ショータイム 8
カミーユの操るゾンビたちとの闘いの序盤においては、ドレミヒーローは持てる実力を発揮した。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬たちは、ドヤ顔で、男と化け物の闘いを見守っていればそれでよかった。
「道中、メシ抜きで、ドレミヒーローストレスたまりっぱなしの状態を保てたのは、良かった」
「ドレミヒーロー、今回は、十分に頼りになりそうだ」
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬の自画自賛が止まない。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬の口元には、「シメシメ」という表情が浮かんだ。
ついに、ドレミヒーローとカミーユが操るゾンビたちとの闘いはだんだんと激しさを増していく。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬は、ドレミヒーローに対して行っていた空腹のストレスで、ドレミヒーローを奮い立たせる作戦を違った視点で強化した。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬は、ドレミヒーローにとって、トラウマとなっているドレミヒーローの人生のエピソードを活用して、ドレミヒーローにさらなるストレスをかけ、ドレミヒーローをさらに煽り、ドレミヒーローの戦闘力を最大限引き出そうというのである。
この日のために、ドレミヒーローの自伝的エピソードが、収集されてきた。
専門の心理療法士がドレミヒーローに繰り返し面接し、ドレミヒーローの心の闇に何度も踏み込み、ドレミヒーローのトラウマとなっている自伝的エピソードが、注意深く収集されてきた。
「おまえの自転車、盗んだのはあの列の先頭のゾンビだ!」
「ワンワン司令」は、ためしに、最新型パワースーツを着用したドレミヒーローを煽ってみた。
するとこれが、効果てきめんで、ドレミヒーローは、カミーユの操るゾンビたちを百体くらい一気に倒したのだ。
ドレミヒーローの脳裏に悪い思い出が蘇る、走馬灯のように、そして、ドレミヒーローを苦しめた。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬は、その効果に今さらながら大満足の様子だった。
彼らは、さらに、ドレミヒーローを煽ってみた。
「ガムのたべかすで、一張羅のズボン、ダメになったことあったよな。だれが犯人だったかわかるかい? そう、援軍の中にいるから、捜してみなよ」
ドレミヒーローは、さらにカミーユが操るゾンビたちの百体くらいの隊列を一気に、殲滅した。その威力は、めざましすぎて、「ワンワン司令」も少し恐くなった。
しかし、「ワンワン司令」は、ドレミヒーローを煽るのをやめなかった。
「アルバイト先で、給料持ち逃げされたときの恨みを思い出せ……。その犯人は……」
こんどは、これだけで十分だった。最新型パワースーツのドレミヒーローは、都庁舎の背後で待ち伏せしていた百人体のゾンビを一掃したのだ。
このようにして、瞬くうちに、ドレミヒーローと「ワンワン司令」の一行は、カミーユの操るゾンビたちの本体に迫ってきた。
ここまでは、ヒーローズアカデミーこ陣営の思っていた通りの展開であった。
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一方、ゾンビ軍の別働隊が、カミーユの狙いである滝ケートと、一之条隼人に迫りつつあった。
これが、闘いの流れを変えることになった。
カミーユは、滝ケートと一之条隼人のことを考え続けているうちに、激しい嫉妬心でカミーユの精神が高揚していった。
カミーユの精神が高揚するに連れて、カミーユの操るゾンビたちが力を発揮しだした。
形勢は、一気に逆転した。
カミーユが、関わってきた新薬ベータミンDも真価を発揮し始めた。
カミーユは、ここを一気に勝負を決するチャンスと考えた。
カミーユは、ドレミヒーローに向けて、ラスボス的ゾンビを投入した。
しかし、カミーユとしては、このラスボス的ゾンビを投入したのは大失敗であった。
