ドレミヒーローのハロルド洸一や妻のハロルド奈津に伝えてあげたい情報を手に入れていた。
もちろん、良い情報である。
しかし、その情報が間違いであったりしたら、ドレミヒーローの夫妻をがっかりさせることになりそうなので、ハッキリとした確認がとれるまでは、その情報を二人に伝えないで置くことにしていた。
しかし、高見沢治美は、カミーユがゾンビたちを霊の世界から招き入れる様子を見たときに考えが変わった。
この情報だけは、一刻も早くドレミヒーローに伝えるべきである。
「なんで、こんなハッキリとことで、悩んでいたんだろう。手遅れにならなければよいが」
それとは、別に高見沢治美は、今回のドレミヒーローの出撃前に、ドレミヒーローにひとこと言ってやりたいことがあった。
「ゾンビ騒動から一時間が過ぎている、手遅れになってしまったかな? 」
このとき高見沢治美には、ドレミヒーローのアパートの彼らの部屋に、明かりがともっているのが見えた。
「急ごう!」
ドレミヒーローことハロルド洸一の住まいを、手短に表現すると、『木造モルタル二階建て、台所便所共用、風呂なし』の古風なアパートであった。建物の中の通路は、一階は土間に、なっていた。
アパートには、十部屋があり、間取りは、六畳と三畳の二間で、一応の生活用具以外は、ほとんど何もない部屋であった。落とし便所で、土間の炊事場にはコイン式のガスコンロが三台備えてあった。
アパートの名前は、「東風荘」と言った。
高見沢治美が、「東風荘」のドレミヒーローこと、ハロルド洸一の部屋をノックしょうした。
すると、誰かが高見沢治美に声をかけてきた。
「こんにちは、高見沢治美さん」
高見沢治美に声をかけてきたのは、ドレミヒーローのコスチュームに身を包んだ、ハロルド洸一であった。
「妻の奈津に御用ですか? 奈津は、今日は夜勤の日なので、夜勤に、そなえて部屋の中で休んでいます」
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少し前の事である。
ゾンビ騒動のことで、出撃に備え、河川敷の堤で待機していたドレミヒーローに、一度、自宅に戻って待機しているようにと、ヒーローアカデミー本部から指令が入った。
ドレミヒーローが、住まいのある『東風荘』に戻ってみると、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の部屋のドアの前に、立っていたのは、平安クリーンスタッフの社員、高見沢治美であったというわけだ。
高見沢治美は、昔、ドレミヒーローに、命を助けてもらったことがある。
高見沢治美は、ドレミヒーローに恩にきている。
高見沢治美は、ドレミヒーローと彼の妻、ハロルド奈津の面倒をあれこれと見ている。
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ドレミヒーローは、高見沢治美に建物の外で話を聞きたいと言った。
というのは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一はこの数日、質の悪い咳に悩まされていたからだ。
ドレミヒーローの咳は、止まらない。しかも、ゴホゴホゴホと質の悪い音をたてる咳である。
一方、ドレミヒーローの妻、ハロルド奈津は、物音に敏感な女性であった。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一がそばにいたのでは、この咳で妻のハロルド奈津が目を覚ましそうだったので、妻が休んでいるときはできる限り建物の外に出ていた。
そして、ハロルド奈津は、寝起きが非常に悪いので、無理に起こすのも良くないと考え、妻のハロルド奈津には、別れを告げずにソッとに出撃することにドレミヒーローは決めていた。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、今度の出撃は非常な危険が伴うとの報告を受けていたのだが。
同じ頃、ハロルド奈津は、嫌な予感で目が覚めた。
ハロルド奈津は、戸口の物音で誰かが訪ねてきていることを悟った。
ハロルド奈津が、布団から抜け出し、ドアからから、部屋の外の様子を探った時には、部屋の外には誰もいなかった。
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河川敷を一望する堤の小道まで、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一と高見沢治美は、やってきた。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一に移動するように、本部が指示してきている場所だ。
最初に、ドレミヒーローが出撃の命令を受けたのは、一時間ほど前のことであった。
それからは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一が、新しい命令を受けるごとに、待機の場所が何度も変更になっていた。
たとえば、堤、駅、そして、自宅などである。
「強い北風が身にしみるな」
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、そう呻くと咳き込んだ。
「ゴホゴホ」
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、高見沢治美に出撃命令がでていることを説明した。
「出撃する事になった。出撃命令が少し前に出たんだ。ことと次第では、コーヒーパーラー『ライフ』方面も危険だという話だ」
さらに、ハロルド洸一は、話を続けた。
高見沢治美の見るドレミヒーローこと、ハロルド洸一は、咳はヒドいが、いきいきとしていた。
出撃命令を前に気持ちが高ぶっているドレミヒーローこと、ハロルド洸一に、やる気に水を差してしまい、迷わせてしまいそうな情報をどう伝えたらよいのか高見沢治美は、考えてしまった。