世界征服 3
ドレミヒーローが闘いに望むに、あたって定番のルーティーン(セレモニー)が存在していた。
決闘、決戦の場においては、そんなセレモニーとか行う余裕などは、存在するわけがない。
確かに、そういう考え方も存在して不思議ではない。
しかし、そもそも決闘、決戦というものには、その前提として、膠着状態、にっちもさっちもいかない状態というものがある。
それを打破するために、ものの白黒を付けるために決闘、決戦が行われるものである。
考えてみれば、決闘、決戦は静の状態からスタートする。たいていは、睨み合いからスタートするものである。
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☆前口上☆
行商の豆腐屋のラッパが、信じられないくらいの数の録音の豆腐屋のラッパが、吹かれ、スノードームの屋根に反射し、あちこちで鳴り響く。
豆腐屋たちは、ヒーローズアカデミーを支援する会の会員が多く、ドレミヒーローなどの出撃を町に知らせるのに協力的であった。
ドレミヒーローは、闘いの前口上のプリントアウトをポケットから取り出すと音読を始めた。
ドレミヒーローの声は、確固とした意志を反映し、そして、力強さが増していった。
そして、ドレミヒーローの声は、スノードームに響き渡った。
ドレミヒーローこと、ハロルド洸一にも、輝いていた時代があった。
このセレモニーの前口上は、その輝いていた時代の名残であった。
(ドレミヒーローの前口上の内容は次の通り)
昔はアイドル~、『ナンチャッテヒーロー』♪
夢見てヒーロー
僕らのヒーロー
ヒーロー♪、ヒーロー♪
大人を見つめる目。
絶対に裏切ってしまうことのないように。
正義が、何者にも勝ると言うこと。
あっと驚く出来事であること。
それは、夢を持つことなのです。
忘れないでいてほしい。
耐えて戦い! つかむぞ!
僕らの未来。
『ナンチャツテヒーロー』
魔法の本を手に入れるまで~♪
ドレミヒーローが前口上のいつもの決めセリフを言い終える。
ドレミヒーローが闘いに向かおうとしていると、スノードームのあちこちに設置されたスピーカーから懐かしい『ナンチャツテヒーロー』の主題歌が聞こえてきた。
『ナンチャツテヒーロー』とは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の愛称である。
『ナンチャツテヒーロー』主題歌
(1)
夕日に輝く 摩天楼
あいつが正義~ 最後の砦
ウエイトキック スーパーバスター
繰り出す ヒーロー
僕らのアニキ
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
夢がある!
(2)
耐えてつかむぞ 勝利のV~!
守れ! 僕らの理想郷!
町にはびこる
デーモン ゾンビ
悪いヤツらに負けないぞ
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
君がいる!
(3)
N のマークに込めたる
誓い! 輝け 正義・!
いつかは、つかもう
本当の 勇気
父さん・ 母さん・
マドンナさん!
俺のふるさと 守り抜く
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャツテヒーロー!
ナンチャッテヒーローの僕がいる!
* *
『ナンチャツテヒーロー』の主題歌が町に鳴り響くと、町の子どもたちが、スノードームの中の広大な世界に押しかけて来た。
非常事態の宣言が行われ、家や避難施設に閉じこもっているように強制されていた子供たちは、エネルギーを持て余していた。
子どもたちが、『ナンチャッテヒーロー』の替え歌を歌いだした。
子どもたちは、ドレミヒーローこと、ハロルド洸一の姿を見つけたのだ。
子どもたちの替え歌の内容は、ドレミヒーローの黒歴史を揶揄 するようなものであった。
「ゾンビとの戦いの中で起きた忌まわしい事故!」
「ゾンビを求めて、裏道。表道」
「敵を求めて、裏道。表道」
替え歌には、「ワンワン司令」という、二匹づれのロボット犬も登場した。
「困ってしまってワンワンワンワン」などと歌われた。
「貧しさ故に、お腹が空きすぎて、『ナンチャッテヒーロー』のズボンが落ちる!」
「ある時は、スッポン太郎」
子どもたちは、ドレミヒーローについてのディープな知識に通じていた。
子どもは、ドレミヒーローとゾンビ菌の関わりや、ドレミヒーローの惨な人生を替え歌で指摘するのを好んだ。
何度も繰り返すようで申し訳ないが、念のためにもう一度確認しておきたい。
この頃には、ゾンビについては、世の中で、正反対の評価も存在していた。
そして、ドレミヒーローを取り巻く環境は、この一年くらいで極端に変わった。
パワースーツを着たヒーローは、どんなヒーローだって、子供たちから、絶対的な尊敬を勝ち得ていたのに、いまでは、そうでもなくなった。
ドレミヒーローのようなゾンビ菌に感染したヒーローにたいしても、子どもたちは理解を示し始めた。
たとえば、ゾンビが大好きとかいう子供がいても、それが理由で、いじめられるというようなことはなくなった。
しかし、それでもドレミヒーローの場合は、志が非常に高いのに、ゾンビ菌のせいか子供にバカにされている立場であることは変わりなかった。