ブラックな世界到来 5
「ゾンビたちが、都民についに牙を剥いた、このとんでもない事態に、(高見沢)治美さんは、驚かないで平気でいられるの? どうして? 」
そのような疑問が生じるのは、バンドマン ツヨシの率直な気持ちであった。
しかし、高見沢治美が、いまさら動揺したりしないのは、高見沢治美が、カミーユが引き起こした、この事件の発端をもっとも直接的に目撃した人間の一人だったからである。
振り返って見ると、高見沢治美が、その日コーヒーパーラー『ライフ』に立ち寄るまでの次第は次のようなものであった。
その日の朝、高見沢治美は、いつものように、稽古のために、「ヒーローズアカデミー」に早めに到着し、発声の練習を始めたのだ。高見沢治美は、自分の声がどこか本調子でないような気がした。
それは、歌って踊れるし、演技もうまいアクションスターを目指す高見沢治美にとっては声の問題は、他人には些細なことでも、本人には一大事であった。
高見沢は、稽古が終わって、コーヒーパーラーに向かう前に、コンビニに寄り、のど飴でも買っていくことに決めた。
「声の状態が大事にならないうちに、まず、先手を打つことが大事。私の美声に傷が入れば、私は一生後悔することになるわ」
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高見沢治美は、「ヒーローズアカデミー」の近くのコンビニに立ち寄った。
高見沢治美は、カミーユがゾンビ発生の大事件を引き起こした、その一部始まりをこのコンビニで目撃してしまったのだ。
高見沢治美は、その時の様子をコーヒーパーラー「ライフ」にいたバンドマン ツヨシに話した。
バンドマン ツヨシは、体調が優れないようすではあったのだが、高見沢治美の話に聞き入った。
高見沢治美のゾンビ事件に遭遇した話は、核心にいたった。
「カミーユが、この週刊誌をコンビニで食い入りような目で立ち読みしていたの」
「その顔がとても恐かったわ。カミーユは、立ち読みを終えると、カミーユは、なにかつぶやいていた、そして、読んでいた週刊誌を二つに引き裂いたのよ。カミーユの足元には、引き裂かれた女性週刊誌が何冊分か落ちていたのよ」
「カミーユは、コンビニを出ていったの。女性週刊誌一冊持っていた。カミーユは、それ以外なにも買わずに。カミーユの名誉の為に付け加えると、カミーユは引き裂いた女性週刊誌の分の代金もキチンと払ったいた。けど、あんな感情的なカミーユは、はじめて見たわ」
「コンビニを出るとき、カミーユの顔を見たの。カミーユは、泣いていたのよ」
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高見沢治美は、話を続けた。
「わたしは、心底心配になり、カミーユの後を付けた。カミーユは、歩きながら、何かを呟いていた。カミーユは、ベータミンDを使えば、呪文で、ゾンビを呼び出せるし、ベータミンEを使えば、ゾンビを使ってそれ以上のことだってできるはずだ。わたしにそう話してくれたことを思い出したの」
「とても嫌な臭いがしたの。わたしは、あたりを見渡してみたの、そしたら、あれが空を覆っていたのよ。やっぱり。そして、風が吹き出し嫌な臭いが強くなっていた」
「すると、ゾンビが、一匹、一匹とあらわれはじめたの。はじめは、うっすらとして影のようにしか見えなかった。しだいにゾンビたちは、ハッキリ見えるようになった。でも、あのゾンビたちは、とても違和感があった。それにあのゾンビたちの行動は統率がとれていた。兵隊のように。ゾンビたちの不快な臭いも、わたしの知っているゾンビたちのとは、まったく違っていたわ」
高見沢治美は、ここで少し間を置いた。
そして、高見沢治美は、続けた。
「カミーユが、ゾンビを呼び出したとすぐに分かったわ」