このゾンビは、何百人分の悪人の魂の集合体からできあがったものである。
であるから、その大きさも、桁外れだった。ドレミヒーローの行く手をふさぐ、巨大ビルという風情だった。
カミーユは、これで勝ったと思った。
ぞれは、カミーユの間違いだった。
ドレミヒーローは、ゾンビのラスボスのなかに、見覚えのある何かを見いだしたのだ。
その点は、カミーユの考えにはなかった。
ドレミヒーローは、立ち止まり、そのラスボス的ゾンビを見ながら、よく考えてみた。そして、そのゾンビに組み込まれている悪人の魂のなかに、なんちゃってドレミヒーロー時代の自分を陥れたあの男の魂があるのに気づいたのだ 。
むこう男の魂も、ドレミヒーローのこと覚えており、ドレミヒーローに気がつくと、ドレミヒーローのことをバカにして大笑いを始めた。
「ドレミヒーローよ! ヒーローという割りには、想像力が欠如しているね」
「ひとに刺激してもらわなければ、自分のやる気が起きないなんて、無限のエネルギーが最終兵器とか言っているけど、ありもしない無限のエネルギーとか無気力すぎるドレミヒーローの言い訳に過ぎないでしょう」
少しばかり調子に乗りすぎた敵の煽りに、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一に対して、「ワンワン司令」の二匹の犬が懸念を表明した。
「あいつら、やりすぎだろう。無限のエネルギーの本当の恐さを知らないと見える」
ハロルド洸一は、すでに外部からの刺激に頼らずとも、自らを自虐的に刺激することによって、自分のエネルギーを手に入れていた。しかし、これは、限度がすぎると『ぼうそう』ということになる。
『ぼうそう』とは、自虐的な自分責めを継続していくうちに自分で自分が制御できなくなり、ドンドンと過激なエネルギーが体内に蓄積されていくことである。
この過剰な『内向エネルギー』は、しばらく前にはピークに達していた。それが、ラスボス的ゾンビのあおりのせいで、ドレミヒーローの『内向エネルギー』の量を示すメータの針は、振り切れてしまった。
結果、そして、ドレミヒーローが文字通り切れてしまった。
ドレミヒーローは、パワースーツを通して、人類では初めて無限のエネルギーにプラグインしてしまった。
「ドレミヒーローが無限のエネルギーにプラグインしてしまったぞ」
この無限のエネルギーは、エイリアンハーフのノエル君の故郷、エイリアン王国から、岡寺のぶよの脳を経由して送り込まれ、都庁近辺に蓄積されていたエネルギーである。
この無限のエネルギーは、カミーユのゾンビたちが勝利して、世界征服を達成して強力な地球王国が誕生し、エイリアン王国に対抗してくるのを未然に防ぐため、カミーユ暗殺のために送り込まれたものであった。
この無限のエネルギーは、ドレミヒーローのパワースーツがプラグインすることにより、パワースーツの電磁砲を起動させるというカラクリになっていた。
「ワンワン司令」の二匹のロボット犬がつぶやいた。
ドレミヒーローは、無限のエネルギーにプラグインしているとも言うことは、それは、恐ろしい結末につながってしまう。
というのも、ドレミヒーローのパワースーツは、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターが指摘していたように、バグだらけの欠陥ガジェットであったからだ。
ドレミヒーローの欠陥ガジェットが、無限のエネルギーにプラグインしたらどんなことになるだろう?
地球の歴史においては、実際にそうなったことはないが、どういうことになるかは、容易に想像がつきそうなものであった。
「ワンワン司令」が背負ってある携帯端末のパネルのランプとサイレンが警告を発していた。
冷静対応を促す "Don't panic!(動転無用) " のランプが点り、次に激しく点滅し始めた。
二匹のロボット犬はすぐに自分たちが置かれている状況を理解した。
二匹のロボット犬は懸命に走り始めたのだが、一刻も早く、この場から逃れようというのであった、しかし、時すでに遅しであった。
間もなく、恐ろしい爆風が、町を飲み込んだ。ワンちゃんも巻き込まれてしまった。
「キャイーン、キャイーン」
「ワンワン司令」のロボット犬は、子犬のように鳴いた。
最終章に続く




